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第60階層 切り札連発

涼「大富豪で切り札を取っておいたら、革命されてゴミ札に」


 強力な冒険者パーティーとエレンが激突する。

 個人的な戦闘力はエレンの方が圧倒的に上なのに対し、冒険者パーティーは上手く連携を取り、実力で勝るエレンと互角に渡り合っている。


『私が前に出るので、前衛二人は後退。回復をしてもらいなさい』

『『了解!』』


 指示による入れ替わりはスムーズで、女騎士がエレンを押さえているうちに、さっきまで前衛だった二人は治癒魔法で回復する。

 妨害しようにも女騎士の立ち回りが上手く、後方からの援護も的確だから上手く回復を妨げられない。

 そうしているうちに治療が終わり、回復した二人は戦線に復帰。

 治癒魔法を使った魔法使いは、すぐに魔力を回復させる薬を飲んで次に備えている。


「なかなか隙が無いな」

「はい。見事な連携です」


 こういう状況の場合、勝負は拮抗が崩れた時に決まる。

 その切っ掛けでよくあるのは体力切れ。

 これに関しては、無限の体力を誇るアンデッドであるエレンの方が有利。

 その次にあるのはミスだけど……。


(ミスは期待しない方がいいな)


 相手の連携や戦闘における動きは、完璧と言っても過言じゃない。

 とてもミスを期待できる相手じゃない。

 やっぱり向こうの回復の手段が無くなるまでの持久戦しかないか?

 でもエレンは攻撃型に鍛えたから、防御はそこそこ程度。

 身に着けた鎧と持たせた盾でカバーはしているけど、あれだけの相手に通用するだろうか。


『今だ、撃てっ!』

『フレアシャワー!』


 女騎士が指示すると同時に前衛が下がり、後衛から強めの魔法がエレンに降り注いだ。


『ぐぅっ!』


 魔法を盾で防ぐエレン。

 さっきから主な攻撃は魔法で、前衛は回避と防御に専念して足止めをしている。

 しかも魔法はアンデッド系が苦手な火魔法や光魔法ばかり。

 いくら防いでいるとはいえ、それなりにダメージはあるはずだ。


『このまま確実に削る。最後まで気を抜くな!』

『はいっ!』


 押しているからか、女騎士からそんな言葉が出た。

 確かに状況は向こうに押されている。

 それでも油断する素振りすら見せないんだから、敵ながら大したもんだ。


『くっ。ダークボール!』


 エレンが闇魔法で反撃に出る。

 空中に生み出された複数の闇の球体が、前衛の冒険者達へ迫る。

 でもそれも、後衛の魔法使い達が展開した防御魔法に阻まれてしまう。

 すぐさま斬りかかるけど、前衛にいる大盾持ちに防がれた。


『おぉぉっ!』


 防いだ隙に男の剣士が剣に炎を纏わせ、斬りかかってきた。

 エレンはそれ盾で防ぐ。

 あの剣、魔法を使ったわけでもないのに炎を纏ったから、そういう効果のある武器なんだろう。


『今だ、行くぞ!』

『はい!』


 女騎士と斧を持った戦士が前衛に加わって攻勢に出た。

 上手い連携で攻撃を次々に繰り出され、エレンは防戦一方になってきた。

 このままだとエレンまでやられる。

 こうなったら出し惜しみせず、切り札の一つを許可しようと決断して指示を出そうとしたら、エレンが前衛の攻撃を防ぎながら叫ぶ。


『やるな、貴様ら。ならばこちらも、相応の対処をさせてもらう!』


 そう言って、盾を持つ手に付けている二つの指輪のうちの一つに魔力を込めていく。

 こっちが指示する前に切り札を使うか。

 まあいいだろう、危ない時は指示を待たずに自分の判断で使えって言ってあるし。


『いくぞ! ダークネスフィールド!』


 エレンが叫ぶと指輪から黒い霧が噴き出て、室内に広がっていく。

 相手は警戒して距離を取り、口と鼻を袖で押さえる。

 霧はそのまま広がり続け、やがて部屋全体に充満して噴出が止まった。

 だけどそこまで濃い霧じゃないから、双方とも相手の姿は見える。


『なんだこの霧は。全員、異常は無いか?』

『いえ、吸っても特に異常はありません』

『全員の状態の解析完了。状態異常、能力低下、何一つ見受けられません』


 解析まで使って調べるとは徹底してるな。

 だけどそれは毒霧とか目晦ましじゃないから、状態異常や能力低下を調べても無駄だ。


『濃さもさほどではない。稚拙な目晦ましだな』

『油断するな! これほどの魔物が、何の意味も無くこの霧を撒くはずがない!』


 その通りだけど、もう遅い。

 既に霧はその空間に充満しているからな。


『いくぞ!』


 今度はエレンから仕掛けた。

 迫る速度はさっきまでより明らかに速い。


『これはっ!? くっ!』


 速さに反応できたのは女騎士だけだった。

 仲間の前に出て盾を構え、振り抜かれた剣を受け止める。

 伝わる一撃の衝撃はこれまでよりも強く、苦い表情を浮かべる。


『はあぁぁっ!』


 気合いを込めた声を上げながら、エレンは剣で女騎士を押す。

 押し負けた女騎士は盾を弾かれるも、数歩の後退で堪えて反撃する。


『ふっ!』

『甘い!』


 鋭い反撃を盾で受け流し、カウンターのように蹴りを浴びせた。

 女騎士も咄嗟に体を動かして防具で受けたけど、衝撃で後方へ転がっていく。

 追撃をかけようとしたエレンだけど、その前に女騎士の仲間達が立ち塞がる。


『ここは俺達が! 早く回復を!』


 さっきは速さに反応できなかった前衛陣が、代わる代わる攻撃を仕掛けてくる。

 なるほど、絶え間ない攻撃で反撃の隙を与えないつもりか。

 その間に後衛の魔法使いが女騎士を回復させているけど、これまでよりずっと時間が掛かっている。


『どういうこと? 回復が遅くなってるし、魔力の消費も多くなってるわ』

『まさか、この霧のせいか?』


 どうやら霧の効果に気づいたか。

 この霧を生み出した闇魔法の「ダークネスフィールド」の効果により、霧の中で光魔法を使うと発動時の魔力消費量が増えて、効果と威力は減衰してしまう。

 逆に闇魔法の魔力消費量は少なくなり、威力と効果は増幅する。

 さらに霧の中にいるアンデッド系の魔物は、身体能力が向上するおまけ付きだ。

 だからエレンは速く強くなって、光属性の回復魔法は効果が弱くなって魔力の消費量が増えた。

 欠点は霧の中にいないと効果を発揮しない点だけど、フロアリーダーの間のような密閉空間なら、室内を霧で満たして欠点を補える。


「しかし、あれを使うことになるとはな」


 「ダークネスフィールド」の魔法はエレン自身が使える魔法じゃない。

 発動前に魔力を注ぎ、霧を噴出したあの指輪、「魔封の指輪」に封じておいた魔法だ。

 前に倒した冒険者から入手したこの指輪は、中に封じておいた魔法を任意で発動させられる。

 ただしそのためには、封じた魔法と同じ属性の魔法スキルを習得していなくちゃならない上に、本来の発動に必要な魔力の倍の魔力を指輪へ注がなくちゃならない。

 その代わり、現在の熟練度では使えない魔法であっても条件を満たせば発動が可能だから、切り札としてある程度の需要があるらしい。

 ならばこちらも切り札として利用しようと、ダンジョンギルドに強力な闇魔法の使い手を紹介してもらい、金を払って「ダークネスフィールド」の魔法を封じてもらった。

 そうした備えのお陰で、形勢はエレンに傾いた。


『ダークランス!』


 これまでより強力な闇の槍が複数現れ、冒険者達を襲う。

 それをどうにか避けようとしたけど、一本が大盾持ちの脚を貫く。


『うぐっ!?』

『いかん! 私が出るから、その間に治療を!』


 守りの要が負傷したから女騎士が動いた。

 まだ治療が終わっていないと魔法使いが制止するのを振り切り、前衛に加わってエレンの攻撃を防ぐ。


『はあぁぁぁっ!』

『ぐっ、うっ!』


 まともに攻撃を受け止めないよう、剣や盾に角度を付けて威力を受け流しているものの、完全に攻撃を無力化している訳じゃないから、ダメージは確実に蓄積していく。

 しかも回復が中途半端だから表情が苦しそうだ。


『ルイーナさん!』

『私に構うな! 私の盾と意思は、この程度では砕けない!』


 なんか崇高っぽいことを言ってるけど、別に盾や意思を砕く必要はない。

 砕かずとも勝つことはできるし、そこにルイーナって女騎士の信念があったとしても、こっちは知ったことじゃない。


『くらえ、我が渾身の一撃を!』


 盾を前面に構えての体当たり。

 いわゆるシールドバッシュでエレンにぶつかってきた。

 普通なら相手を吹き飛ばすほど強烈な一撃なんだろうけど、今回は相手が悪い。

 なにせエレンは、仲間と連携することでようやく押せていた相手だ。

 いくら勢いをつけて全体重をかけた一撃でも、たった一人でどうにかなるはずがない。


『ふんっ』


 全身に力を入れたエレンは盾で攻撃を受け止め、僅かばかりも押されずに耐えてみせた。


『そ、そんなっ!?』

『残念だったな!』


 渾身の一撃を受け止められた女騎士は驚き、エレンに押し返されてよろめくように後退する。

 そこへ再びエレンによる猛攻が襲い掛かる。

 仲間が援護しようとしても、大盾持ちがいないため上手く守り切れていない。


『ルイーナさん、今行きます!』


 おっ、回復を終えた大盾持ちが戦線に復帰した。

 守りの要が復帰した事で向こうに安定感が戻ったものの、戦闘そのものはこっちが押している。

 向こうは前衛を入れ替えながら回復し、後衛からの援護もあるものの、「ダークネスフィールド」の効果で回復が思うように進んでいない。

 薬も使っているけど、量に限りがあるからか、使うのを躊躇っている節が見受けられる。


『はあぁぁっ!』


 魔力を込めた剣をエレンが振り抜くと、剣の効果で無数の闇の刃が前衛へ向けて放たれる。


『アイスウォール!』


 後衛にいる魔法使いが氷の壁を作って前衛を守った。

 光魔法以外は普通に発動できるから、さっきから回復以外には光魔法以外を使っている。

 そうやって即座に対応する点はさすがだけど、向こうは全員がだいぶ弱ってきた。

 女騎士でさえ肩で息をして、盾も防具も傷だらけになっている。

 消えていく氷の壁越しにエレンを警戒しつつ、全員の様子を見た女騎士が指示を出す。


『これより撤退する。私があの魔物を押さえている間に、全員転移石で地上に転移しろ!』


 おっと、撤退指示を出したか。

 でも、そうはいかないぞ?


『あ、あれ? 転移できない?』

『ルイーナさん! どうやらここは、転移妨害区域のようです!』

『何っ!?』


 転移できないから慌ててるな。

 実はある程度のランクに達すると、転移石の効果を妨害できるようになる。

 ただし、階層全体に妨害効果を及ぼすことはできないし、地下四階層以下でないと使えないんだけどな。

 現在うちのダンジョンでは、四階層以下のフロアリーダーの間にだけ設置している。

 要するに、階層のボスから逃げるのは許さないって訳だ。


『逃がしはしない! 貴様らに倒された魔物達のため、我が剣の錆となれ!』


 エレンが魔力を込めながら剣を横に振り抜く。

 さっきは闇の刃を大量に出しだけど、今度は巨大な闇の刃を一つだけ放った。


『いかん、避けろ!』


 女騎士の指示で本人を含めて五人がしゃがみ、三人がジャンプで回避する。

 だけど大盾持ちは受け止めようとして、盾ごと体が真っ二つになった。


『……あっ?』


 その一言と驚愕した表情を残し、大盾持ちは胴体から真っ二つになって地面を転がり、数回の痙攣の後に絶命した。


『アニキイィィィッ!』


 弟なのか剣士の一人が大盾持ちへ叫ぶ。

 余所見とは余裕だな。


『まだまだぁっ!』


 エレンは何度も剣を振り抜き、巨大な闇の刃を複数飛ばす。


『避けろ! 全て避けきれ!』


 女騎士がそう叫ぶものの、そう簡単にできるはずがない。

 特に前衛より運動能力が低い後衛の魔法使い達は、四苦八苦しながら避けている。

 やがて一人の魔法使いが左腕を斬り落され、さっき叫んでいた剣士も脇腹を斬られた。


『あっ、ぐっ』

『ぎゃあぁぁっ!? よ、よくもぉ』


 蹲って憎らしい目でエレンを睨む剣士。

 でもそいつは、次に飛んできた闇の刃で顔を真っ二つにされて死んだ。


『いつまでも……調子に乗るな!』


 次々と襲い来る闇の刃を避けつつ、女騎士は盾に魔力を込める。

 すると盾から黄緑色の透明な障壁が広く展開され、仲間達を闇の刃から守った。

 へえ、あの盾にはああいう効果があるのか。

 だけどもっと早く使わない辺り、何かしらの欠点が有るんだろうな。


『ルイーナさん、それは魔力の消費が大きいはず!』

『三人も仲間がやられた以上、最早なりふり構ってられん! なんとしてもあの魔物を倒し、ここから撤退するぞ!』


 やっぱりあの効果には欠点が有ったか。

 でも障壁の防御力自体は強力で、どれだけ闇の刃が当たっても亀裂一つ入らない。

 そうして防いでいる間に、左腕を斬り落とされた魔法使いがもう一人の魔法使いから治療を受け、他のメンバーも攻撃に転じるタイミングを計っている。


『ふむ、なかなか厄介だな。ならば……』


 何度やっても通じない様子に、エレンは闇の刃を飛ばすのをやめた。

 次はどうするのかと見守っていると、さっきとは別の指に嵌めている、もう一つの「魔封の指輪」に魔力を込めだした。

 おいおい、そっちも使うのか。


『攻撃が止んだ。一気に行くぞ!』


 そう叫んでから数秒後に障壁は消え、女騎士を先頭に前衛が突っ込み、後衛は援護のために火魔法を放つ。


『させん!』


 剣を振るって火魔法を切り捨て、前衛の攻撃を盾で捌く。

 その間にも「魔封の指輪」へ魔力を注ぎ続け、それが終わると強く剣を振って前衛を下がらせる。


『くくくっ、これで終わりだ』

『何?』

『見るがいい、ベリアライズ!』


 発動した闇魔法「ベリアライズ」により、エレンは「魔封の指輪」から湧き出た闇に飲まれた。

 この魔法は、発動者を一時的に闇の化身へと変化させる。

 闇属性との相性が良いほど強力な存在へと変化して、持続時間も長くなる。

 どんな姿になるか予想がつかないけど、アンデッド系のエレンは闇属性との相性が抜群だから、かなりの魔物に変化するはず。

 加えて「ダークネスフィールド」で効果が増幅されているから、さらに強力な存在になるだろう。

 だけどこの魔法、効果が切れて元の姿に戻ってしばらくは、全ての能力が十分の一に下がるから持続時間が切れる前に勝負をつける必要がある。


『あ、あれは?』

『分からんが止めろ! 何か拙い!』

『分かりました! アイスショット!』


 魔法使いの一人が闇に包まれたエレンへ向け、魔法を放つ。

 だけど魔法は闇に阻まれ届かず、前衛陣が武器を振るって攻撃しても闇に阻まれてエレンまで届かない。

 やがて変化が終わり、闇が弾けて衝撃波が拡散する。


『うぉっ!?』

『くっ』


 その衝撃波で女騎士以外は後方へ吹っ飛び、何度も床を転がる。

 唯一転倒しなかった女騎士は盾を構えて堪えたものの、勢いに押されて後方へ下がっていた。


『はあぁぁぁっ……』


 闇の中にいたエレンの姿が徐々に見えてくる。

 その変化した姿は、渡していた剣と盾はそのままに、鎧が元の形状よりずっと禍々しくなっていた。

 頭に被っている仮面の呼吸口から白い息が吐かれているけど、中の姿はどうなっているんだ?

 見てみたいけど、なんだか恐ろしい気がして見ない方がいい気もする。


「すぐに今のエレンを調べろ」

「は、はい」


 調べてもらっている間に冒険者達の様子を見てみると、向こうも戸惑っていた。


『なんだ? 姿が変わった?』

『なんか、ヤバくね?』

『全員、防御と回避の準備を。無暗に突っ込むな』


 女騎士の指示は正しい。

 詳細の分からない相手に対し、無暗に突っ込むのは良くない。

 でもこっちからしたら、誰か一人でも突っ込んでほしい。


「ご主人様、調べ終えました。こちらになります」


 魔石盤で詳細を調べていたミリーナが、情報を見せてくれた。




 名称:フォールダウンアビスナイト・ファントム 新種

 名前:エレン

 種族:アンデッド(アークデーモンゾンビ) 新種

 スキル:剣術 盾術 防御力上昇 闇魔法 闇無効

     光耐性 火耐性 暗黒魔法 死霊魔法

     攻撃力上昇 身体能力超上昇




 なんでこんなのになるんだ!

 闇の化身どころか、魔王みたいなのに変化してるだろ!

 スキルもやたら増えてるし、苦手な火や光にも耐性がついているし!

 いくら一時的な変化とはいえ、こんなのになるなんて予想外もいいとこだ。


「うわっ、能力値も凄く上がってますよ……」

「それが従魔覚醒の影響で、とんでもない事に……」


 本当だ、エリアスの言う通り能力値がとんでもない数値になってる。

 こんなのと戦う冒険者達、ご愁傷様。


『うわあぁぁっ!?』


 いつの間にか戦闘が再開されていて、目にも止まらぬ速さで移動したエレンの剣で、後衛の魔法使いの一人が体を貫かれていた。

 すぐさま剣を引き抜くと、迫りくる剣士の攻撃を回避しながら後方に回り込み、今度はそいつの首を一閃して跳ねた。

 ていうか動き速っ!?

 身体能力超上昇ってあったけど、あんなに速く動けるのか。

 飛来する魔法を素早く避けて二人目の魔法使いを一撃で倒し、恐怖心で動けなくなっていた斥候職らしき女を盾で殴り、動きの速さに付いて来れず首を振るだけの女騎士達へ魔法を放つ。


『ヘルブラスト!』


 空中に複数の黒い球体が現れて、そこから漆黒の波動が四方八方に放たれる。

 女騎士は盾を構えて辛うじて耐えたけど、他の冒険者達は悲鳴を上げながら波動に飲み込まれて倒れる。

 あれが暗黒魔法か?


『み、皆!』

『後ハ、オ前ダケ、ダ!』


 なんか喋り方がカタコトになってるけど、あれ本当に大丈夫か?。

 剣先を突きつけられた女騎士は、恨みの籠った目でエレンを睨んでいる。


『まだだ。仲間達のために、最後まで諦めん!』


 全身に魔力を纏う様子から、最後の勝負をかけようとしているのが分かる。

 それに対して怯みも動揺もしないエレンは、倒した冒険者達へ死霊魔法を使った。


『蘇レ、アノ女ヲ倒セ』


 倒された仲間達がゾンビ……いや、あれはグールか?

 とにかくアンデッドとして蘇って女騎士へ襲いかかる。

 それを見た女騎士は、当然ながら激高する。


『きっ、さまあぁぁぁっ! よくも仲間を!』


 女騎士が上げた憤怒の叫びにもエレンは反応せず、アンデッドになって襲い掛かる仲間達と戦う女騎士へ向け、暗黒魔法を使う。


『ダウナードレイン』


 発動した魔法により黒い球体が現れ、元仲間達と戦う女騎士は球体に包まれた。


『くそっ、なんだこれはっ!?』


 球体内から脱出しようと剣や盾をぶつけても、脱出できそうな様子は無い。

 そうしているうちに抵抗は弱まっていき、女騎士は崩れ落ちてうつ伏せになり、そのまま動かなくなった。


「あの魔法は?」

「えっと……どうやら対象から魔力と体力を吸い取る魔法のようですね。吸い取った二割分、使用者の体力と魔力を回復させるようです」


 ということは、女騎士は体力切れと魔力切れで気絶しているだけか。

 その女騎士はエレンの指示により、アンデッド化された元仲間達の手で育成スペースへ運ばれている。


「しかしエレン、いつになった戻るんだ?」


 変化してから割と早めに戦闘が終わったから、もうしばらくはあのままだろう。

 なお、エレンが元の姿に戻ったのは、この三十分後だったりする。


「主様、あの女騎士の扱いはどうしますか?」

「そうだな……少し尋問してみるか」

「尋問、ですか?」

「だって、いくつものダンジョンを攻略した冒険者のうちの、一人なんだろう?」


 もう一人の大盾持ちは死んじゃったけど、指揮を執っていた女騎士の方があいつよりも立場は上のはず。

 だとしたら、それ相応の情報も持っている可能性が高い。


「あいつから所属先の情報を引き出して、それを売った方が有益だと思わないか?」


 自分のダンジョンを攻略されないよう、高い金を払ってでも情報を仕入れようとする奴は多いだろうからな。

 情報が無かったら無かったで、戦力か金づるとして有効活用すればいいだけだし。


「柊君、凄く悪い顔で笑ってるよ」

「そりゃあ、上手くいけば大金を得られるからな」


 収入が多くなれば皆への給料を上げられるし、生活費は確保できるし、貯蓄は増えるし、運営ための資金も増える。

 正に良いこと尽くめじゃないか。

 それに、また「ダークネスフィールド」と「ベリアライズ」を封じてもらうため、相応の金も必要だし。


「良い考えだとは思いますが、尋問は誰がするんですか?」


 むっ、そう言われればそうだ。

 自分で言った手前、どうするか悩んでいたら居住部と繋がる扉が開いた。


「ローウィさん、交代の時間です」


 交代に来たリンクスを見て閃いた。


「なあリンクス、新しい玩具を欲しくないか?」

「はい?」


 尋問というより拷問になりそうな気はするけど、まっ、いっか。


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