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第59階層 襲来せし強者

涼「目つきが悪いせいか、子供の頃は遊ぶ時に大抵悪役やらされていた」


 私の名はルイーナ、冒険者をやっている。

 自慢するつもりが無くとも自慢に聞こえるかもしれないが、国内では最も大きくて有名なクラン、月下の旅団のサブリーダーだった。

 しかしこのクランは、リーダーとサブリーダーである私はともかく、他のメンバーの質はさほど高くなかった。

 それでも私とリーダーの指揮能力で強力な魔物を討伐し、ダンジョンをいくつも攻略してきた。

 変化が起きたのは、数ヶ月前。

 リーダーが、人数はうちに及ばないものの、団員に実力者が集まるクラン、ワイルドセイバーズのリーダーと手を結んだ。

 団員の質を高めたいうちと、実力者はいても指揮能力と連携に欠けていた向こうの思惑が一致したらしい。

 こうして新たなクラン、トリニティアルが誕生した。

 反発は勿論あったが、リーダー二人によって反発は一先ず治まった。

 いずれ再燃するだろうと思ったが、リーダー達はそれを予想していたのか、双方を組ませての戦闘を何度も行った。

 そうしているうちに、元月下の旅団の団員達は向こうの質の高さに触発され修行に励み、向こうは私とリーダーの指揮能力と団員達の連携の上手さに感心して連携を学び始めた。

 後は時間と共に軋轢は解消され、みるみるうちにより高い成果を挙げていく。

 私もトリニティアルのナンバースリーとしてサブリーダーの一人に就任し、選抜した団員達を連れていくつかのダンジョンを攻略した。

 そして今日、新たな任務が月下の旅団時代からのリーダーと、元ワイルドセイバーズのリーダーで、今はトリニティアルのチーフサブリーダーから告げられた。


「流通都市付近の山に発生した、ダンジョンへの遠征ですか?」


 リーダーに呼ばれて部屋を訪れた私に言いつけられたのは、ダンジョンへの遠征。

 それ自体は別に珍しい事じゃない。

 クランの名を広め、運営の資金を得るため、ダンジョンや魔物の住処へ遠征に行くのはよくあることだ。

 しかし、流通都市付近の山にあるダンジョンといえば、少し話題になっているダンジョンだったはず。


「知っているとは思うが、あそこは低級の魔物であっても何故か強い上に、妙に上手い連携を取る」

「それでいて、入手できる魔物の素材はやたら品質が良く、通常の何倍もの値で取り引きされている」

「それを狙って多くの冒険者が挑んでいるらしいが、命を落とすか何もできず逃げ帰る者も多いとのことだ」

「生きて帰った冒険者からの情報は、ここにまとめてある」

「人員の選抜は君に任せる。ただし、人数は十名までだ。別の遠征やら何やらで、それが限界なんだ」

「出発は明後日。人員の選抜はそれまでに頼む」

「承知しました!」


 返事をした私はすぐに人員の選抜をし、その者達へ遠征に向かう連絡をして準備を整える。

 今話題のダンジョンだけに、一度挑んでみたいと思っていたところにこんな話とは、幸運なことだ。

 これも日頃から真面目にやってきた私への、天からの褒美なのだろう。

 上機嫌で準備をする、この時の私はまだ知らなかった。

 あのダンジョンへ行くことになったのは、天からの褒美どころか地獄からの誘いであるという事を。




 *****




 噂のダンジョンへ行くように指示を受けてから数日。

 選抜したメンバー八人を伴い、私達は件のダンジョンへ向かう馬車に乗って移動する。

 道中の獣や魔物を倒し、野営をしながら数日かけて辿り着いた。

 ダンジョン前にはちょっとした宿場町が広がっており、冒険者ギルドや小規模の商店、飲食店、宿屋が数件建っている。

 確か、この辺りの領主が開拓したという報告があったな。

 冒険者以外の人も大勢いて、思ったより賑わっている。


「ルイーナさん、宿の確保ができました」

「ご苦労。ではギルドに向かい、ダンジョンの情報を集めよう」


 ギルドにはダンジョンの情報が集められ、マッピングによる地図や魔物の情報を集めた資料が売られている。

 冒険者の中には、そういう情報を集めてギルドやクランに売る事を生業にしている奴もいるほど、情報というのは貴重なものだ。


「失礼。ダンジョンの地図と情報を売って欲しいのだが」


 受付にいる、小太りの若い男性職員に用件を告げる。

 胸元のネームプレートには、サクラダとあった。

 顔の作りと名前の感じからして、異国人だろうか。


「承知しました。現在確認されている全階層の地図と、判明している全ての魔物の情報でよろしいでしょうか?」

「それで頼む」

「料金は銀貨五枚になります」


 こういった物の値段は、攻略が難しければ難しいほど値段が上がる。

 銀貨五枚はそれなりにある方だから、攻略は困難と判断されているようだ。


「分かった。銀貨五枚だな」


 仲間が支払った料金を確認した職員は、丁寧に頭を下げた。


「確認しました。では、資料を持って参りますので、少々お待ちください」


 ふむ、なかなか丁寧な対応をする職員だな。

 これまでに多くの職員を見てきたが、男性職員のほとんどは少し横柄かおざなりな対応をするのが多い。

 それに比べると、あの男性職員はしっかりしていて好感を持てる。


「お前達、今のうちにダンジョン内の情報を聞き込みしてきてくれ」

「分かりました」


 指示を受けた仲間達が散って、周囲にいる冒険者達へ声をかける。

 ギルドが保有している情報だけでなく、ダンジョンへ入った経験のある冒険者から情報を得る。

 これもまた、攻略と生き残りのために必要な手段だ。


「お待たせ致しました。こちらになります」


 職員が持って来た地図は数枚で、魔物の情報についての書類は結構多い。

 なるほど、量だけでも銀貨五枚するだけの事はある。


「確かに受け取った。お手数をかけた」

「いいえ、これが仕事ですから。あっ、一つよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「個人的な相談なのですが、柊涼という名前の人に会った事はありませんか?」


 ヒイラギリョウ?

 聞いたことが無いな。


「いや、知らないな。友人か?」

「同じ故郷の友人です。彼もこの国に来ているはずなんですが、情報が全く無くて」


 少し寂しそうな表情を見るに、その人物は彼にとって大事な友人なのだろうな。


「分かった。もしも出会えたら、君の事を伝えよう」

「ありがとうございます」


 礼を言われるのは、どんな事であっても気分がいい。

 それから私も聞き込みに加わり、ダンジョンの情報を集めていく。

 こうして集めた情報を共有し、対策を練るために宿へ場所を移して打ち合わせを開始する。


「ふむ。内部は隆起した岩で動きが制限されているのか」

「足場は水浸しで、しかも底は泥になっているのね」

「魔物は壁、天井、水中にも潜んでいるみたいです。加えて、索敵が阻害されていると」

「魔物の中にナイトバッドがいたな。こいつじゃないのか?」

「そいつが仲間とやり取りする時に出すという音波は、索敵を阻害するんだったわね」

「アンデッド系もいるのか。しかもゾンビ系に噛まれたら絶対に死亡し、すぐにゾンビ化する? どういう事だこれは」


 一部詳細がよく分からない情報もあるが、おおよその情報の整理はできた。

 どうやらこのダンジョンで厄介なのは、魔物もそうだが足場にもあるとみた。

 水浸しの上に底が泥では、寝転がる事はおろか座って休むことすら満足にできないだろう。

 冒険者の間では階層主と呼ばれている、階層毎にいる強い魔物と戦う部屋は必ずしも水浸しではないようだが、充分に休むためには階層主を倒さねばならない。

 休みなしで移動し戦った直後で階層主と戦闘をするのはできれば避けたい。

 充分な休みを取ればいいのだが、その休むための場所がこのダンジョンの通路には無い。

 通常よりも強い魔物がいるのに休めないとは、なんとも性格の悪いダンジョンだ。

 しかしそれは、なんとしても冒険者に攻略させまいという、強い意思のようなものが感じ取れる。

 もしもこれが人工的に造られたのだとしたら、そいつはよほど性格が悪いか、そうまでして守りたい何かがあるのか。

 まぁ、ダンジョンが人工的に造られる訳がないがな。


「ルイーナさん。どうかしましたか?」

「いや、何でもない。それより、今夜はゆっくり休んでおけ。明日から攻略に入る」

『はい!』


 集められる情報を可能な限り集め、入念な打ち合わせをして対処法を検討する。

 こういった地道な活動をしっかりやってきたからこそ、私達はいくつものダンジョンを攻略してきた。

 さあ、あのダンジョンも攻略してくれよう。




 ****




 今日も普段通りに仕事をしていたら、やたら早いペースでダンジョン内を移動しているパーティーがあった。

 気になったから映像を出させたら、奇襲してくるキラーアントやロックスパイダーを軽々と葬っていく。

 まだ一階層目で、ウチの魔物の中での強さはさほどではない魔物を配置しているとはいえ、これまでで一番早いペースで進んでいる。

 スローゴブリン達の投石も防ぎながら進み、水中にいるスライムやパラライズスネークは予め展開していた魔法の防壁で防ぎ、マーメイドの魔法にもちゃんと対応している。

 どうやらこのパーティーは、このダンジョンを徹底的に調べて、充分な対策を練ってきたようだ。

 それくらいなら今までの冒険者達もやってきただろうけど、こいつらは個人個人の戦闘力が今までの奴らより格段に強い。


「どうやら、かなり厄介そうなのが来たみたいだ」

「警戒レベルを上げますか?」

「……向こうはまだ、体力にも魔力にも道具にも余裕がある。魔物達には悪いが、もう少し消耗させたい」


 とはいえ、ある程度強い魔物を当てて消耗を早めないと、魔物に被害が出る一方だ。


「第一階層のフロアリーダーをファントムフォックスに変更。さらに第二階層の魔物達を、一段階上の魔物へ変更する。第一階層の魔物達はもう間に合わないから、そのままだ」


 これで追い返すか倒せれば儲けものだけど、そうはいかない気がする。

 キメラゾンビ部隊、変形部隊、ミュータント部隊、それとパンデミックゾンビ達で対応できなければ、今は休憩中のロードン、パンプキンレプナント、スカルウルベロス、エレンといった主力を動かす必要があるかもしれない。


「第三階層には変形部隊を数体配置、パンデミックゾンビ達も準備させておけ。それとミュータント部隊は、今のうちに交代させて休ませておいてくれ」


 指示を出しながら映像を見ていると、問題のパーティーはもうすぐ第一階層のフロアリーダーの間に到着しそうだ。

 思ったよりも早い。

 おまけに魔物の素材が目的じゃなくて、攻略そのものが目的のように最短ルートで移動している。


「ご主人様、第二階層の魔物達はこれでよろしいですか?」


 魔物の配置を確認して、少し修正を加えることにした。


「この中に、この前新しく召喚したアレも加えておいてくれ」

「えっ? アレ、ですか?」

「うん。アレ」


 アレと言いだした途端、女性陣が表情を引きつらせた。

 まあそうなるだろうな。

 向こうは九人中、約半数の四人が女だから効果はあるだろうと思って、アレを選んだ。

 イーリアから聞いた話だと、生理的にアレが嫌ですぐに逃げ出す女冒険者は多いらしい。

 ここまで言えばもう分かるだろう、アレの正体がなんなのか。


「では、サイレントコックローチを配置しておきます」


 サイレントコックローチ。

 つまりはゴキブリだ。

 しかもこいつは、走っても飛んでも音がしない。

 おまけに毒を持っているし、体表の油分で物理攻撃の威力を緩和させる。

 素早いし奇襲部隊に使えると思って召喚した途端、居合わせた女性陣が悲鳴を上げて司令室に逃げたのは記憶に新しい。


「アレは嫌、アレは嫌、嫌だよぉ……」


 よほど嫌いなのか、普段の威勢の良さが香苗から消えた。


「安心しろって、実際に対峙して戦うのはあいつらだから」

「そういう問題じゃねぇって! なぁっ!」


 香苗の叫びにこの場にいる女性陣、エリアスにミリーナに戸倉にローウィが凄い勢いで首を縦に振る。

 俺だって嫌いな方だけど、別に逃げ出すほどじゃない。

 だって逃げたら叩き潰せないだろ?


「さてと、こいつはあいつらに通用するかな?」


 大丈夫な奴は、本当に何とも思わず叩き潰すからな。

 そして結果はというと――。


『いやあぁぁぁっ!』

『こんなのがいるなんて、聞いてなあぁぁぁいっ!』


 悲鳴を上げながらも武器を振るって、次々とぶった斬っていた。

 討伐証明の剥ぎ取りは男の仲間にやらせているけど、遭遇したサイレントコックローチは倒している。

 でも嫌なものは嫌なのか、斬った後は足場の泥水で武器を洗っていた。


『ふぅ。まさかサイレントコックローチが出てくるとはな』

『うぅぅ。自慢の武器がこれの体液に……』


 リーダーらしき女騎士は平然としているのに対し、他の女冒険者三人は武器を手拭いで何度も拭いている。

 どうやらあまり効果は無かったようだ。

 無駄死にさせたみたいですまない、サイレントコックローチ達よ。

 お前達の死体は、後でパンデミックゾンビ化させて活用するからな。


「しかし、こいつら強いな」


 第二階層に配置した魔物達も難無く倒して進んでいき、あっという間にフロアリーダーの間に到着している。

 部屋に入る前にはちゃんと回復しているし、連携も抜かりが無い。

 こう油断も隙も無いんじゃ、追い返すのですら一苦労しそうだ。


「た、大変です、主様!」

「どうした」


 慌てた様子のローウィが、画面を指差す。


「あの中に二人、最近いくつものダンジョンを攻略している冒険者がいます!」


 はぁっ!?


「マジか!」

「はい! ちょっと気になって調べていたんですが、外見的特徴は一致します!」


 なんだよそれ、やけに強いと思ったらそういう事かよ。

 だったら、もう様子見も出し惜しみもしない。

 ここからは総力戦だ。

 あいつらは今、第二階層のフロアリーダー、変形部隊所属のサイクロプスパンダゴーレムと戦っている。

 無理に勝てとは言わない。仇は取ってやるから、もう少し時間を稼いでくれ。


「第三階層からは警戒レベルを最大にする。ロードンやパンプキンレプナント、エレンにも準備をさせろ」

「了解」

「パンデミックゾンビ、キメラゾンビ、ミュータントゾンビ、変形。各部隊の主力級を配置しろ。他の魔物達も同様だ」

「第三階層のフロアリーダーはどうします? 現在はデッドリー・マンティスコーピオンですが」

「そこは……スカルウルベロスを配置しろ。全力で叩き潰せと伝ておけ」


 あいつが負けたら、本当にロードンやエレンじゃないと倒せない。

 パンデミックゾンビの物量でも、どうだろうか。

 とにかく、考えられる最善の手を打つしかない。

 それからしばらくして、善戦はしたけどサイクロプスパンダゴーレムがやられた。

 あいつらは第三階層に移動して、そこに配置しておいた魔物達との戦闘に入る。


『おいおい! なんかさっきまでの魔物より、急に強くなってないか!?』


 そりゃそうだ。同じ倍数でも、元の数値が違えば差は歴然となる。

 今は六倍だから、さっきまでの階層が一で、今の階層が五だとすれば、六の次が三十になったということ。

 急に強くなったと思うのも当然だ。


『臆するな! これまで通りにやれば、決して倒せない相手ではない!』


 指揮を執っている女騎士が仲間を落ち着かせ、連携の指揮を取って魔物を倒していく。

 こっちもダメージは与えているけど、後衛の回復役の腕がいいのか、負傷で離脱してから復帰するまでの時間がかなり短い。

 こういった点もまた、攻略に一役買っているんだろう。

 魔力の回復用の薬も持ってきていて、タイミングを見計らってそれを飲んでいる。

 こういう時は回復役を先に潰せばいいんだけど、当然向こうも分かっているようで、守り手を付けたり魔法使いが防御魔法で攻撃を防いだりして回復役を守っている。


「なるほど、いくつものダンジョンを攻略してきただけの事はある」


 感心している場合じゃないんだけど、つい感心してしまう。


(消耗を待つのは、ちょっと難しいか?)


 結構な数の収納袋を持ち込んでるし、中身が全部回復系の道具だったら厄介だ。

 それに加えてあの強さと、こっちの魔物への対策具合。

 これは早々に仕掛けないと駄目だ、向こうが知らなくてとんでもない一手を。

 となると、やっぱりロードンを投入するしかないか?

 あいつと戦った冒険者は全員死んでいて、途中で離脱できた奴もいない。

 確実に相手を倒すなら、こいつしかいない。


(第三階層は……今からじゃ、もう間に合わないか)


 配置するとしたら第四階層だな。

 でも本当にいいのか? こんな早く出して。

 いくら回復の備えをしているとはいえ、疲労が溜まらないはずがない。

 肉体的には薬でどうにかなっても、精神的な疲労の回復は薬じゃできない。

 それを待ってもいいんじゃないのか?


(……駄目だ、考えがまとまらない)


 頭の中がこうなったら、一人で考えちゃ駄目だ。


「皆、もうロードンを投入すべきだと思うか? それとも、もう少し待ってみるべきだと思うか?」


 立場上、弱気なのは良くないと分かっているし、迷うべきじゃないのも分かっている。

 でも確実にあいつらを倒すには、先手を取って動くべきか、あくまで予定通り疲労と消耗を待つべきか。

 どっちも正しいような、間違っているような気がして決まらない。

 だからこそ、皆に聞いてみた。


「ヒイラギ様が思うようになさってください。それで攻略されたとしても、私は恨みませんし、ヒイラギ様も後悔しないでしょう?」


 先陣を切ったのはエリアスだった。

 普段通りの笑みでそう言ってくれると、何を迷っているんだと少し冷静になれる。


「私達は柊君を信じる。応えるのは大変だと思うけど、ここを今まで支えてきたのは間違いなく柊君だから」

「ここは涼が作ってきたんだろう? だったら鍛えてきた魔物や、自分の判断を信じろよ」


 続いて元の世界から一緒だった香苗と戸倉。


「私達が何を言っても、最終的に判断するのは主様です。どうかご自分を信じてください」

「奴隷の俺が言うのもなんですけど、本当なら奴隷はご主人様の言うことに従うだけなんです」

「それなのに判断をさせてくれるのは、ともて嬉しいです。ですから、私達は判断しました。例え失敗に終わろうとも、ご主人様に付いて行きます」


 ローウィもフェルトもミリーナも、全員俺の判断任せか。

 信じるって聞こえがいいけど、信じられる側は結構辛いもんだ。

 でもお陰で思い出したぜ、それを承知でここまでやってきたのを。

 だったら、この迷いは自分の策への自信の無さか。

 変な所で安定志向に走るとは、つくづく日本人だな俺は。

 それが悪い訳じゃない。悪いのは、自分も信じられなかった俺自身だ。


「分かった。予定通り、疲労と消耗を待つ。戦力をありったけ出せ。補充は随時行うから、出し惜しみするな」

『はい!』


 いい返事が返ってきた。

 自信を持って言うか言わないかだけで、こうも違うものか。


「さあやろうか。こいつらは、ここで終わりにしてやる」


 気持ちが変われば腹も括れるもので、さっきまでと判断に対する気構えが違うような気がする。

 例えこれまで鍛えてきた魔物達が倒されようが、ダンジョンフロア・オブ・ザ・デッドを力技で突破されようが構わないと思っている。

 最終的に倒すか追い返せばいいんだから、どうにか奴らを消耗させてくれ。

 そうした気持ちでいる間に三階層の攻略は進み、スカルウルベロスとの戦いが始まった。

 さすがは初期からここにいただけあって、戦いは熾烈で一進一退。

 押しきってくれと願ったものの、その願いは届かなかった。


『グアッ……』


 最後にそう鳴き残して、スカルウルベロスは逝った。

 ああ、お前まで……。


(落ち込んでいる、場合じゃない!)


 スカルウルベロスとの戦闘で、向こうは大分道具を消費した。

 休憩後を挟んで次の階層も進んで行くけど、侵攻速度は明らかに落ちている。

 どうやら疲労も蓄積しているようだ。


「次の階層で一回目の勝負をかける。変形部隊とミュータント部隊の一部を階層内に配置、フロアリーダーはエレンでいく」


 ダークネスナイトゾンビのエレンは切り札の一つ。

 こいつを投入する事は、本当に勝負時だと判断してのことだ。

 皆もそれを分かっているようで、真剣な表情で操作をしながらダンジョン内の様子を見守っている。


『はぁっ!』

『前の二人は下がれ! ここは私が出る!』


 動きのキレは明らかに鈍っているのに、このまま攻略するつもりなのか撤退する様子は無い。

 だったらこっちも追い返すんじゃなくて、倒す方向で対応してやる。


「エレン、準備はできてるか?」


 配置に着いたエレンに声を掛けると、画面の向こうで力強く頷いた。


『お任せください。主より頂いたこの剣と盾に誓って、勝利してみせます』


 どっちも倒した冒険者から回収して、使えそうだからエレンに渡しただけなんだけど、まあいいか。

 今から戦闘だし、ポジティブに捉えているのならそれでいい。

 そうしている間に、件のパーティーがフロアリーダーの間の前へ到着した。

 この部屋にいる魔物を倒したら、この中でしばらく休息を取ろうと言っている。

 やっぱり疲労しているな。叩くなら今がチャンスだ。


(頼むぞ、エレン)


 俺達が見守る中、エレンがいる部屋の中にあいつらが足を踏み入れる。

 広い部屋の中央の立つエレンを見て、即座に武器を構えた。


『よくぞここまで来た、侵入者共よ! いざ尋常に勝負!』


 喋りながら剣先を向けて斬りかかると、あいつらは初めて動揺を見せた。


『喋っただと? まさか名前付きの魔物か!?』

『全身鎧に剣と盾って、まるで騎士じゃない!』

『しかも女の声だぞ』

『そんな事より避けろ!』


 喋ったエレンに動揺が生じ、回避が遅れる。

 直撃は避けられたものの、盾を持つ男と斥候らしき男に剣が掠めた。

 動揺が広がる隙を突いて先手を取ったように見えるけど、直後に女騎士の声が室内に響き渡った。


『落ち着け! 名前付きとて恐れるな! これほどの奴が出た以上、このダンジョンの攻略はもうすぐだ!』


 斬りかかるエレンの攻撃を盾で受け止め、声を張り上げる姿に動揺は収まっていく。


『最初の正念場はここだ。力を振り絞れ! 行くぞぉ!』

『おぉぉぉっ!』


 女騎士の号令に、声を張り上げる。

 だけどこっちだって負けられないんだ。

 さあ、勝負だ。


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