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第44階層 これが戦闘現場か

涼「喧嘩はしたことあるけど、比べ物にするのが間違ってる」


 スカルウルベロスの背に乗り、ロードン達を引き連れて町中を駆け抜ける。

 俺達の上を数体の飛翔する魔物が通過して、アグリへブレスや魔法を放っているけど、通じているようには見えない。

 それ以外にも、巨人のようなゴーレムが押さえつけようと掴みかかり、バカでかい虎の魔物がアグリへ圧し掛かって噛みつく。


「えぇい! 邪魔を……するなぁ!」


 怒り狂った叫びと共に、周囲に向けて刃状の岩が大量に放たれた。

 放たれた岩はゴーレムの腕を斬り落とし、虎の魔物の頭部と腹部を切り裂く。

 刃は空中にいる魔物達にも襲いかかり、数体が翼を損傷して墜落する。


「避けろ!」


 墜落してきた大きな鳥の魔物を回避する。

 周囲に土煙が立ち上り、視界が奪われたため一時足を止めさせる。


「アァァァァァァッ!」


 視界が晴れると、アグリがネジ状の岩を作り出して螺旋回転させながら放っていた。

 特に目標も定めず放ったのか、軌道が滅茶苦茶で無差別極まりない。

 って、やばい。二つほどこっちへ飛んできた。


「回避だ!」


 スカルウルベロスの体を蹴って方向転換させる。

 岩は数メートル先の地面へ突き刺さり、回転で半分ほど埋まって止まった。


「あいつ、あんなに魔法使えるのかよ」


 それだけあの体に馴染んできたってことか。

 動きもどんどん良くなっていて、ダンジョンマスター達による魔物の軍勢が苦戦している。

 デカいだけでも脅威だってのに厄介だな。


「主君。今ので道が」


 だいぶ言葉が流暢になったエレンが、岩が突き刺さった衝撃で家屋が崩壊し、道を塞いでしまったのを指摘する。


「迂回、いや……」


 迂回なんかしていたら、到着するまでにだいぶ遠回りをすることになる。

 一刻も早くあそこへ行かなくちゃならないのに、遠回りしている余裕は無い。

 どこかに近道はないか? どこかに……あった!


「屋根を伝って行くぞ! エレン、お前もこっちに乗れ!」

「はい!」


 返事をしたエレンもスカルウルベロスへ跳び乗り、俺の後ろへ跨る。

 そしたらスカルウルベロスとボーンベアタウロスは屋根へ飛び乗り、パンプキンレイスとロードンは同じ高さに浮かぶ。

 所々崩壊していて飛び移れない場所はあるものの、これでほぼ一直線にアグリの下まで行ける。


「これでいける。行くぞ!」


 掛け声と共に駆け出し、魔物達と戦うアグリの下へと向かう。

 そういえば、オバさんは無事だろうか。



 ****



 まるで悪夢のようじゃ。

 アグリの愚行が、まさかこれほどの事態になるとは。

 どれだけ攻撃してもほとんど効かず、足止めをするので精いっぱいじゃ。

 いや、この調子じゃと足止めすらままならなくなる。

 こうしている間にも共に戦う者達が傷つき、倒れて戦力が低下しておるのじゃから。


「ロウコン様、このままでは」

「分かっておる!」


 リコリスの言いたい事は我とて分かっている。

 このままではいずれ、足止めさえもできなくなり戦線が崩壊する。

 どうにかしたいが、どうにもできん。我の全力の魔法を浴びせても、奴には焦げ跡一つつかんのじゃから。

 おまけに時間と共に、動きが良くなって魔法も使いだした。

 アグリが得意とする土魔法が、地龍の化石と一体になったせいか凄まじい威力になっておる。


「カアァァァァッ!」


 耳が張り裂けそうな叫びに誰もが動きを止め、耳を塞ぐ。

 おのれ、これだけデカいと声だけでも十分に武器となるのか。


「隙ありぃっ!」


 今の叫び声で動きを止めたところへ、魔法で岩石を数発放ちおった。


「うわぁぁっ!」

「ひいっ!?」


 岩石の向かう先にいた者達が悲鳴を上げて逃げようとするが、間に合わんかった。

 嫌な音が聞こえ、巨大な岩石の下には押し潰された肉体と、流れ出る血液が地面に広がっていく。


「こんのぉっ!」


 魔法で巨大な炎の球を作り、それを両手の間で小さく圧縮して火力を上げる。

 色が赤から青へと変わった炎の球を放つと、結晶体を守る肋骨に命中した。

 しかし肋骨には小さな焼け跡を付けられただけで、さほどダメージを受けておらん。


「ロウコン! 貴様、よくも私の体に傷を!」

「ちぃっ!」


 小さいとはいえ傷跡を付けられたアグリは激高して、さっきの岩石を同時に五発も放ってきおった。

 これは防ぐことも、相殺することもできん。


「リコリス、逃げろ!」

「はっ!」


 傍にいたリコリスに声をかけ、我自身もその場から逃げる。


「おぉぉぉぉっ!?」


 どうにか直撃は避けられたものの、岩石が直撃した家屋から破片や物が飛び散ってきおった。


「ちぃっ!」


 九本の尻尾を駆使して飛んでくる物を防ぐ。

 いくつかは防ぎきれなかったものの、幸いにも小さな破片や物が主体じゃったから大きな怪我は無い。

 そう思った直後じゃった。


「あぐぅっ!」


 飛んできた何かを尻尾で弾いた直後、一本の尻尾に強烈な痛みが走った。

 その尻尾を見ると、大きな切り傷がついて出血しておった。

 何か刃物でも弾いてしまったか?


「くっ……力が……」


 九尾の狐にとって尻尾は力の象徴。

 尻尾が傷つくと脱力感を覚え、思うように体が動かなくなる。

 まだ一本じゃからなんとかなるが、これ以上傷つくと戦闘に影響しかねん。


「ロウコン様、治癒を!」

「そんな暇は無い。来るぞ!」


 巨大な尻尾が家屋を薙ぎ倒しながら迫ってきおる。

 何人か吹っ飛んでおるが、それを気にしている場合ではない。

 早く逃げないと、我らも危ない。


「ぬあっ!」

「はっ!」


 力の入らない体でどうにか回避したものの、戦線は崩壊しつつある。


「くっ、このままでは」


 戦っている人数もいよいよ危うくなってきた。

 恐怖感から逃げ出す者もいて、もう足止めすらできていない。

 侵攻するアグリの背を見ながら、悔しさがこみあげてくる。

 いくら相手が理不尽な力を持っていたとしても、最後まで諦めずに戦う。

 そう決めていたのに、いざ戦ってみればこのザマで、諦めという言葉が何度も頭にチラつきおる。


「どうする、どうする……」


 他所のエリアへの緊急連絡は、既に逃げたハンディルが既にやってくれているじゃろう。

 じゃが、全てのエリアの総力を結集しても、今のアグリを止められるのか?

 何かもっと根本的な解決方法を取らんと。


「アオォォォン!」


 なんじゃ?

 遠吠えのような獣の声が聞こえた直後、何かが我とリコリスの横を駆け抜け、アグリに飛びかかって噛みついた。

 って、ちょっと待て。なんでアレがここにおる。


「なっ!? 何故、魔物のガイアウルフがここに!」


 そうじゃ、アレはガイアウルフ。

 ランク六で召喚できる獣系の魔物じゃが、それがどうし――ハンディルの奴か!


「なるほど、その手があったのじゃ」


 あいつめ、緊急事態宣言で一部の制限を解除したのか。

 確かに魔物でも連れてこんと、この状況は覆すことはできん。

 ということは!


「やっぱりか!」


 あっちこっちから続々と魔物がやって来た。

 中には低ランクの魔物もいるが、高ランクの魔物も多数おる。

 ゴーレム系では最強とは言えないが、最大級の大きさを誇るマグナゴーレムがアグリを押さえつけようとして、そこへ巨大な虎の魔物、ギガントタイガーが飛びかかる。

 よし。これならば突破口が掴めるかもしれん。

 そうと分かれば我もダンジョンに戻って、魔物を連れて来なくては。

 じゃがその前に、周囲への呼び掛けじゃな。


「警備隊員、並びに決闘士は退避せよ! この場はあの魔物達に任せ、すぐに退け! 巻き込まれるぞ!」


 低ランクの魔物はともかく、高ランクの魔物の攻撃は本当に洒落にならん。

 如何に腕利きで装備が整っていても、マグナゴーレムやギガントタイガーに踏まれたり下敷きになったらひとたまりもない。

 ここはさっさと逃がし、避難させた一般人の警護に当たらせた方がよい。


「承知しました! 総員退避!」


 ボロボロになりつつある警備隊長の指示で、警備隊員と決闘士が一斉に退避を始める。

 怪我人はだいぶおるが、仲間に肩を借りてどうにか退避していく。

 さて、我も急いで魔物を連れて来なければ。


「リコリス、ダンジョンに戻るぞ」

「はっ!」


 この場はダンジョンマスター達が連れて来た魔物に任せ、一度ダンジョンへ戻ろうとするが、そこへ戦闘の余波で家屋が丸々一つ飛んできた。


(これは防げん!)


 あまりにもデカくて我でもリコリスでも防げんし、避けようにも間に合わん。

 魔法で相殺しようにも、尻尾の傷で思うように力が出ない今、アレを破壊できるかどうか。

 迫りくる危機の中で冷静に判断している己が、もう諦めかけた時じゃった。


「シャドースラッシュ!」


 黒い刃状の攻撃が家屋を真っ二つにし、我とリコリスの左右にそれぞれ落下した。

 どうやら助かったようじゃな。

 じゃが、今のは誰の攻撃じゃ?


「ロウコンさん、大丈夫ですか!」


 後ろを振り向いたちょうどその時、別の家屋の上からヒイラギが魔物に乗って降りてきた。

 ちょっと待て。

 お主が跨っている、そのケルベロスのようなスケルトンはなんじゃ。

 そしてその後ろに控えておる、戦斧を持ったケンタウロスみたいな上半身が熊のスケルトンと、禍々しい雰囲気のデカい剣を持った腐敗したドラゴニュートは。

 傍らで浮遊しているパンプキンレイスはまだ分かるが、他の三体の魔物は見た事が無いぞ。

 それと先ほどの攻撃をしたのは、お主と一緒にスケルトンに乗っている黒い全身甲冑の騎士か?


「ご無事でなによりです」


 兜を外して見せた顔を見て、我は思わず言葉を失った。

 黒一色の兜の下にあった顔は亜人ではなく、人間じゃった。しかも顔色からしてゾンビか。

 まさかゾンビがあのような強力な魔法を使ったのか?

 それならばゾンビではなくリッチじゃろうが、こやつは全身甲冑で剣と盾を持っておる。

 さしずめ魔法騎士というところか? それも魔物であるゾンビが?

 というか喋ったということは、このゾンビは名前付きなのか!?


「あっ、ああ、問題無い」


 色々とツッコミたい気持ちを抑え、無事を伝えておく。

 助けてもらった以上は、それを優先するのが当然じゃからな。


「なら良かったです。じゃあ、俺達は行きます。あっ、エリアスは無事ですからご安心を」


 それだけ言い残し、ヒイラギは引き連れていた魔物達と屋根の上へ飛び移り、アグリの下へ向かった。

 聞きたいことは山ほどあったが、優先すべきはアグリへの対応じゃ。

 魔物については後で存分に問い詰めさせてもらうぞ、ヒイラギよ。


「行くぞ、リコリス。我も魔物を連れて来なければ」

「はっ!」


 それまでは、どうにか持ち堪えておれよ。



 ****



 オバさんとリコリスさんの危機を救った後、再度屋根伝いに移動してアグリに接近する。

 別のダンジョンマスター達が連れて来た魔物達の後に続いて、現場に近づくほどに負傷者や死亡者、倒された魔物の数が増えていく。

 中には避難前に巻き込まれたのか、一般人らしき死体も複数あった。


「まさかダンジョンタウンで、こんな光景を見るなんてな」


 慣れたくはなかったけど、ダンジョン運営でたくさんの死を目の当たりにして、死体を見ても吐き気はしなくなった。

 それよりも、アグリの見境無しな破壊行為に苛立ちが強い。

 だいぶ近づいたアグリを前に、魔物達へ指示を出す。


「ロードンとボーンベアタウロスは近接攻撃。俺とエレンとパンプキンレイスは、魔法で援護だ」

「お任せあれ!」


 返事をしたロードンがボーンベアタウロスと突っ込み、俺は杖の先をアグリへ向ける。


「サンダーランス!」

「シャドースラッシュ!」

「ケケッ!」


 俺の雷の槍、剣を振り抜いたエレンの闇の斬撃、パンプキンレイスの闇の球体が、他の魔物達の攻撃と一緒に背骨の辺りに命中する。

 あまり効いてないどころか、ほとんど効いているようには見えない。

 でも攻撃しないとダメージすら与えられないから、攻撃は続けないと。


「ガウッ!」


 ボーンベアタウロスは後ろ脚に戦斧を何度も振り下ろすけど、これも傷一つ付かない。

 残るロードンの攻撃はどうだ?


「どうりゃあぁぁっ!」


 高く飛翔して、後ろ脚と胴体の関節を狙って魔剣・災襲血閃を振り下ろすと、アグリの下半身が少し沈んだ。


「ぐぁっ!?」


 しかも悲鳴まで聞こえたぞ。

 他の魔物の攻撃もほぼ同時にあったとはいえ、そこまで効くのか。


「くっ、なんだ貴様は」

「我が名か。知らざぁ言って聞かせやしょう。やあやあやあ、遠からんものは音にも聞け、近くば寄って」

「バカな事やってないで、攻撃しろ!」


 誰だ、ロードンにあんな余計な事を教えたのは。

 香苗か先生か戸倉の誰かだとは思うけど、追及は後回しだ。

 攻撃が効いているなら、ロードンを中心にして戦おう。


「承知!」


 名乗りを中断したロードンは災襲血閃を構え、突っ込んでいく。

 刀身に魔力を流したのか、刀身が真っ赤な炎に包まれて燃え上がる。


「ちぃっ!」


 苛立ち混じりの声を上げたアグリは、数十本の石の槍を放つ。


「援護します!」

「私も!」


 その魔法に向けて、別のダンジョンマスターが乗った鳥型の魔物が翼を振るい、無数の風の刃を放つ。

 同じくワイバーンに乗ったダンジョンマスターが杖を振るい、雷魔法が土の槍に降り注ぐ。

 風と雷により土魔法は相殺され、爆煙が広がる。

 巨体を誇るアグリの姿は煙に包まれても丸見えだけど、ロードンの姿は完全に隠れた。


「くっ。どこだっ!」

「ぬあぁぁっ!」


 気合いの籠った声と共に、煙の中から炎に包まれた刀身が伸びてアグリの頬を突く。

 不意の一撃を受けたアグリは少しよろめいた。


「おぉぉぉぉぉぉっ!」


 煙の中から飛び出したロードンは、雄叫びと共に災襲血閃を何度も振るう。

 長さが伸び、鞭のような軌道を描く災襲血閃がアグリの頭部を上下左右から何度も斬りつけ、それによってアグリの顔の向きが変わる。


「す、凄いですね。あんな魔物と武器、どうやって手に入れたんですか?」

「……ちょっとした偶然で」


 狼の魔物に跨る、気弱そうなエルフのダンジョンマスターから問いかけに、濁った答えで返しながら杖をアグリの胸元にある結晶体へ向ける。


「援護するぞ、ロードン! サンダーアロー!」

「私もです。ダークブレイク!」


 結晶体を狙って俺とエレンで魔法を放つ。

 生憎と結晶体じゃなくて肋骨に当たったけど、構わず何度も結晶体へ向けて魔法を放つ。


「我々も援護だ!」

『おうっ!』


 上空でドラゴンに乗っている老齢のダンジョンマスターの声に、周囲にいたダンジョンマスター達も呼応し、頭部への攻撃を続けるロードンを援護する。


「えぇい! うっとおしい!」


 激高したアグリが右前足で地面を強く踏んだ。

 するとアグリの足元から岩や土が棘状になって飛び出してきた。

 これはヤバい!


「エレン掴まれ! ウルベロス!」

「グルっ!」


 一旦攻撃を止め、スカルウルベロスにしっかり捕まる。

 飛び出してきた棘をどうにか避け、尖っていない側面に飛び乗る。

 ロードンは攻撃を中断して上空へ退避し、パンプキンレイスも同様に棘の届かない上空へ浮遊していた。


「あ、危なかったです……」


 辛うじてスカルウルベロスに掴まったエレンが呟く。

 あれ? ボーンベアタウロスは……あっ。


「ガッ……フッ……」

「ベアタウロス!」


 避けきれなかったのか、棘が骨の隙間を通過して魔心晶を貫いていた。


「グッ……ウウゥ……」


 呼びかけにこっちを向いたボーンベアタウロスは、骨だから分かりにくいけど、最後に笑顔を見せたように感じさせて力尽きた。

 手にしていた戦斧が地面に落ち、割れた魔心晶の欠片が地面に落ち、最後に骨がバラバラに崩れ落ちた。


「ガルアァァァッ!」


 一緒に生まれてから、ずっと共に鍛えて戦ってきたスカルウルベロスが、哀しみを堪えられずに吠える。


「落ち着け、落ち着け、ウルベロス」


 正直、声を上げたいのは俺だって同じだ。

 あいつはスカルウルベロス同様、俺が創った最初の魔物だから。


「よくもベアタウロスをっ!」


 上空に逃げていたロードンが再度アグリへ攻撃を再開した。

 パンプキンレイスは同じく上空に退避していた他の魔物達とロードンを援護し、地上にいる無事だった魔物達もダンジョンマスター達の指示で攻撃を再開する。

 俺達もやらなくちゃ。ボーンベアタウロスの仇を取るためにも。


「いくぞ、ウルベロス。接近だ」

「ガウアッ!」


 力強く吠えたウルベロスが駆け出す。

 アグリへの攻撃の余波で崩壊していく棘の瓦礫を飛び移り、潜り抜け、徐々に接近していく。

 離れていた方が安全だろうけど、あまり離れるとロードンが本来の力を出せない。

 あいつが上空にいる今、できるだけ真下にいるようにしないと。


「バーストインパクト!」


 ロードンが放った龍魔法がアグリへ直撃する。

 余波が少し来たけど大したことはない。


「こんのっ、たかが魔物の分際でぇっ!」


 激高したアグリは三日月型の岩を複数作り、ブーメランのように回転させながら上空の魔物達へ放った。


「この程度なら!」


 さほど速くないこともあり、全員が難無く回避した。

 だけど回避した三日月形の岩が軌道を変えたのを見て、大声で叫ぶ。


「避けろおぉぉっ! 後ろからくるぞぉっ!」


 ありったけの声を絞り出して上空へ向かって叫んだ。

 三日月形の岩はブーメランのような軌道を描き、避けたロードン達の背後へ戻って来ている。


「ぬおぉぉっ!」


 声に反応したロードンは辛うじて災襲血閃の防壁を展開して防ぎ、パンプキンレイスも闇魔法で相殺する。

 他の面々も防御したり相殺したりしたけど、何体かは直撃を受けて落下した。


「隙有り!」


 今度は口から岩石をいくつも放ってきた。

 戻って来た三日月形の岩に気を取られていた空中の魔物達は、高速で飛来するこれを避けられず直撃を食らう。

 ロードンもパンプキンレイスも直撃を受け、地面へと落下していく。


「ロードン! パンプキンレイス! ウルベロス、頼む」

「ガウッ!」


 すぐさまウルベロスを走らせ、二体が落下した場所へ向かう。


「はははっ! 誰にも私の邪魔などできるものか」


 優越感に浸っているアグリを睨んでいる間に、スカルウルベロスが二体の下に到着した。


「大丈夫か」

「な、なんとか……」

「ウグゥ……」


 ロードンは傷ついてはいるけど、傷は浅いからまだ動けるだろう。

 でもパンプキンレイスはだいぶダメージを受けていて、このままだと戦線復帰は難しそうだ。


「とりあえずロードン、これを」

「かたじけない……」


 収納袋から回復薬を取り出してロードンに飲ませ、もう一本取り出してパンプキンレイスにも飲ませる。

 その間にもアグリは侵攻を続けている。

 地上にいて無事だった魔物達や、ようやく駆けつけた魔物達の攻撃をしているけど、足止めにもなっていない。


「申し訳ない、主。奴では、この剣の効果を存分に発揮できませぬ」


 回復して傷が治ったロードンに謝られたけど、こればかりは仕方ない。

 魔剣・災襲血閃は、刀身が血液を浴びる度に切れ味と硬度が増し、持ち主の能力が向上する。

 冒険者相手でそれは実証済みだけど、今回の相手は血液が無い化石の体。

 従魔覚醒の効果と、これまでの災襲血閃による強化のお陰で戦えていたけど、血液が無い相手じゃ今以上に強くはなれない。

 かといって、味方を傷つけてまで強くするべきだろうか。


「相性悪いな、くそ」


 まさか災襲血閃にとって、こんなに相性の悪い相手がいたなんて。

 こうなったら頼るしかないのか? ロードンの固有スキルの狂化に。

 いやいや、駄目だ。

 狂化が発動すれば倒せるかもしれないけど、周囲の生物を殲滅するまで止まらなくなるんだ。フロアリーダーの間の中ならともかく、ここじゃ駄目だ。


「今のまま、なんとかするしかないか」


 幸いにも今の強さで戦えてはいたんだ。勝てる可能性はある。


「皆、もう一度行く……うん?」


 ロードンとパンプキンレイスの回復を終え、再度アグリの下へ行こうとした途端、周囲が巨大な影に覆われた。

 何かと思って上を向くと、そこにはアグリに匹敵する大きさのドラゴンが二体飛んでいた。

 誰が連れて来た魔物なのかと見上げていたら、従えている人物の声が響き渡った。


「アグリよ! 今度こそ引導を渡してくれる!」


 声の主はオバさんだった。

 さすがはエリアマスター、あんな魔物を従えているのか。

 他にもアグリほどの大きさじゃないけど、巨大なゴーレム、蛇、熊がやってきた。

 どうやら、反撃の時が訪れたみたいだな。


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