第35階層 未来の嫁さんを迎え入れた
涼「ダンジョンタウンって地下だから、季節感が無い」
オバさんと会う約束を交わした当日。
ユーリットをお供にしてオバさんの下を訪れた。
「お待ちしておりました、どうぞこちらへ」
出迎えてくれたリコリスさんの案内で部屋へ通され、しばし待つ。
エリアマスターの下ということでユーリットはソワソワして、落ち着きなくあっちこっちを見ている。
だけど落ち着かないのは俺も同じだ。静まれ心臓。
「マスターさん、何で僕がお供なんですか?」
「他にいなかったからだ」
婚約の話をする場に、他の女の連れて来るのは失礼だと思うし、奴隷の誰かを連れて来るのも同様。
なら男の中の誰かをと考えたけど、そこらの女よりずっと女らしいリンクスと、何かやらかしそうなアビーラを連れて行くのには不安を覚えた。
結果、消去法でユーリット一択となった。
誰も同行させないのは、それはそれで失礼だしな。
「お待たせ致しました。ロウコン様とエリアス様がお見えです」
来たか。静まれ、バクバクしてる心臓と手の震え。
「すまぬ、待たせたな」
「どど、どうも」
いつも通り飄々とした様子で現れたオバさんに対し、エリアスは初っ端から緊張でガチガチになっている。
顔は真っ赤で尻尾と耳はパタパタと忙しなく動き、歩きと着座の動きがブリキ人形のようだ。
そっと襖を閉めているリコリスさんも、エリアスの挙動に笑いを堪えている。
そんな様子を見て、緊張がちょっと緩んだ。
「さてと、今日の用件はエリアスとの婚約の件じゃったな」
「はい。是非お受けしたく思い、挨拶に参りました」
「おおそうか。受けてくれ……はっ?」
急な事にオバさんの顔がキョトンとしている。
「はっ、はうっ、うっ!?」
エリアスは驚きと戸惑いと嬉しさで表情が二転三転して、何を言っているのか分からない言葉を発している。
リコリスさん、ニヤニヤとした視線をこっちへ向けるのはやめてください。
「先日はまだエリアスを貰う覚悟が出来ていませんでした。ですが覚悟が出来たので、突然の事ではありますが、この場で話を受ける挨拶をさせていただきました。急な事で申し訳ありません」
最後に頭を下げての謝罪を含みつつ、しっかり経緯を伝える。
これでそうそう印象は悪くならないはずだ。
「そ、そうか。てっきりまだ早いとか、先送りの話をされるのかと思ったぞ」
俺だって最初はそのつもりだったよ。
でも、一部のお節介の世話焼きのお陰で考えは変わった。
出会った当初から何か惹かれるものを感じていたエリアスを、絶対に嫁にすると。
「覚悟の無さから、思い違いをさせてしまい申し訳ありません」
「いやいや、別に構わんぞ。娘を貰ってくれる決意をしてくれて嬉しく思う」
「寛大なお心遣いに感謝します」
オバさんの性格からして、この程度で機嫌を損ねることはないと予想していたけど、それでも不安だった。
場合によっては料理を振る舞って許しを請う可能性もあったから、一安心だ。
「エリアスも、よかろう?」
「は、はひ」
頭から湯気でも出ていそうなエリアスは、視線をこっちへ向けては外しを繰り返している。
「しかし、エリアスを嫁にしようとすれば周囲は煩いかもしれんの」
「俺とロウコンさんに縁ができるからですか?」
何せエリアスマスターの娘との婚約だ。
こっちに権力欲が無いとしても、周囲が勝手に邪推するのは仕方ない。
だけど質問に対して、オバさんは首を横に振った。
「それもあるじゃろうが、それ以上に考えられるのは、混種がどうこうという声じゃろうな」
うわっ、それがあったか。
エリアスもその点が挙げられたから、ちょっと震えている。
「ヒーラギは気にせずとも、周りはそういうのを気にするものじゃからな。発表したら、ヒーラギの下には混種なんかよりもうちの娘を、という押し売りが増えるかもしれん」
「いりません。俺が正妻にしたいのはエリアスですから」
即答したらエリアスは真っ赤になって俯いた。
今日は色んな表情や仕草を見られてラッキーだ。
「ふっはっはっ! あっさりそう言ってのけるとは、ますます気に入った。ならば周りの声も気にせず、堂々と振る舞っておれ」
「言われなくとも、元よりそのつもりです」
「ほうほう、頼もしい婿殿じゃのう」
満面の笑みを浮かべるオバさんと、ニヤニヤが止まらないリコリスさん。
それに対して無事に終わりそうな雰囲気に、隣のユーリットはホッとしている。
「よし! そういうことならば、エリアスがそちらで住めるよう荷造りをせねばな」
「えっ? お母様、それはどういう?」
「ヒーラギを絶対に逃すな! というだけじゃ!」
だろうよ。こっちもイーリアから聞いて、住むための部屋を準備したくらいだし。
あっ、またエリアスが真っ赤になって、オロオロと狼狽えてる。
「えっ、あの、その、それはつまり、えっ?」
「落ち着け、今からそんな事でどうする。婚前交渉しろとまでは言わんが、周囲から何を言われようと聞き流すくらいにはなっておけ」
婚前交渉を勧めて、既成事実を作ろうとしない点は助かった。
お互いに年頃だから、そんな事を勧められたらどうなることやら。
いや、それ以前にエリアスの精神の方が耐えられないか。
だって婚前交渉って聞いただけで、頭が沸騰して倒れそうになっているし。
「とりあえず、婚約認定証に署名しましょうか?」
「うむ、そうじゃな」
という訳で、婚約認定証に双方のサインを記入し、エリアスは荷造りを開始。
この時にオバさん達がヒーラギじゃなくてヒイラギだったことに気づき、今まで呼び方を間違えていたこと謝罪するという一幕はあったものの、概ね問題無く婚約は成立。
荷造りが終わるまでの間に俺とユーリットとリュウガさんで、住人管理ギルドへ書類の提出へ向かった。
異世界人の俺が婚約して、しかもその相手がエリアスということで、受付にいるエルフの女性職員が動揺する。
「えっ? あの、こちらに間違いは」
「ありません」
同行してくれたリュウガさんじゃなくて、当事者である俺自身が肯定する。
「わ、分かりました」
俺が肯定したことで、女性職員は認定書を受理した。
これで俺とエリアスは正式な婚約者になり、双方同意の下で破棄されない限りはエリアスが俺の正妻になる。
住人管理ギルドを去る際、後ろで職員達がざわついているのが聞こえたのはスルーした。
「しかし、とうとうエリアスまで嫁入りか……」
しみじみとした様子のリュウガさんが、感慨深そうに頷いている。
普通父親は娘を嫁に出す時、少なからず抵抗を感じるものだと思っていたけど、それらしき雰囲気は無さそうだ。
そういえばエリアスには二人の姉がいたから、その二人を嫁に出したことで慣れたのかな?
「これで娘が……三人とも……嫁に……」
そんな事は無かった。
薄っすら涙を浮かべて、寂しそうにしている。
「いやいや、エリアスはまだ未成年ですから。結婚は一年近く先の話ですよ」
「分かっている。分かっているが、それとこれとは話が別だ。君も娘を持てば分かるよ」
そう言われても、俺とエリアスの間には息子が生まれる確率の方が圧倒的に高い。
可能性があるとすれば、香苗とか戸倉とか先生とかミリーナとか、人間相手の場合だな。
あれ、そういえば。
「リュウガさん、聞きたい事があるんですが」
「なんだね?」
「俺の下に異世界人の奴隷がいるのは知っていますよね?」
「勿論だとも」
「俺とそいつらの間に子供ができたら、というか人間同士で子供ができたら、その子はどうなるんですか?」
今のところダンジョンタウンで普通に生活できる人間は、俺のように異世界から来たダンジョンマスターだけ。
だとすれば、人間同士で子供が生まれた場合はどうなるんだろうか。
結婚とかは当分考えないつもりだったから、ずっと気にしていなかった。
でも、いざこういう状況になると、俺の子供がどう扱われるのか気になる。
「一応それについての法律は存在する。過去に複数の異世界人が奴隷として捕まったことがあって、その際に対応を協議して法律が定められたんだ」
そんな過去があったのか。
だけど法律が定められているのは助かった。
「ちなみに、どういう法律になっているんです?」
「うむ。どうせなら人間との間に生まれた子についても、説明しておこう」
双方が奴隷で双方とも異世界人でない場合:子供も奴隷
双方が奴隷でも片方が異世界人の場合:赤ん坊のうちに里親へ出される
双方が奴隷で双方とも異世界人の場合:同上
異世界人でない奴隷と亜人の場合:亜人の下で育てられる
異世界人の奴隷と亜人の場合:同上
異世界人ダンジョンマスターと亜人の場合:両親の下で育てられる
異世界人ダンジョンマスターと異世界人でない奴隷の場合:異世界人ダンジョンマスターの下で育てられる
異世界人ダンジョンマスターと異世界人奴隷の場合:同上
「ということは、俺と異世界人奴隷の間に子供ができても、手元で育てられるんですね」
「まぁね。書類上の正式な親は君だけで、相手に親権は無いがね」
こればっかりは奴隷という身分だから仕方ない。
だけど書類上の親になれないってだけで、一緒にいられないって訳じゃないから問題無いだろう。
「そうそう。君とエリアスの第一子以外の子は、他所のエリアへ婿入りか嫁入りすることになるだろう」
「何故です?」
「簡単な話さ。一つのエリアだけで異世界人という、繁殖に重要な存在を独占するなということだ」
繁殖って聞くとちょっと生々しいけど、言っていることは間違っていない。
第五エリアだけで独占していれば、別のエリアからひんしゅくを買うのは当然か。
「そういうのって、エリア間での優先順位とかはあるんですか?」
「一応、男の数が少ないエリアから順に優先権がある。だから子供ができたら、そのエリアから婚約話が山のように来るだろうね」
ユーリットからの質問に、そんな返答を貰った。
もうそういった類の話はいいよ。
俺自身へも随分来ているのに、子供にまでそういう話が来るだなんて。
生まれるどころかできてすらいない我が子に、早くも同情心を抱いてしまう。
「苦労しそうだな、俺の子も」
「こればかりは仕方ない。せめて子供が良い子になるよう、しっかり教育するんだね」
そうさせていただきます。
****
「という訳で、今日から同居することになった婚約者のエリアスだ」
「よ、よろしくお願いします!」
緊張した面持ちで挨拶をするエリアスに、司令室に詰めているメンバーを除く全員が拍手で出迎えた。
だけどエリアスは歓迎されると思っていなかったのか、オロオロと戸惑っている。
「え、えっと、その」
「落ち着け。俺達はお前を歓迎する、ただそれだけだ」
「混種である私を歓迎だなんて、そんな……」
やっぱりそこが気になっているのか。
どうしたものかと考えていると、イーリアが進み出てエリアスの手を握る。
「大丈夫ですよ。エリアスさん自身が悪い方でなく、悪い何かを引き寄せる方でもないという事は、私達皆が分かっていますから」
イーリアの笑顔での対応にエリアスは呆気に取られ、次いで後ろにいる皆を見渡す。
香苗も先生もフェルトもユーリットもアッテムもアビーラも。全員が笑みを浮かべ、それぞれで頷いたり親指を立てたりして歓迎している意思を伝える。
今は司令室にいるメンバーも含め、このダンジョンに勤めている誰もがエリアス自身を認めている。
これも周囲の視線や陰口に耐えながら、うちへ訪ねてきて交流していた成果だ。
そうとは知らないエリアスの目には、涙が浮かんできた。
「うぅ……。私、ここに来れて良かったです。紹介された早々、嫌悪の眼差しを受ける覚悟が無用になって良かったです」
うん、そんな覚悟はいくらでも無用になってくれていいぞ。
ここには歓迎する人はいても、蔑む人は一人もいないんだから。
「じゃあアッテム、エリアスに居住部を案内してくれ」
「はひ!」
噛むなよ、肝心な所で。
「俺は司令室にいるから、最後に司令室へ連れて来てくれ」
「えっ? いい、んですか?」
「婚約認定証は提出した。だからダンジョンの情報の保護、という点は大丈夫だ」
婚約認定書には、ダンジョンの情報漏洩を禁じるという一文が書かれていて、それが契約魔法によって守られるから、例え婚約破棄したとしても情報漏洩の心配は無い。
その点をアッテムへ説明してから司令室に入ると、勤務中の戸倉とミリーナとリンクスとラーナから視線が集中して、どうなったと目で訴えてくる。
圧すら感じるその視線に一瞬気後れしつつもエリアスとのことを伝えると、おめでとうと拍手してくれた。
ただ、元の世界から俺へ好意を向けていた戸倉だけは、表情も拍手も少し不機嫌そうだ。
とりあえず、皆へありがとうと返し、留守中の報告を受けて対応が必要な案件を処理していく。
そうして仕事に励んでいると、居住部への扉が開いてアッテムとエリアスが入ってきた。
「ようこそ、俺達のダンジョンへ」
仕事の手を止め、司令室へ来たエリアスを改めて歓迎する。
さっき顔合わせをしていなかったラーナ達とも改めて挨拶を交わし、司令室の中を見渡す。
「ここが、ヒイラギ様の作ったダンジョンなのですね」
「違う。俺達が作ったんだ」
「達……ですか?」
そうだ。俺一人の力じゃなくて、ここにいる皆で運営してきたから俺達のダンジョン。
今日からエリアスも、その一員だ。
「アッテム、ここの説明は俺がやるよ。案内ありがとうな」
「い、いえ。では、失礼、します」
一礼して司令室を出るアッテムを見送り、収納袋から説明のための資料や報告書を取り出す。
それじゃあ、説明の前に注意事項を伝えよう。
「今からこのダンジョンの現状を説明する。色々驚くことがあるかもしれないから、気を引き締めておいてくれ」
「えっ? はい……」
どういう意味なのか分かっていないエリアスは首を傾げる。
すぐにその意味は分かるよ。
「まずはうちの魔物についてだけど」
奇襲部隊やゴブリン達のトレーニング、それによる新たなスキル習得と進化について。
最初は感心した様子で説明を聞いていたエリアスだけど、話が進んでいくうちに段々と反応が鈍くなっていく。
やがて完全にポカンと固まったから、一旦説明を区切って声を掛ける。
「おい、大丈夫か?」
「ひゃい! だ、大丈夫です、ちょっと内容が凄すぎて、驚いていただけです」
それはエリアスだけでなく、誰もが経験する事だ。
ダンジョンの運営に関わっていたイーリアやラーナどころか、香苗や戸倉ですら驚いてたからな。
先生の場合は魔改造キターッとか、別方向で驚いていたけど。
「ドラゴニュートゾンビ、ダークネスゾンビ、進化したゴブリン達ですら見たことも聞いたことも無い形態です」
新種認定されたんだから当然だ。
「第一、この能力の高さはなんですか!? どう鍛えたら、低ランクの魔物がここまで強くなるんですか!」
「それに関しては、鍛えたというかなんというか……」
苦笑いしながら従魔覚醒スキルの事を伝えると、エリアスは呆然とした。
無理もないか、俺だってこのスキルを知った時は驚くしなかったから。
「熟練度に応じて、魔物の能力が倍化って……」
「そうなんだ。今は六倍くらいかな」
「六倍!? 道理で強いと思いましたよ!」
うん、俺もそう思う。
「それにしても、よくこれで挑む冒険者が減りませんね」
「いや、前に比べれば人数は減ってはいるんだ」
別の収納袋から、月別にまとめた侵入者の人数についての資料を取り出す。
一時は結構な人数が来ていたんだけど、従魔覚醒の影響で強くなった魔物達によって数は減少した。
でも、ある程度まで減ったらそのまま人数は安定化しているのが、資料を見れば一目でわかる。
「とまぁ、見ての通り以前に比べれば人数は減っているんだ」
「よくここまで細かくまとめましたね。でも、どうして侵入者が減っただけで、いなくならないのでしょうか」
実はそれにも訳がある。
今エリアスが指摘した点は俺も不思議に思って、捕えた冒険者の一人に聞いてみたことがある。
そしたら、そこにも従魔覚醒スキルの思わぬ影響があった。
というのも、従魔覚醒スキルで強化された魔物から取れる素材は、同じ魔物から取れる素材に比べて各段に品質が高いから高値で売れるらしい。
そのため、素材を入手して一儲けしようとする冒険者が後を絶たないそうだ。
「それって、本当なんですか?」
「あぁ、本当だ。それを聞いた後に鑑定して確認したから、間違いない」
冒険者の持ち物から回収していた魔物関連の物は、実験用に回収していた魔心晶だけだったから、話を聞くまでは気づかなかった。
「それ以来、捕まえた冒険者が入手した素材は全部回収して、ドワーフのアビーラに渡して装備品を作る材料にしている」
素材の事実を知ってすぐ、アビーラに装備品を作ってもらった。
それを鑑定したら通常よりも高品質な物が出来たから、その場ですぐに侵入者からの素材回収と、それによる装備品作成の指示を出したほどだ。
「その装備品は、こちらの報告書のように魔物へ?」
「あぁ。お陰で攻略難易度が増したぞ」
装備品を装備できる魔物には一つか二つ程度持たせ、余った分は予備であり、金に困った時に売れるよう保管してある。
「はあぁ……。色々やっているんですね」
「まあな。それと、こっちは副業の方の報告書ね」
「あっ、どうも」
副業と言っても、まだ農業の方は営業開始していないから、プゥサ木工店とオバさんの所のケチャップとウスターソースに関するものだけだ。
「こちらもしっかりと報告書を作っているんですね。ちなみに、この線ってなんですか?」
折れ線グラフを指差したから、各種グラフについて教えたら興味深そうな表情をする。
こっちでは数字だけしか記録に残さないから、一目で変化が分かるグラフの有用性を実感しているんだろう。
「用途に合わせて数種類のグラフを使い分けるのですね。これはとても便利ですよ」
説明を聞いたエリアスは真剣な表情で考え込む。
さっきまでお客さんだった雰囲気は消え、運営側の雰囲気に変わった。
時折何かブツブツ呟きながら、一生懸命に何かを分析している。
初めて見る真剣な表情と雰囲気は、なんだか新鮮だ。
「あの、他の資料も見てよろしいでしょうか」
「勿論だ。次はこれなんかどうかな」
その後も様々な報告書を読んでは驚きつつも、すぐに真剣な表情で一言一句見逃すまいと目を通していく。
特に喰いついたのは魔物の武装化に関する報告書と、ダークネスナイトゾンビやドラゴニュートゾンビのような魔物を生み出す報告書、それと育成スペースでの作物栽培についての報告書だった。
「どれも凄いです。よくこういうことを思いつきますね」
「それらに関しては、気になって実験してみたら偶然そうなっただけだ」
中には失敗もあったけどな。
あっ、伝えることを一つ忘れていた。
「そうそう、今日はエリアスの歓迎会で焼肉パーティーをやるから」
「ぱ、ぱあちぃ?」
「パーティー。要するにエリアスを歓迎する宴を開くって事だ」
ちゃんと司令室勤務のメンバーが入れ替われるように勤務調整しているし、酔って仕事をしないように飲み物はノンアルコールだ。
「私のために、宴まで?」
「俺のいた世界じゃ当たり前の事だ。気にするな」
境遇を考えると歓迎されるに慣れていないだろうけど、だからこそちゃんと祝ってやりたい。
実家だけでなく、ここもお前の居場所なんだと明確に伝えるために。
この後、再度嬉し泣きしたエリアスを宥め、盛大な焼肉パーティーで歓迎してやった。
なお、エリアスは育成スペース産の野菜にドハマりして、肉よりも野菜ばかり食べていた。