第27階層 何であろうと強い力は扱いに困るもんだ
フェルト「当初は待遇の良さに戸惑ったよ」
新たに事務員を雇うべく、募集をかけてから数日が経過した。
入手した品や侵入者を売却するため、リンクスが香苗を伴ってダンジョンギルドへ向かい、俺達は普段通りに司令室でダンジョンの監視をする。
「ヒイラギ様。ここの所、僅かですが冒険者が減少傾向にありますね」
そうなんだよなぁ。
壁に貼った日々の冒険者数を記した折れ線グラフでも、その傾向が見て取れた。
一日ずつで見れば、今日は昨日よりちょっと少ないか程度だけど、グラフで全体を見ると減少傾向なのが分かる。
「冒険者が来なくなる前兆と見るべきか?」
「まだ時期早々だと思いますので、もう少し様子を見たほうがよろしいかと」
ならそうしておくか。
減ったからと言っても急激に減少した訳じゃないから、落ち着いて様子を見るのも大事だろう。
「分かった、しばらくは様子を見よう」
「承知しました」
とはいえ、これが前兆であると判断する心構えだけはしておこう。
「そういえば、昨日が応募の締め切り日だったっけ」
予定では今日中に応募用紙に目を通して面接者を選定、明日に通達をして、明後日の定休日に面接を行う手はずになっている。
「応募書類の回収は、売却に向かったリンクスさんにお願いしておきました」
「ん、分かった」
そういえば、あの堕天使やラーナも応募しているんだろうか。
ラーナの事務能力は未知数だけど、堕天使は教会にいた頃は事務職って言っていたから、ちょっとは期待できそうだ。
「選定は午後から司令室で監視をしながらやろう。イーリアの他にアッテムも参加させよう」
「承知しました」
アドバイザー的な立場のイーリアは当然として、責任者級の扱いをしているアッテムも参加させる。
司令室の後ろの方に会議用のテーブルと椅子が設置してあるから、そこでやれば緊急時にもすぐ対応が出来る。
「ただいま戻りました」
おっ、リンクスが帰って来たか。
応募はどれくらいあったんだ?
「見てください、応募がこんなに」
そう言ってマジックバッグから取り出した応募書類は、二百枚は軽く越えていそうだ。
ちょっと待て。これ本当に事務方へのなのか?
あまりの量にイーリアもポカンとしているぞ。
「イーリア、予定変更だ。すぐに選定に取り掛かるぞ。でないと明日までに終わらないと思う」
「同感です。すぐにアッテムさんを連れて来ます」
さすがに二百枚越えを三人で選別となると、すぐに始めないと無理だ。
というわけで訳も分からず連れて来られたアッテムも交え、急遽選定作業開始。
面接に進める人数は前回と同じ十人。
それを二百人以上の中から選ばなくちゃならない。
しかもできるだけ優れた人材をだ。
だから事務方の募集と分かっていながら、事務に向いていないけどあわよくば目に留まりたいという応募は容赦無く切る。
「これとこれとこれは没。明らかに仕事より嫁狙い」
「この方も駄目ですね。スキルが事務系に向いていません」
「黒表の、人が、いました」
どうしてこう、一定数のアホが出るかな。
他にもイーリアが看破スキルで建前の嘘偽りを書いていると見抜いた応募、未成年からの応募書類も外していく。
そうして選別をしている間にも、ダンジョンへの侵入とそれへの対応は行われている。
「ご主人様、地下一階層でパンプキンゴーストとスケルトン達が勝利しましたが、侵入者はどうします?」
「人数と生きてる奴は?」
「人数は五名、生存者はいません」
「育成スペースへ移送させた後、装備品と持ち物を回収。死体は後でパンデミックゾンビにする」
あぁ、書類選考をしながらの指示出しは疲れる。
気を使ったイーリアとアッテムが俺への割り当てを減らしてくれたけど、大変なのに変わりない。
昼食もスープとパンだけの簡単なのをここで済まし、途中に小休止を挟みながら選別していく。
期限が明日までだから、早く正確に選んでいかないと。
「マスター、さん。こっちは、終わりましたので、手伝い、ます」
「すまない、頼む」
といっても、こっちも残り十枚を切っている。
ここまで減っているんだから、だいぶ時間も経っているのか?
「あの、マスター? 夕食も昼と同じ物を用意しましょうか?」
かなり経っていた。もうそんな時間なのかよ。
「……イーリア」
「この後、私達が選んだ方々から十人に絞る作業があるので、同じでいいかと」
話が早くて助かる。
「じゃ、それで頼む」
前回みたいに深夜までやるわけにはいかないから、少しでも作業時間に当てたい。
とはいっても、選定作業は簡単には終わらず、どうにか終わったのは早番による見張りが入る少し前だった。
「終わった……」
「では、こちらの方々には明日、私が通達しておきます」
「お、願いし、ます……」
アッテム、こんなところで寝るな。
早番での見張り当番じゃないんだから、ちゃんと部屋に戻って寝ろ。
「むにゃ……」
駄目だ、完全に寝落ちしていて、いくら揺すっても起きやしない。
かといって、あまり過度な起こし方はしたくない。
男相手だったら、水をぶっかけるとか雷魔法で電気ショックを与えるとかするんだけどな。
仕方がない、ここはイーリアに頼むか。
「イーリア、悪いけどアッテムを部屋に」
「すみません。私も……結構ギリギリで……」
ありゃりゃ、イーリアまで船を漕いでやがる。
とてもじゃないけど、アッテムを連れて部屋に戻れるとは思えない。
えっと、今日の早番はローウィと戸倉と香苗か。
「ローウィと香苗、この二人を部屋まで頼む。それまで俺がここにいるから」
人を運ぶなら、ある程度鍛えているこの二人だな。
非力な戸倉に頼んだりしたら、間違いなく運ぶんじゃなくて引き摺ることになる。
「柊君が運んであげればいいのに」
そういう訳にはいかないだろ。
ただ運ぶだけならともかく、女性の部屋に平然と入る度胸は俺には無い。
中には誰もいないから、部屋の前までともいかないし。
「じゃあカナエさん、私がイーリアさんを運ぶのでアッテムさんをよろしく」
「分かった」
そうしている間にローウィと香苗が二人を連れて行ってくれた。
俺も眠気に耐えつつ監視をしていると、戸倉が傍に寄ってきた。
「柊君はさ、もっと異性に対してガツガツした方がいいと思うよ?」
「急になんだよ」
「こっちの世界ではさ、異世界人が貴重なんだよね? 子孫繁栄のために」
久々に聞いた気がするな、その話。
それはそうだけど、だからって無節操に手を出すのは駄目だろう。
「今はそれどころじゃない。それに、そんなに急ぐ必要も無いだろ」
実際問題、新しい副業の農業は始まってすらいないし、ダンジョンへの侵入者の数にも注意を配っていないといけない。
それに今は、新しい人材を雇ってここでの仕事を教えなきゃならない。
ついでに言うなら、ランク三になった時に増やす新しいフロアについても。
「そこは男の甲斐性でなんとか」
「甲斐性でどうにかなる問題か?」
「……ふー、ふー」
おいこら、質問に対して無言になるな。明後日の方向を向いて、吹けもしない口笛を吹こうとするな。
そうこうしている間にローウィと香苗が戻ってきたから、俺も部屋に戻ってすぐに寝た。
今夜は遅番だし、短時間でもしっかり寝ておきたい。
死体のパンデミックゾンビ化は遅番の時にやっておこう。
そうだ、ほぼ休憩無しで選別をしてくれたから、特別手当を出す手配もしておこう。
*****
翌朝。ミーティングと引き継ぎを終えたら、ダンジョンギルドへの売却と書類審査合格者への通達をしに行ったイーリアと付き添いのフェルトを見送った。
ちなみに昨日の侵入者は一昨日よりも数人程度だけど上回っている。
まだ一回じゃ断言はできないけど、一昨日までの右肩下がりは侵入者が来なくなる前兆という訳ではないのか?
イーリアからの助言通り、しばらくは様子見に徹した方が良さそうだ。
「それじゃあ、ちょっと寝てるからその間を頼む。何かあったら、遠慮なく叩き起こしに来い」
「分かり、ました」
司令室の方はアッテムに任せ、遅番の特権である朝寝タイムへ突入。
同じく遅番だったユーリットも、眠気に耐えながら部屋に入って行った。
それから一眠りした後に待っていたのは、席を外している間の報告と売却の明細のチェック作業。
大体の部分は既にイーリアとアッテムがやってくれていたから、俺がやったのは最終チェックぐらいだ。
やっぱり任せられる所は任せておくと、必要以上に仕事に迫られなくて助かるな。
「書類選考の通過者には、明日の面接の件をお伝えしておきました」
「ありがとう。ダンジョンギルドの部屋の貸し出し確認は?」
「売却と一緒にやっておきました。明日の予約は問題無く取れていました」
それはなによりだ。
これで明日の面接は滞りなく実施出来そうだな。
「面接官は俺とイーリアとアッテムでやることにする」
「わ、私も、ですか?」
当たり前だろう。
「アッテム、お前もこの中じゃ重要な位置にいるんだ。そろそろダンジョンの仕事以外でも、それを自覚してくれ」
こいつはどうにも、ダンジョンそのものの仕事以外での自覚が足りない。
明日の面接も、昨日やった書類審査の時も、どっちもダンジョン運営にとっては大事な事なんだから。
「無理に頑張れとは言わない。でも、お前にはそれだけの能力があるんだ。もっと自信を持ってくれ」
「は、はひ! 分か、りました」
とにかくアッテムには、もっと色々やらせて経験を積ますのが一番かな?
後でイーリアや先生とも相談してみよう。
「そうそう、明日の面接は時間外業務だし昨日の選別作業は休憩時間を削ったから、その分の手当ては出すようにしておくから」
「い、いいんです、かっ!?」
「良いも何も当然の権利だろ。イーリアには直接出せないけど、ダンジョンギルドを通じて出せるように手配しておくから」
「私にも、出してくれるんですか?」
「予定外の労働への当然の対価だろ」
ダンジョンを開くまでは全てが準備期間扱いだった以前の選別と面接と違い、今はちゃんと休憩や定休日もある状態だから時間外労働に対する賃金は払わないと。
うちはそんな事を無視して平気な顔をしている、ブラック企業じゃありません。
「そうだ。書類審査通過者をもう一度確認しておきたいから、応募書類を見せてくれないか?」
「承知しました。……どうぞ」
受け取った十枚の応募書類。
この中で採用されるのはたったの二人。
勿論、こいつはという奴はいる。
まず一人目は、この前会った堕天使。
(やっぱりあいつ、応募してきたか)
教会では事務職だって言っていたもんな。
やっぱりこういう時、事務経験があると書類選考の時は有利なんだな。
そんでようやくあいつの名前が分かった。あいつ、ヴィクトマっていうのか。しかも十九歳だったのかよ。
(喋り方からして、年下かと思ってた)
それと二人目の注目は、意外かもしれないがラーナだ。
あいつは見習いとはいえ護衛をやっていただけあって、戦闘向きのスキルとして短剣術を習得している。
だけどそれ以上に、事務職向けのスキルを複数習得していた。
(解析に鑑定に看破。おまけに算術って。あの豚は何で護衛なんてやらせていたんだ? 事務職は既に埋まっていたからか? それに……)
これだけの能力があれば、別に俺のダンジョンじゃなくてもやっていける気がする。
どうしてわざわざ俺の所を受けるんだ?
まぁ、その辺は個人の自由だからいっか。
ラーナはラーナなりに考えがあるんだろうし、俺にとっては渡りに船だ。
(他の八人もなかなかだし、面接の印象で決まると言ってもいいな)
ここで共同生活をしながらの仕事だから、人間関係は無視できる要素じゃない。
それを見抜くのが大変なんだけど、そこはイーリアとアッテムの看破スキルに頑張ってもらおう。
建前の嘘かそうでないかが分かるだけでも、判断の基準になるし。
「うん、確認した。これは俺が片付けておくから、イーリアとアッテムは休憩に入れ」
さっきまで仮眠していた俺の代わりにここで働いていたから、二人の休み時間は少し長めにとっておいた。
居住部に戻る二人を見送ってから応募書類を片付け、いつも席に座ってダンジョンでの仕事にかかる。
「マスター、侵入者六名が地下一階層のフロアリーダーの間に到着しました」
「分かった。えっと、今配置されているのは……うわっ」
画面に表示されているのは、呆然と立ち尽くす六人組の冒険者パーティー。
彼らの目の前に立つフロアリーダーは、バイソンオーガでもサイクロプスパンダでもない。
実戦経験を積ませるために配置しておいた、ドラゴニュートゾンビのロードンだ。
あの冒険者パーティー、気の毒に……。
『な、なんだあの化け物はっ!?』
『ふざけんなっ! あんなのに勝てるか!』
『出会い頭で逃げ腰とは、なんと意気地の無い』
『しかも喋った!? 名前持ちなのかっ!?』
そうなんだよ。作れたのは偶然だけどな。
『しかし自分は手は抜かぬ。いくぞ! ブラスト』
ロードンの声と同時に俺はフロアリーダーの間の音声を切った。
あいつがいきなり龍魔法を使おうとしているのが、口元に集まる光と魔法の名称で察したからだ。
そして放たれた青白い光線のような龍魔法。
一瞬で侵入者達を飲み込んで、面影も残らないほどの消し炭に変えてしまった。
「なんですか、あの威力……」
「元々強力な龍魔法が、従魔覚醒の影響を受けているからな」
だけどあれは駄目だ、威力が強すぎる。
全身消し炭のようだから、侵入者の所持品を回収できない。
威力についてはロードンと要相談だな。
少しずつ音声を回復させていくと、画面の向こうから叫び声が聞こえてきた。
『あぎゃあぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁっ!?』
おっ、あれで全滅したって訳じゃなかったのか。
端の方にいたから攻撃範囲から外れて、直撃を免れたんだろう。
それでも左肩から先を失い、左脚もほとんど失っている。
『ふむ。やはり今の龍魔法、威力はともかく攻撃範囲が狭いな』
いや、十分だから。
草原のような場所に広く展開している相手にならともかく、フロアリーダーの間なら十分だから。
それと、あれだけの攻撃を受けても焦げてすらいない、フロアリーダーの間の壁と床の耐久力が凄い。
前にダンジョンについて調べている時、壁や床や天井は魔物や侵入者の攻撃では破損されないって情報を見たけど、こうして威力の高い攻撃で見ると納得だ。
『いぎいいいぃぃぃぃぃぃぃっ!?』
『うるさい』
『ごぶあっ!?』
悲鳴を上げて悶絶している女冒険者をロードンが蹴飛ばす。
女冒険者は壁に叩きつけられて血を吐き、地面に倒れて動かなくなった。
生命反応は……辛うじてあるか。
「ロードン、そこまでだ。そいつらは育成スペースの方へ放り込んでおいてくれ」
『承知いたしました』
これ以上やられたら、あの女冒険者の持ち物が回収できなくなる。
それにしても、これだと一方的過ぎて経験にならないな。
おまけに攻撃が強すぎて、所持品を回収できなくなるのも痛い。
「加減させたら、実戦投入している意味自体が無いし……」
強い侵入者が現れればいい話だけど、そう都合良くは現れないだろう。
仕方ない。例え力の差が有りすぎても、侵入者の相手をさせている方がマシか。
「ロードン、そのまま予定の時間まで頼むぞ」
『承知』
あいつと戦う侵入者の持ち物は、よほど強くない限りは諦めよう。
強い奴が来た時の備えと思っておけば、安いものだ。
「マスター、あの女冒険者はまだ息があるようですが?」
おっと、そうだった。そいつの扱いに関する指示を忘れていた。
と言っても左腕が無いし、左足もほとんど龍魔法で抉り取られてるから、奴隷にしても大して売れなさそうだ。
パンデミックゾンビにして、魔物を武装化させて義足と義手を付ける事も可能だけど、そこまで手間暇をかけるほどの能力がこの女冒険者にあるだろうか?
……無さそうだな。
「いいや、所持品を回収したら魔物達にやっておけ」
「了解です」
さてと、今の戦闘とは呼べない戦闘の記録を一応作っておくか。
新しくロードン専用のを作って、今後の戦闘データはここに書き溜めていこう。
だけど今回分かったのは、従魔覚醒の恩恵を受けた龍魔法が強すぎるという事ぐらい。
それでも記録しない訳にはいかないから、威力がどれほどなのかを記載しておく。
「マスター、所持品の回収は終了しました」
「ん、ありがとな」
「いえ。あっ、それとボイスマーメイドが何か主張していたので魔石盤で確認したら、新たなスキルを習得していました」
おっ、遂にやったか。
演奏スキルを習得させようと思って笛を渡して、それから戦闘とは別に演奏の訓練もさせていたけど、遂に習得したか。
ところが調べてみると、演奏スキルだけでなく歌の効果を上昇させる歌唱スキルまで習得していた。
そういえば、普通の歌を魔物達に披露していたっけ。その成果が出たのかな。
「そんじゃ、あいつ用の武装を用意してやるか」
ボイスマーメイドの歌の力を活かすため、演奏スキルを習得できたら与えようと考えていた武装を作ってやろう。
使用する魔物を二体召喚したら育成スペースへ向かい、その魔物を呼び寄せる。
魔物は魔力吸収スキルを持った巨大カエル、ドレインフロッグだ。
「召喚早々悪いけど、スカルウルベロス! ボーンベアタウロス!」
普段はパンプキンゴーストに付き従わせている二体を呼び寄せ、ドレインフロッグと戦闘をさせて倒す。
片方はスカルウルベロスに噛み砕かれ、もう片方はボーンベアタウロスの圧倒的な力で倒された。
「後はいつもの武装化の手順で……」
心臓付近に切れ込みを入れて魔心晶に触れ、形状をイメージしながらゆっくりと魔力を流し込む。
やがて二体のドレインフロッグの死体はイメージした通りの楽器、色違いのハンドベルに変化した。
これなら使いながらでも歌えるし、使い方を教えることが出来る。
「効果の方はどうだ?」
早速魔石盤でハンドベルの効果を調べてみよう。
名称:魔鍾・響減
属性:無属性
品質:中級
製作者:ヒイラギ・リョウ
効果:鳴らしている間、使用者以外の生命体は常に魔力が減少する
減少量と減少速度は使用者の演奏スキルの熟練度によって変化
名称:魔鍾・軽鍾
属性:無属性
品質:中級
製作者:ヒイラギ・リョウ
効果:鳴らしている間、使用者への物理・魔法によるダメージを軽減
軽減する量は使用者の演奏スキルの熟練度によって変化する
魔力を削る魔鐘・響減とダメージを軽減する魔鍾・軽鍾か。
どっちもいいじゃないか。
「それじゃあ、これはお前に預けるからな」
二つのハンドベルを渡したボイスマーメイドは頷き、満面の笑みでハンドベルに頬ずりして水中へ潜った。
気に入ってくれたのならなによりだ。
愛着があれば大事に使ってくれそうだしな。
「さて、仕事に戻るか」
明日は面接だから、影響が出ないようにしっかりやることやっておかないと。