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第18階層 宣伝すれば冷やかしでも客は来るもんだ

フェルト「リンクスさん、なんで男なんですか……」


 朝のミーティングでヒイラギ様から、侵入者が来なくなっても構わないから全力で撃退する方針を伝えられました。

 以前に私が指摘し、対応してくれたのを覆してまでそうする理由は何でしょう。


「何故、そうすることにしたのですか?」


 理由を尋ねるとヒイラギ様は、何故か言い辛そうに視線を逸らしました。


「おい涼。ひょっとして、何か後ろめたい事でもあるんじゃねえだろうな?」

「そんな事はこれっぽっちも無い!」

「だったら言えよ」


 こういう時に香苗さんのような方がいると助かります。

 幼馴染だからこそ、あそこまで突っ込んで尋ねられるのですから。


「……この場所を失いたくないんだ」

「はい?」

「万が一にもここを攻略されて、ここにいる皆と過ごすこの場所を失うのが嫌になったんだよ」


 恥ずかしそうな素振りで告げられた内容に私だけでなく、全員が唖然としました。


「えっと、それはどういう?」

「そのまんまの意味だ、何度も言わせるな」


 照れくさそうに顔を逸らす辺り、本当にそのままの意味なのでしょう。


「そういう訳だから、今後は防衛と存続を第一に考える。冒険者が来なくなろうとも、給料は副業で稼いで払う。何かしら思うことはあるだろうけど、どうか力を貸してくれ」


 要するにダンジョンからの収入は皆無になっても構わないから、ここを攻略されないように侵入者は総じて全滅するような、魔窟のようなダンジョンにするのですね。

 ダンジョンギルドから派遣された身としては複雑ですけど、ダンジョンマスターであるヒイラギ様がそう決めたのならばそれに従いましょう。。

 それにどんなダンジョンを作り上げるのか、気になって仕方ありませんからね。


「承知しました。ヒイラギ様がそう決めたのでしたら、喜んで力をお貸しします。皆さんもよろしいでしょうか?」

「構いませんよ。望むところです」

「やってやりましょう!」


 同意を示して皆さんに問いかけると、次々に同意してくれました。


「皆、ありがとうな」


 皆さんの賛同の声にヒイラギ様が微笑んでお礼を言いましたが、微笑みの破壊力が凄いです。

 目つきの鋭さから高圧的で怖い印象を抱きやすい分、微笑まれた時はドキリとしますね。

 サトウさん以外の女性陣も頬が染まっているので、似たような気持ちなのかもしれません。

 ちなみに唯一反応していないサトウさんは、「ヒイラギ君がデレた」と言っています。

 デレたとは何でしょう? 元の世界の言葉なんでしょうけど、全く意味が分かりません。


「という訳でローウィ、これは今後の魔物育成についての提案書だ。目を通してみてくれ」

「はい!」

「イーリア、アッテム。俺はこれから仮眠だから、その間は頼むぞ」

「「はい!」」

「皆も体調管理のために休憩はしっかり取る事、いいな!」

『はい!』


 決意が固まったからか、昨日より言葉に力強さを感じます。

 ならば私達も、それに応えなくては。

 ミーティングが終わって居住部へ引き上げる方々を見送り、一緒に朝一番の勤務に入るサトウさん、リンクス君、ミリーナさんへ声を掛けます。


「それでは皆さん、今日もよろしくお願いします」

「「「お願いします!!」」」


 うん、良い変事です。

 現在侵入者はいませんが監視は怠らないよう配置に付こうとしたら、ヒイラギ様の席に書類がありました。

 気になったのでそれを手に取ってみると、仮の副業企画書でした。

 仮なのでまだ考案段階なのでしょうが、どんな企画を考えているのか気になりますね。

 ちょっと見させてもらいましょう。



 仮・副業企画書


 ・娯楽施設:競馬等


 ・元の世界の野菜の畑:「異界寄せ」を明かすかどうかが


 ・食料品の製造販売:燻製、乳製品等


 ・養蜂:ハチミツの生産販売


 全てにおける絶対必要条件・これらを行う土地の確保



 なるほどなるほど、これが現在考案中の副業案ですか。

 どれも余所に委託するのではなく、人材を確保して事業を起こす形で考えているようですね。

 確かにそうしておいた方が、攻略されてここを追い出された後も生活拠点と職場が残りますから、全力を注いでも攻略された場合を考えると至極当然の判断です。


(ですがこの、競う馬と書いてあるのはなんでしょうか?)


 娯楽施設とあるのですから、何かしらの遊び場だとは思いますけど分かりません。

 それと燻製とは何でしょう?

 食料品ですから食べ物なのでしょうが……。

 こういう時は、同じ世界から来た人に聞くのが一番ですね。


「サトウさん、ちょっとよろしいでしょうか? これらについてお聞かせください」


 企画書を見せながら説明を求めると、やはりどれもヒイラギ様とサトウさんがいた世界のものでした。

 競馬とは数頭の馬を競争させ、どの馬が勝つかを賭ける賭博。

 これは賭博関係で賑わっている第三エリアにもありません。

 私達にとっての馬は、運搬や農作業の手伝いのような労働力であり食肉。

 競馬とやらのように使うのは、誰も考えていません。


「一口に競馬と言ってもね、単純に走るだけだったり、障害物を越えさせたり、重い荷物を運ばせたりと色々あるの」


 ほうほう、走る速さを競うだけではないのですね。

 馬が障害物を越える姿は想像できませんけど、重い荷物を運ばせての競馬は想像できます。


「確かばんえい競馬、っていったかな? スピードは無いけど、力強いから迫力が凄いらしいの」


 重い荷物を運ぶ馬の迫力ですか、ちょっと見てみたい気がします。

 そういった競技なら商家や農家で運搬用に飼われている馬が出場できますし、力自慢となれば注目されて宣伝になるでしょう。

 速さを競うのも魅力的なんでしょうけど、私達には力強さを競う方が盛り上がる気がしますね。


「では、こちらの燻製とはなんでしょう?」

「煙で燻す調理方法よ」

「そんな調理法があるんですか」


 なんでもそうすることによって保存性を高めるだけでなく、同時に香り付けを行うそうです。

 保存というと塩に漬け込む、干すか焼しめて水分を抜くといった方法がありますが、そういう方法もあるんですね。

 えっ、ハチミツ? 正気ですかこれ。


「イーリアさん、侵入者です。四人組の冒険者です」


 おっと、侵入者が来ましたか。

 一旦企画書、特にハチミツの件は置いといて対応を優先しましょう。

 企画書は元の場所へ戻して、サトウさんも席に戻ってもらい魔物達へ侵入を知らせます。


「侵入者です。これまでの訓練どおり、お願いします」


 連絡を受けた魔物達が動き出しました。

 冒険者は若い男ばかりの四人で、冒険者になりたてのような見た目です。

 意気揚々と乗り込んできたところを悪いですが、手加減はしませんよ。


「私達の目的は彼らを撃退し、このダンジョンを守る。それだけです」


 ヒイラギ様の言う通り、絶対に攻略はさせません。



 ****



 仮眠から起きて司令室に入ったら、冒険者パーティーが三組侵入してきたと報告を受けた。

 その内一組は予想外の強さに帰還石で早々に脱出し、残る二組は全滅。

 生存者は男女の冒険者が一人ずつで、現在は隷属の首輪を付けて牢屋にいるそうだ。


「戦闘内容はどんな感じだった?」

「こちらの報告書にまとめてあります」


 用意が良いな。

 受け取った報告書によると逃げたパーティーはそれなりに連携が取れていたのに対し、全滅した二組は十人もの人数で力任せのごり押しか、パーティー内では強い奴によるワンマンチームか。

 ごり押し組は奇襲部隊により分断させられ混乱させられた挙句に壊滅、ワンマンチームは強い奴が奇襲で真っ先に死んだら、後は自然崩壊のような形でやられた。

 生存者はワンマンチームの方の生き残りか。


「魔物の被害は?」

「報告書の後ろの方にまとめてあります」


 うちの助手は優秀で助かるぜ。

 報告書によると、魔物にもそれなりに犠牲が出たようだ。

 だけど犠牲無しで撃退なんてできるはずがないか、ここは割り切るしかない。

 魔力が溜まったから数は補充できるし、控えの魔物達にも訓練をしておいたから大きな問題は無い。


「追加の魔物はすぐに召喚して、訓練をさせよう。回収した品は?」

「サトウさんとユーリット君が鑑定中です。間もなく結果が出るかと」

「内容を見てからになるけど、いくつかは魔物に使わせるために残しておきたい」


 いつまでも安物を使わせる訳にはいかないし、使えそうな物なら使わせてもらおう。

 どの魔物に与えるかは、内容次第だな。


「生存者の解析結果は?」

「既にアッテムさんが調べて、報告書の最後に記載しておきました」


 優秀なイーリアありがたや。うちには勿体ないくらいだ。

 男の方はEランクの槍使いで、スキルは槍術と刺突と採取。

 女の方はFランクの盾持ち剣士で、スキルは剣術と盾術。

 一緒に記載されていた売却した時の見積もりによると、男の方は見た目が良いから銀貨八枚で、女の方は金貨一枚。

 肉体に欠損は無く、大きな怪我や病気も無いから売却に問題は無いようだ。


「にしても、ランクが低い冒険者ばっかりだな」


 回収した冒険者ギルドのカードを調べたところ、侵入してきた冒険者のランクは最高でもDランク。

 これまでの記録でも、それ以上のランクの冒険者がここへ来たことが無い。


(ここに配置されている魔物が理由なのか?)


 腕の立つ冒険者が、わざわざ弱い魔物を狩って金を稼ぐ必要は無い。

 配置している魔物達は鍛えてあるけど、どれも魔物としては低いランクだから儲けも少ない。

 それが低ランクの冒険者しか来ない原因じゃないかな。


「あっ、そっか。涼は地上にいた事が無いから知らないのか」

「何をだ?」

「このダンジョンが繋がってる辺りって、魔物は弱いしダンジョンも無いからDランク以下の冒険者しかいないんだよ。それ以上の奴は王都とか、強い魔物の生息地周辺とか、昔からダンジョンがある辺りで活動しているんだよ」


 ということは、Cランク以上の冒険者は当分見込めないな。

 まぁ、それはそれでいいか。

 冒険者があまり強くないなら攻略される心配は減るし、強い奴が来るようになる前にダンジョンを強化できるし。


「ところで、捕らえた冒険者はどう扱いますか?」


 この二人の扱いか……。


「男は売却、女はリンクスにでも回してやるかな。一応、確認を取って来てくれ」

「承知しました」


 砂糖の売却で金銭的余裕はたっぷりあるし、ここで働く人数も十分だ。

 余裕があれば渡した方がいいって、前にイーリアからも言われたし、いくら自制心が強くとも我慢させっぱなしなのは悪いからな。

 早速イーリアが伝えに行くと、数分後にリンクスが凄い勢いで駆け込んできた。


「マスター! イーリアさんから聞いた話、本当ですか!」


 目をキラキラと輝かせて詰め寄るリンクスの服装は、先生が関わったと思われるチアガール。

 うん、どこからどう見ても部活中の女子生徒にしか見えないな。


「本当だ。欲しいならやるから、好きにしろ」

「ありがとうございます!」


 早速女冒険者の下へ向かうのか、一礼したら入ってきた時以上の勢いで去って行った。

 やっぱり我慢していたのかな。

 いくら女顔で仕草まで女っぽくて女装趣味でも、インキュバスだもんな。

 おっと、入れ替わりでイーリアが戻って来た。


「戻りました」

「ありがとう。他に報告事項は?」

「特にありません」

「分かった。ありがとう」


 ということは、早急にやるべきは魔物の補充と訓練指示だな。

 それが済んだら武装化したスラッシュマンティスを、あの魔物へ渡しておこう。

 早速コアを操作して魔物を召喚しようとしたら、何かを思い出したかのようにイーリアが詰め寄ってきた。


「そうでしたヒイラギ様。一つお尋ねしたいことがありました」


 どうしたんだ急に。


「失礼ながら、先ほど副業企画書を見させていただいたのですが」

「ああ、あれか。別に見てもいいけど、何かあったか?」

「ハチミツの生産と販売だなんて、正気ですか!?」

「はぁっ?」


 何でハチミツの生産と販売を企画しただけで、正気を疑われているんだ?

 ダンジョンタウンは砂糖が貴重だから甘味は人気が出るだろうし、今までハチミツが売られているのを見たことが無いから受けるだろうと思って企画したのに、そんな反応をされるとは思わなかった。

 なんか周りも信じられないような表情を向けてるし、ハチミツに何かあるのか?


「というか、有るのかハチミツ」

「有るには有りますが、あんな苦くて渋くて不味い物、誰も好き好んで買ったり食べたりしませんよ!」


 苦くて渋くて不味い?

 どうやら認識の違いがあるみたいだから詳しく聞くと、こっちのハチミツはキラービーやソニックホーネットのような蜂の魔物から採取するらしい。

 見た目は琥珀色で美しいものの、どう加工しても味は最低で食糧難に陥っても食べないと言われているそうだ。


「食べるのは蜂系統か蟻系統のような魔物だけで、何でも食べる悪食なスライムでも食べないと言われているんです」


 研修時代に興味本位で舐めて酷い目に遭った経験があると、イーリアは震えながら真に迫る表情で訴える。

 そんな彼女に元の世界におけるハチミツは甘くて美味しい物だと説明したら、がっくりと崩れ落ちた。


「どうせ味わうのなら、ヒイラギ様のいた世界のハチミツを味わいたかったです」


 落ち込むイーリアには悪いけど、お陰で養蜂をするなら異世界野菜同様、「異界寄せ」を明かすくらいの気持ちでいないといけないと分かった。

 その事を忘れないよう、副業企画書に走り書きで記したらイーリアを慰めておいた。

 がっくりと落ち込んだまま退室する彼女の背中を見送りつつ、気を取り直して仕事へ戻る。


「なにはともあれ、まずは魔物の召喚だな」


 前日に金貨を魔力変換したのに加え、侵入者を倒したから魔力はある。

 それを使って倒された魔物を少し上乗せした数で召喚。

 行き止まりの通路で訓練の指示を出しておいたら、育成スペースに戻って一体の魔物を呼び寄せた。

 そいつはナイトバットに噛まれた傷が腐りだしたのを見て、自ら左腕を切り落とした盾使いだったパンデミックゾンビ。


「これをお前にやる」


 差し出したのは左腕用の義手。

 ただし普通の義手じゃなくて、スラッシュマンティスを武装化して作った物だ。

 色は緑色で、手首から先が鎌の形状になっている。

 ちなみに魔石盤で調べた結果はこうだ。



 名称:魔義手・鎌居太刀かまいたち

 属性:土 雷

 品質:低級

 製作者:ヒイラギ・リョウ

 効果:これを装備中は斬撃スキルを得る。

    これを装備中は帯電スキルを得る。

 注意:左腕専用です。左腕が無い方だけが装備できます。



 効果は良さそうなのに、どうして品質が低級なのかは分からない。

 だけど強度はしっかりしているし、せっかく作ったのに使わないのは勿体ない。

 しかもこれは魔心晶へ魔力を流す際、雷魔法を使う時の要領で魔力を雷に変換させながら流した。

 武装化の新たな可能性を見出す、ある意味実験作なんだけど無事に成功。

 属性に雷が付いて、装備中は帯電スキルを得るのはそのお陰だろう。

 能書きはここまでにして、早速パンデミックゾンビに装着させて、実際に使う様子を確認してみよう。


「適当に動いてみてくれ。帯電スキルも使っていいぞ」


 性能確認のつもりでそう伝えると、頷いたパンデミックゾンビは右手に盾を持って動き出す。

 普通は右手に件で左手に盾なんだろうけど、特に違和感も無く動いているように見える。

 帯電スキルは鎌の部分に雷を纏わせるスキルだったようで、雷が迸る鎌はちょっとカッコ良い。


「うん、良い感じだな」


 動きに問題は無さそうだし、義手もちゃんと機能している。

 品質が低級だったからちょっと心配だったけど、大丈夫そうで良かった。

 急にバラバラになったり、腕を振ったら鎌の部分がスポーンと飛んでったりしないか、不安だったんだよな。


「もういいぞ。訓練に戻ってくれ」


 そう告げるとパンデミックゾンビは頷き、訓練へ戻って行く。

 さて、魔心晶へ流す魔力次第で武装化に影響が出るのも分かったし、今回の件を基にボイスマーメイドへ与える武装についてもう一度考えてみよう。

 今後のために報告書として纏めようかと考えながら司令室へ戻ると、書類を手にしたユーリットが歩み寄ってきた。


「マスター様。昨夜の侵入者から得た物の詳細に関する報告書と、売却時の見積書ができました」

「あぁ、ありがとう」


 報告書と見積書を受け取り、先に報告書へ目を通す。

 見たところ特別凄い物は無いものの、品質は確かで物は良い。

 これだったら、入手した武器を魔物達へ与えてもいいかな。

 できれば防具も与えたいけど、明らかにサイズが合わないから売っちゃおう。

 それ以外の物も含めて残しておく物に印を付けていき、全部のチェックと見積書の確認を済ませたら、報告書をユーリットへ渡す。


「印を付けた者は手元に残して、他は売却する。それと武器類は魔物達へ与えるから、他とは別に保管してくれ」

「分かりました、早速仕分けてきます」


 報告書を手にしたユーリットが退室したのを見送り、ようやく一段落着いた。

 ここからは武装化についての報告書を纏めつつ、ダンジョン内の監視業務へ戻る。

 特に動きが無いまま少し時間が経過した頃、フェルトが声を上げた。


「新たな侵入者を確認しました。人数は六名、全員冒険者のようです」


 それを聞いて入り口付近の画面へ目を向ける。

 映っていたのは男四人と女二人だけど、なんだか様子が変だ。


『なあ、いいじゃんか。女の子二人だけでダンジョンに挑むなんて大変だろ』

『俺達と組もうぜ。俺はこれでもDランクなんだぜ』

『こいつだけじゃねえぞ、俺もDランクだ』

『どっちも一昨日まではEランクだったけどな』

『『うっせぇっ!』』


 どうやら六人組パーティーじゃなくて、男四人のパーティーと女二人のパーティーだったようだ。

 というかあの男達、ダンジョン内で何やってんだよ。


『さっきから断ると言っているじゃないですか』

『私達は二人でここへ挑みに来ているんです!』

『そういわずに組もうぜ? 優しくエスコートするからさ』


 真面目な彼女達に対し、男達はダンジョンへ来て何を考えているのだろうか。


「どうしますか? 索敵妨害は既にしていますけど……」


 ナンパにご執心なんだ、索敵すらしていないんだろうな。


「……スローゴブリンが射程内に入ったら攻撃開始」


 人が苦労して運営しているダンジョンでナンパとは、良いご身分だな。

 真面目に攻略しに来た女冒険者達を見習え! そして場所を弁えろ!


「スローゴブリン、射程内に到達しました」

「やれ」


 それから数分後、男四人組は投石に逆上して奥へと誘い込まれ、待ち伏せていたスライムやパラライズスネークに体勢を崩され麻痺させられ、動きが鈍ったところをロックスパイダーやキラーアントに襲われて全滅。

 ちなみに二人組の女冒険者は誘いに乗らず、奇襲されても冷静に対処して戦闘から離脱していたものの、度重なる奇襲に疲れて帰還石を使って脱出した。


「倒した奴らの持ち物は全て回収して鑑定に回せ。死体は魔物達に食わせて良し」

「分かりました」


 まったく、冒険者にもああいうアホな連中がいるんだな。

 一体何を考えて冒険者になったのやら。

 この後、さらに二組の冒険者パーティーを撃退して以降は侵入者は無く、静かに夜を迎えた。


「それじゃあ、監視は頼むぞ」

「はい!」

「お任せください」

「頑張る」


 今夜の早番での見張りはローウィとミリーナと戸倉の三人。

 夜中に入ってくるのは夜行性の動物や魔物ばかりだけど、それはこれまでの話。

 このダンジョンの存在が明らかになった以上、いつ冒険者が来るか分からないから油断は禁物だ。

 明日は定休日だから、できれば侵入しないでもらいたい。


「何かあったら起こしてくれて構わないから」

「ハリセンを使ってですか?」

「……普通に起こせ」


 すっかりハリセンが起こすための道具として定着してしまった。

 香苗には明日、ちょっと厳しく言っておこう。


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