最終階層 この町に作ったものは
涼「これまでありがとうございました」
地下五階層のフロアリーダーの間へ足を踏み入れた侵入者達が、そこにいる魔物を見て驚愕する。
そいつは全身が骨によって構成された、鮫の頭を持った巨大なムカデのようなアンデッド。
背骨から伸びる肋骨のような部分がそのまま足となって部屋中を動き回り、その足と三つ又の尾と牙で冒険者に襲い掛かる。
特に厄介なのは見た目によらず素早い上に、壁や天井も這いずり回って三つ又の尾を自在に動かして攻撃すること。
全ての尾の先端に両刃の剣のように加工した骨があり、それで侵入者を防具ごと斬っていく。
『くそっ! 速すぎて逃げる暇がねぇ!』
この速さは作った俺も予想外の、嬉しい誤算なんだよな。
足が多ければ速いという訳じゃないんだろうけど、とにかく速い上に堅いから結構厄介な魔物だ。
先生が提案してパンプキンレプナントの死霊魔法によって生み出されたこいつの名称は、キメラティックボーンセンチビート。
追い詰めた侵入者へ闇魔法の槍を放ち、串刺しにしたところへ噛みついている。
エグい、そしてグロい。
生み出してもう四年になるけど、相変わらず戦い方がえげつない。
「侵入者の全滅を確認しました」
「キメラティックに指示して育成スペースへ放り込ませます。装備品の回収は私が行きますね」
司令室に詰めている人員も、この四年で新たに採用した人員ばかり。
そう、小野田さんの所へゼルグを連れて行ってから、もう四年が経過した。
あれからゼルグ以降の子供達も無事に生まれ、嫁達が子育てに忙しくなったから新たな人員が六人増えた。
これ以上は嫁も愛人も増やすつもりは無いから手は出さないし、嫁達のガードにより手を出されていないし外堀も埋められていない。
ちなみに六人のうち四人がちゃんとした従業員で、二人は奴隷を買ってきた。
農業の方も同様に三人ほど人員を補充して、成人したローウィの妹達もバイトから正式採用にして主力として働いてもらっている。
「旦那、交代するっす!」
「頼んだぞ。現状は特に何も無いから」
「了解っす!」
休憩を終えたアビーラと交代して居住スペースへ移動すると、待ってましたとばかりに子供達が寄ってきた。
「おとーさん、お疲れさま」
最初に寄って来たのは長男のゼルグ。
伸ばした後ろ髪をまとめて前へ垂らしているのは、本人なりに気に入っているオシャレらしく、切ろうとか言ったらヤダと髪をかばう。
まあ、髪を伸ばしたからって女っぽく見える外見はしていないし、男だから髪を伸ばしちゃダメなんて偏見は無いからいいけど。
「パパ、あしょぼ?」
「とーさん、ご本読んで」
次々に寄ってくる子供達はほとんどが亜人の息子ばかり。
中には数人娘もいて、そっちは香苗と葵と先生とミリーナとエリィとの間に生まれた子だ。
しかしこの四年の間に嫁と愛人全員と子供を作るとか……頑張ったよ、超頑張ったよ俺。
「パァパ?」
「ああ、ごめんな。よしよし、一緒に遊ぼうな」
子供達を引き連れて増設した子供部屋、というより遊び部屋へ行って一緒に遊んでやるか。
勿論、まだ仕事があるからほどほどにな。
「あっ、お疲れ、様です」
赤ん坊を抱えて頭を下げたのは、先月に次男を出産したアッテム。
今は司令室業務から外して、子育てが一段落するまではこっちに専念してもらっている。
ちなみに代理の責任者代行はユーリットが務めている。
「ライアンの様子はどうだ?」
「さっきまで、ちょっと愚図っていたんですが、やっと、落ち着きました」
それは良かった。
喋れないから何に泣いているのかは、こっちが気付かないといけないもんな。
さてと、一緒に来た子供達と遊んでやるか。
「ゼルグはここかしら? あっ、あなた。お疲れ様です」
遊び部屋にゼルグを探しに来たのはエリアス。
半年前に次男となる竜人族の男児を産んだとは思えないほど、出会った頃とほとんど変わっていない。
「お疲れ様。ゼルグがどうかしたのか?」
「リオーネちゃんとパルフィちゃんが遊びに来たんです」
「こんにちは」
「お邪魔します!」
丁寧に挨拶してきた二人の幼女。
猿人族のリオーネとエルフのパルフィ。
この二人はあれだ、あれ、ゼルグの婚約者。
ちょっと訳があって人間として生まれたゼルグには、当然の如く婚約の話が殺到。
異世界人状態というのと人間として生まれた理由は全力で誤魔化して、婚約に関しては年齢を理由にこの二人だけに絞って交流させ、以降はもうちょっと年を重ねてからという事にしてかわしきった。
ちなみにリオーネはダンジョンギルドのギルド長、ハンディルのおっちゃんの孫娘。
パルフィに至っては、魂の名前がエリーゼなダグラスさんの娘だったりする。
母親がエルフでそっちの種族が出たらしいけど、あの外見でぐいぐい薦められたら了承せざるを得なかった。
「あっ、いらっしゃい!」
二人の婚約者の来訪にゼルグが嬉しそうに笑みを浮かべる。
「遊びに来たよ、ゼルグ君」
「何して遊ぶ?」
婚約者の意味を理解していなくとも、仲良くしているようで何よりだ。
他の子供達にも次々と婚約話が来ているけど、ゼルグ達のように仲良くしてくれると助かる。
こんな調子で子育てをしつつ、ダンジョン運営を続けている中で、四年前から新たに加わった日課が一つだけある。
四年前のあの日、小野田さんからもらった日記。
何冊もある上にやたら長くて読み終えるのに時間が掛かったものの、どうにか全てを読み切った。
愚痴や寂しさに関する記述が多い中で、ダンジョンタウン設立やそれに伴う法律の整備など、苦労話も多くあった。
特に食糧関係では苦労したようで、水脈を見つけたり太陽と同じ効果のある明かりを作ったりと、相当大変だったのが窺えた。
『とうとう水脈を見つけた。しかし失念していた。水路か溜め池を作らなければ、無意味に垂れ流しじゃないか』
そんな中で小野田さんが最も心を痛めたのは、奴隷から解放された人間の反乱。
かつて人間が奴隷から解放される制度があった頃に起きた、この事件。
二度と地上に戻れない元冒険者達が集まり、亜人を倒してダンジョンタウンを乗っ取ろうとしたこの計画は、結果的に失敗に終わった。
でもこの事件は、共存を望んで解放の制度を作った小野田さんを酷く悲しませた。
『全員がこの反乱に参加した訳じゃないのは分かっている。それでも、こうなった以上はもう人間に自由は与えられないだろう。治安維持のため、人間の奴隷解放廃止は致し方ない』
事件を受けて人間に限って奴隷解放は廃止。
ダンジョンマスターとしてやってくる異世界人とその子供を除き、ダンジョンタウンで人間は奴隷としてしか生きていけなくなってしまった。
『私は間違っていたのか? 人間と亜人の共存を夢見た私は、間違っていたのかいないのか。答えはきっと永遠に出ないだろう。それでも私はこの事件を痛ましく、それ以上に悲しく思う』
何度読み返しても飽きることがない。
むしろ、飽きたらいけない内容ばかりで飽きることが出来ない。
もしも小野田さんが実際の肉体を持っていたら、いくつかの箇所に涙の痕があってもおかしくない文章ばかり。
正直、文才さえあればこれを基にした物語を書いて、ダンジョンタウンに広げたいほどだ。
ここの住人達に、どんな形であれ小野田さんが抱いた気持ちを共有してもらいたい。
「またそれを読んでいるんですか?」
四年前から就寝前の日課になった、小野田さんの日記の読み込み。
風呂から上がったエリアスの声にふと日記から目を離すと、隣で横になっているゼルグは既に寝息を立てていた。
すぐ傍にあるベビーベッドで眠る竜人族の次男、アゼルも夢の世界へ旅立っている。
「ああ。ダンジョン運営の参考にはならないけど、何度読んでも飽きないからさ」
あえて書いていないのか、日記のどこにもダンジョン運営に関することは書いていない。
仮に書いてあっても参考にするつもりは無いものの、やっぱりちょっと惜しい気がする。
「さてと、ここまでにしてもう寝ようか」
「はい」
明日は定休日。
予定としてはゼルグとアゼルを連れて義母さんの所へ行く。
心の中での呼び方は三ヶ月くらい前に、オバさんから義母さんへ変えた。
味はまだまだだけど、味噌と醤油を完成させてくれたお礼にな。
それ以外のお礼もちゃんとしたぞ?
具体的にはナス味噌炒めとか醤油ラーメンっぽい麺料理とかで。
今は味の向上を目標にしているらしい。
「ではあなた、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
ゼルグを間に挟んで親子三人、川の字になって眠る。
いずれはアゼルも加わる頃には、全員が寝れるようにベッドを大きい物に買い換えよう。
そんな事を思いながら眠りに就いた。
「で、久々にここか」
「ええ、そうですね。おおよそ五年ぶりですかね」
過去に数回来たことのある、異世界へ転移したあの空間。
ここへ来た原因であろうスーツ姿の悪魔男も、相変わらず胡散臭そうな笑みを浮かべている。
「今度は何の用だ? ゼルグみたいなのは、最初の子だけなんだろう?」
「ご安心ください、今回は別件ですよ。もうすぐ来るあなたの奥さんと愛人三名が来たら教えます」
「おいこら、誰をここへ呼んだかちゃんと言え」
尋ねても悪魔男は答えない。
愛人三名はおおよそ見当がつくからいいとして、嫁は……多分エリアスだろうな。
確信は無いけど俺の勘がそう言っている。
あまり当たらない勘だけど、今回は当たる気がする。
「しかしさすがですね。僅か六、七年でランクを八まで上げてエリア内でのランキングも三位に入るとは」
こいつは……小野田さんなみにこっちの事を把握してるな。
「俺だけじゃない、皆で頑張った結果だ」
「そうでしたね、あなたのやり方はそういうやり方でしたね。私もそういうやり方をしていれば、もっと早くキングになれたんでしょうか?」
「さあな。もう終わった事をたらればで考えても仕方ないだろう」
「そうですね。おっと、到着されたようです」
空間の一ヶ所が輝き、そこからエリアスと香苗と葵と雫が現れた。
先生の呼び方も三年くらい前に変えた。
対外的には愛人だけど、うちの中じゃ嫁みたいなものだしな。
「あら? ここは?」
「うおっ!? またここかよ!」
「なんか久々」
「ああもう! せっかくリンクス君が触手責めされてる夢を見てたのにぃ!」
驚く香苗と妙に冷静な葵はともかく、雫はなんつう夢を見てるんだ。
どうか雫との間にできた娘のアスナは、同じ趣味に目覚めませんように。
「っておい、エリアス。耳と尻尾はどうした? 鱗も」
「えっ? あれ? ありません!?」
何故かエリアスの外見が普通の人間になっている。
これも悪魔男の仕業なんだろうけど、なんでわざわざ。
全員の服装が寝間着じゃなくて、俺はここ最近愛用している着流し、エリアスはお気に入りの着物、香苗達は普段着として与えている作務衣なのも悪魔男の仕業か?
「では、そろそろここへ招いた説明しましょう。あなた方が異世界転移をして数年が経ったので、無事に生き残っている方々で同窓会を開いて差し上げようかと思い、ここへ招待させていただきました」
同窓会って……。
突拍子も無いことをいきなり企画するな、こいつは。
「ちなみにダンジョンタウンに捕らえられた方々は、あなたの愛人三名を除いて不参加とさせていただきます。うっかりダンジョンタウンの事を喋られたら、面倒ですからね」
俺と香苗達なら大丈夫だと判断したのか。
だったら、その信用に応えなくちゃな。
「それと奥さんについては、特別ゲストとして呼びました。外見についてはサービスです」
サービスっていうか、そうしないとダンジョンタウンの事がバレるかもしれないからだろ。
「他の方々はもう十分ほどすれば来ます。その間に皆さんは、口裏でも合わせていてください。安心してください、ここではスキルは使えませんから看破で嘘がバレることはありません」
それは助かるな。
よし、とりあえず日本風の文化がある遠い国にいることにしよう。
念のために悪魔男に訊ねて、そういった国が存在しているのと、元クラスメイトは誰もそこにいないことを確認。
その他、細々した所は大きく変えないでいくことで話が済んだところで、地上にいる元クラスメイト達が次々に現れた。
「わっ、なんでまたここに?」
「おおっ! 久しぶりだな、元気してたか!」
「ひょっとしてまた死んじゃったの?」
「はい皆さん、落ち着いてください。説明しますので少し注目を」
手を叩いて注目を集めた悪魔男は、さっき俺達に説明したように生き残ったクラスメイトによる同窓会だと言って指を鳴らす。
すると、居酒屋の座敷みたいにテーブルと座布団が現れ、酒を含めた飲み物や懐かしい向こうの料理が出現する。
「ここでの飲食は実際の肉体に反映されない、いわゆる気分のようなものですので、どうぞ心行くまでお楽しみください」
そう言い残して消えた悪魔男。
色々と言いたいことはあるんだろうけど、皆は目の前に並ぶ料理を食べるべく席へ座っていく。
俺達もそれに倣って適当な席に並んで座り、雫の音頭で乾杯をして同窓会が始まった。
「えぇっ!? その子、柊の嫁さんなのか!」
クラスにいなかったエリアスの存在が真っ先に話題となり、そこで俺の嫁だと伝えるとやっぱり驚かれた。
「ああ。あのスーツ男が特別ゲストだって言ってた」
「エリアスと申します。どうぞよろしくお願いします」
酒に弱いからトマトジュースを手にしたエリアスが挨拶をすると、男連中の表情が緩む。
おいこら、人の嫁に鼻の下を伸ばすな。
「で? どんな馴れ初めなの?」
「えっとな」
俺とエリアスの馴れ初めは、就職した商会の使いで本店に顔を出した時、ひょんなことから食道楽の会長に異世界料理を振る舞って気に入られ、その際に会長の末娘のエリアスに見初められて付き合いだしたことにしている。
結婚するために仕事を頑張って結果を出し、夫婦になって店の一つを任されているという設定だ。
「あの素っ気なくて無気力だった柊がねぇ。なんか雰囲気も変わったな」
「目つきは変わらねえけどな」
「やっている商売が性に合ったんだよ」
仕事の内容は、とても正直に言えないけどな。
そんな事を考えていると、それぞれの現状報告をしようという流れになった。
酒が入ったからか饒舌になっている皆が、順々に現状を喋っていく。
田舎町で警備隊をやりながら、通っている食堂の娘さんに言い寄られているという田中。
焼き物工房で働き、最近になってようやく売り物を作れるようになったという谷本。
作家として大成功して、印税生活を送っているという沢木。
そして勤め先の冒険者ギルドで副ギルド長補佐になり、三年前に結婚してもうすぐ待望の子供が生まれるという桜田。
「やったじゃないか、おめでとう桜田」
「うん、ありがとう」
向かいの席に座る桜田に声をかけ、小さく二人で乾杯をする。
仲の良かった奴が出世してプライベートも順調だと、なんか嬉しい。
「じゃあ次は柊……はさっき言ってたから、サトちゃん先生!」
「はいはい! 私は香苗ちゃんと葵ちゃんと一緒に色々あって奴隷にされたんだけど、運良く涼君と出会って買い取ってもらって、今は三人揃って彼の下で働いてます!」
雫の現状報告で皆の視線が集まってきた。
しょうがないだろ、面白そうだからって悪魔男が奴隷の首輪を消してくれなかったんだから。
でも愛人だということは黙っているように言っておいたから、騒ぎにはならないだろう。
「ついでに言うと、三人揃って涼君の愛人になって子供もいます!」
おいコラァッ! その事は黙ってろって言ったろ!
酔ったのか? 酔ってるだろ雫!
顔が赤いし、やたら上機嫌だし!
「えっ? 愛人? マジで?」
「そう、私達は奴隷だから愛人にしかなれない。そもそも涼君には奥さんが八人、愛人が私達含めて五人いる」
「葵いぃぃっ!」
思わず叫んでしまうのも致し方ないと思ってほしい。
皆の視線がただ注目するだけのものから、冷たいものや嫉妬しているものや羨むものや驚くものや尊敬するものになっている。
「テメェこら、なんだその羨まけしからん状況は! 俺と代われ!」
「断る! 俺の嫁は俺のものだ!」
こうなったら自棄だ、開き直ってやる。
「エリアスさん、いいの? そんなに奥さんや愛人がいても」
「一番愛してくれているのは私ですから、気にしません」
「おおう、即答でなんというノロケをかましてくれる」
さすがはエリアス、分かっているじゃないか。
他の嫁達や愛人達もちゃんと大事にしているけど、それでもエリアスとの間には越えられない壁がある。
それだけエリアスのことを一番大事にしている。
いや、今後もしていく!
「くそう。俺なんか、俺なんかまだ出会いすら無いのに……」
「俺に寄ってくるのは微妙なのばっかだしよぉ……」
「寄ってくるだけまだいいだろ! こちとら女っ気の無い闘技場で働いてんだぞ。いてもゴリラみたいなのばっかだし!」
「柊テメェ、一人寄越せ!」
「誰がやるかっ!」
人の嫁を奪おうとするんじゃない!
「にしても、半分くらいになっちまったんだな」
ふと香苗が零した言葉で静まり返り、しんみりとした空気になった。
原因の一端が俺にもあるから、ここは黙っていよう。
実は数人がダンジョンタウンで奴隷になって、今も生きているなんて口が裂けても言えない。
「やっぱりあんな事は一度きり、二度目は無いってことね」
「当り前よ。そもそも異世界とはいえ、こうして生き延びられたこと自体が奇跡みたいなものなんだから」
そうだな、実際はあの事故で終わっていたはずだった。
それが神様の気まぐれで異世界へ転移して、今じゃすっかり馴染んで生活基盤もできた。
人間の適応力って凄いな、本当に。
「はいはい、やめやめ! せっかくの同窓会なんだ、死んだ奴らのために乾杯して、盛り上げて行こうぜ!」
空気に耐えられなくなった山田の音頭で再度乾杯をして、改めて同窓会は盛り上がる。
だけど盛り上げるネタのため、俺の嫁達がどんな子達なのかを話すのはやめろ。
そんな空想じゃない、本当の姿を俺が語ってやる!
「第二夫人はイーリアっていうんだけど、褐色肌で最初の印象は氷の女って感じだったな。でも割とすぐに普通に笑ってくれるようになってな」
語りだしたら、苦笑いする桜田を除く男連中が怨嗟の目を向けてきた。
爆発しろだのリア充憎むとかいう呪詛は聞き流し、これでもかと語ってやると終いには桜田以外の男連中はやけ酒を呷っていた。
女子は女子でエリアスを加えて盛り上がった同窓会は、皆が目覚めるギリギリまで続く。
「そろそろ時間ですよ、皆さん。現実の肉体は酔っていないので、安心して仕事を頑張ってくださいね」
地味に水を差す悪魔男の言葉と共に、徐々に皆が消えていく。
消える寸前まで話していた桜田とも最後に握手を交わし、意識が暗転して目覚める。
隣で寝ていたゼルグは既に起きていて、両手を挙げて体を伸ばしている。
「ん……おはよう、ゼルグ」
「おはよ!」
朝から二パーと笑うゼルグが口にする、次のセリフはいつも同じ。
多分今日もそうだろう。
「おとーさん、お腹空いた!」
ほらやっぱり。
「何がいい?」
「焼きおにぎり!」
前に食べて気に入ったからって、ほぼ毎回それだな。
まあ息子の喜ぶ顔が見れるのなら、別にいいけど。
「ちゃんと野菜も食べろよ」
「うん!」
好き嫌いが無いのは幸いかな。
子供が苦手な野菜も普通に食べてるし。
「おはようございます、あなた」
おっと、エリアスも起きたか。
「ああ、おはよう」
「えっと……」
起きて早々に耳に触れて尻尾を動かし、鱗があるかを確かめている。
安心しろ、ちゃんと全部あるから。
確認を終えるとホッと胸を撫で下ろし、声を上げるアゼルをどうしたのかと抱え上げる。
「おとーさん、ご飯」
はいはい、分かったって。
あっ、なんかさっきまでやっていた同窓会を通じて、小野田さんが本当の意味でダンジョンタウンを作った理由が分かった気がする。
亜人の独立だとか親離れだとか自身の子離れもあるんだろうけど、一番の理由は日常を求めたからだったのかもしれない。
異世界転移でこんな地下に住むことになって、元の世界で過ごしてきた日常を望んでダンジョンタウンを作ったのだとしたら。
だからこそ、物々交換じゃなくてうろ覚えの知識で法律とか税金とかを制定して、通貨も流通させた。
(ひょっとすると小野田さんは、自分が過ごしていた日常を再現したかったのかもしれない)
今はあの場所で、自分が求めた日常を過ごす俺達を見て思い出に浸っているんだろうか。
日記には書いてなかったけど、そうなんじゃないかって今になって思う。
「おとーさん?」
「あなた? どうかしましたか?」
「ん? いや、なんでもない。さっ、飯にしようか。焼きおにぎり作ってやるからな」
「うん!」
アゼルを抱えたエリアスを連れ、ゼルグと手を繋ぐ。
ああ、まさしく日常だ。
やっている仕事とか亜人が圧倒的に多いのとか、家族が多いのなんか些細な事に思えるほど日常的だ。
部屋を出て迎えてくれる家族達と過ごす、こっちで過ごす日常っていう現実。
まだまだずっと、この世界の日常は続いて行くんだろう。
永遠に。




