運命という名の奇跡
---僕が君と出会えたのはほんの些細な偶然だったのかも知れない
それでも僕はこの出会いを、運命という名の奇跡だと思っているよ---
私が初めてキリに会ったのは、クリスマスで浮かれていた街中だった。
行き交う人たちはみんな楽しそうで、私一人だけが不幸を一身に背負っているみたいな時だった。
クリスマスの数日前に両親を亡くし、兄弟もいない親戚もいるか解らない、突然天涯孤独の身になってしまった私は、一人これからどうしたらいいのかと考えながらとぼとぼとクリスマス一色の街を歩いていた。
お金なら保険金で高校を通いながら生活するだけはあった。
それでも、高校にこのまま通い続ける気にはなれなかった。
同年代の友人たちと楽しく学校生活を送れるとは、どうしても思えなかったのだ。
どれほど気を遣われるか解らない、気を遣いながら友達付き合いされるのは堪らないように思えた。
それくらいならいっそ、夜間にでも通って昼間は仕事をした方がこの先のことを考えればいいように思えたのだ。
「でも・・・だからって私に何が出来る?何の資格も持ってないよ・・・」
途方に暮れていたそんな私に、その時声をかけて来たのがキリだった。
「何をそんなに落ち込んでいるの?
せっかくのイブなんだから楽しまなくちゃ、お嬢さん♪」
「へっ?・・・私?」
突然横から聞こえて来た声に驚いて振り向いたそこには、すごく背の高いサンタクロースがいた。
私で160cmあるのに、思いっきり見上げないといけないくらいだから、ゆうに180cmはあるのだろう。
「そうそう、君。せっかくのかわいい顔が台無しだよ。
笑うともっとかわいいと思うのにさ。」
「そんなの・・・無理だよ。
楽しくもないのに・・・笑えない・・・よ。」
ポロポロと突然泣き出した私に、サンタクロース姿の青年は慌てふためいた。
この背の高いサンタクロースが、キリだった。
「うわっ!・・・ちょっとタンマ・・・
店長ー!!俺今日これで抜けるー!!バイト代いらねぇから!!」
「おぃ、キリ!!ちょっと待て!!!
お前が抜けたら誰がサンタするんだー!!!」
店長と呼ばれた男性の声に背中を追われつつ、サンタの衣装を手早く脱いだ彼に手を引かれて、私は人込みから少し離れた小さなツリーの下に連れて来られた。
「ゴメン!!」
「えっ?」
イキナリ頭を下げられた私は、何がなんだからわからずに呆然としていた。
「僕が何か気に障ること言ったから泣いちゃったんだろ?
だからゴメン・・・」
「えっ・・・あの・・・気にしないで・・・あなたのせいじゃないから。
泣くつもりなんてなかったのに、勝手に涙が出ただけだから・・・」
「でも僕が声をかけなかったらあそこで泣き出すことなかったはずでしょ?」
確かに彼があそこで声をかけていなければ、泣き出すことはなかったかもしれない。
でもだからといって、声をかけた彼が悪いわけではない。
自分でもなぜ涙が出たのか解らないのだから、誰のせいでもないのだ。
気にしないでというのに、頭を下げる彼に私はどうしようかと悩んでいた。
「あの、ホントに気にしないで・・・」
「よしっ、決めた!!」
もう一度気にしないで欲しいと言う私に、彼は突然下げていた頭を上げてそう言った。
「えっ??」
「ここだと寒いからお茶飲みに行こう!!」
「えっ?あの・・・」
突然のことにオロオロする私の手を引いて、彼はまた人込みへと向かって歩き出す。
イキナリお茶を飲みに行こうと言われても困ってしまう。
「お詫びにおごるよ。紅茶のおいしい店知ってるんだ。」
「ちょ・・・ちょっと待って!!」
引かれる手を何とか食い止め、私は立ち止まる。
そんな私に今度は彼の方がキョトンとする。
「ホントに気にしてくれなくていいから。
クリスマスなんだからこんな見ず知らずの女にお茶おごろうなんて思わないで、彼女と一緒に楽しみなよ。
だから・・・。」
「ほうっておいて・・・って?
無理だよ。
そんな悲しそうな顔した女の子をほうっておくほど、僕は人でなしじゃないつもりなんだ。
それにクリスマスを一緒に楽しむ彼女も別にいないしね。
だから寂しい男を慰めると思って、一緒にお茶飲んでくれると助かるな。」
まるでナンパしているような口調ではあったが、私を一生懸命慰めようと思って言った言葉だと解った。
「そうだ、自己紹介してなかったね。
僕はキリ、平山桐。
19歳の大学生、よろしくね。」
ニコッと人好きする笑顔でそう言って、キリはこちらにも自己紹介を促すような仕種を見せた。
「・・・ハルカ・・・高木春香、17歳。」
「ハルカちゃんか・・・じゃあハルカちゃん、この寂しい僕と一緒にお茶でも楽しんでくれないかな?
せっかくのイブに一人寂しく過ごすしかない僕を助けると思ってさ。」
そう言うキリに、私はこの時なぜだかとても救われた気がした。
本当は一人寂しく過ごすしかないのは私の方なのだ。
恐らくキリならいくらでも遊んで過ごせる友達も多かっただろうに、私を元気付けようとそう言ってくれたのだ。
そんな彼の気持ちが伝わり、私はまた泣きそうになりながらも笑顔を浮かべたのだった。
この日から何度かキリと会うようになり、私は結局そのまま学校に通う事になった。
就職するならば、出来れば高校は出ておく方がいいというキリの言葉に納得したからだった。
キリも私と同じで両親がいない。
私よりも幼い頃に両親を亡くして施設で育ち、バイトをしながら大学まで通っているのだった。
そんな彼の言葉だからこそ、私は従うことにしたのかもしれない。
「学校はさ、行けるなら最後まで行く方がいいよ。
社会に出てからでは経験出来ないいろんなものを見れるからさ。
生活なんてのは案外どうにでもなるものなんだ。
でも思い出っていうのは、その時その一瞬その人としか作れないものっていうのがあるからね。
出来るだけたくさんの思い出を作って置く方がいいよ。」
そう言ってくれた。
だからこそ私は、あの時高校生活を一生懸命楽しもうと思ったのだ。
そしてあれから3年経った今日、私はキリのところへと嫁ぐ。
二人とも両親も兄弟も親戚もいない、本当に二人きりの家族だ。
でも、たくさんの友人達とお世話になった人たちが私達にはいる。
それに家族はこれから増やして行けばいいのだ。
「出会いはホントに偶然だったのにね。
これからいっぱい子供作って、幸せになろうね。」
「あの出会いは偶然だったのかもしれないけど、でも僕はハルカに出会ったこの偶然は運命っていう名前の奇跡だと思うよ。」
「奇跡・・・か。
うん、そうだね。あれはクリスマスの奇跡だったんだよね。
きっと私達二人の両親が贈ってくれた、クリスマスプレゼントだったんだよね。」
だから、きっと二人なら幸せになれるよね。
~Fin~
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