閑話―兄の憂鬱
閑話の位置を入れ替えました。
我が家には天使が住んでいる。
私の妹、アダーラがそれだ。
天使がその瞳に初めて私の姿を写し出した時、確かに体の中を何かが走り抜けた。
稲妻に打たれたらあのような感触がするのだろうか?
分からないが、その時から私の中に何かが生まれたのは確実だ。
愛しい妹は私の姿をじっと見つめる。
心の奥まで見透かされてしまいそうな瞳は他の誰も持たない黒色をしている。
吸い込まれてしまいそうな浮遊感に耐えて更に深淵を覗けば、複雑に色が絡み合っているのが分かる。
その更に奥、紫の、炎としか形容しようのない光が、アダーラの瞳の中で揺らめいている。
それがアダーラの瞳を輝かせ、より一層神秘的な雰囲気を醸していた。
正に天使。
地上に使わされた天の御使い、それが私の妹だ。
他の誰も持たない色彩、ただ黒と言うだけでもとても希少であるのに、アダーラのそれを成すのは複雑に絡み合った様々な色合いだ。
きっと将来、この妹の稀有な色彩は争いを呼ぶだろう。
彼女が望む望まないは関係なく、皆が競って手中に納めようとするのは明白だった。
色彩は即ち、魔力を表す。
私の髪色が、アダーラに言わせればお日様色から若草色へグラデーションを描いているのだそうだ。
天から地へと続く色。
これはアダーラを守り慈しむ使命を与えられた証に他ならない。
この色彩の通り、私には複数個の魔法特性が与えられている。父のように、ただ1つの力を強く、そう、とても強く与えられた者もいれば、母や私のようにいくつかの力を与えられた者もいる。
しかし
アダーラほど複雑に、そして数多くの力を与えられた者などこの地上に唯一人としていない。
そう、いないのだ。
誰もが持つわけではない魔法特性を、色濃くそして数多く与えられたアダーラはまだ自分の身を守る術を持たない。
得たとしてもあんなにも愛らしい女の子だ。
到底、危険は減らないだろう。
ならば守れるように私が力を付ければ良い。
簡単な事だ。
アダーラを守る為ならば、難しいことなど何一つない。
父を越える力をつける。
そして生涯をかけてでもアダーラを守る、それをあの日、アダーラの瞳に誓ったのだ。
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