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5話 目覚め 5

勢いのまま書いていたら、なんだか沢山の方に読んで頂けているようで、もうにゃんこ神輿でわっしょいです。

本当に有難う御座います。


あれから父は、月に一度のペースで帰ってくるが、長く滞在する事は難しくなったようだ。

どうにも隣国がキナ臭くなって来たとか来ないとか。

乳幼児には関係がないので、アダーラはあまり興味を抱かなかった。

先の戦争から30年、条約の期限が迫っているとかいないとか。

そんな話だ。


毎日を忙しく過ごし、短期の休暇を作っては早馬で屋敷を訪ねる。

アダーラを構い倒し、シリウスを鍛え、嵐のように去ってゆく父ももはや日常と思えるようになった頃、屋敷から王都へ早馬が出された。

大事件である。



「シェアト、父上はまだ戻らないのか?」

珍しく苛立ちを露わにしたシリウスが声を荒げた。


「旦那様がすぐに馬をとばしてもまだ半日はかかります。落ち着いて下さい。」

屋敷に残されている従僕が穏やかに、表面上は穏やかにシリウスを諭す。

が、何故か百科事典を手に持っている。

何に使う気だったのか、問い詰めてみたいものだ。


「にいさま、にいさま?おなかいたいの?」


子供特有の舌っ足らずな甘い声が、シリウスを正気戻す。


「ああ、そうじゃないよ、アダーラ。兄様はどこも痛くないよ。」


自身を落ち着かせるように、アダーラの癖のない髪の毛をすき、微笑みかける。

2歳になったアダーラは、兄のひいき目を差し引いてもしっかりとした子供に育っていた。

それもそのはずである。

中身は思春期を終えた年齢である。




俄かに母が産気づいたのは、今日の昼食を終えた頃だった。

そろそろ予定日も近く、腹も張ってきた事から、王都の父には既に早馬を手配した後だった。

現代日本でも出産の予定日通りに生まれる事などまぁ稀である。

超音波による診察ができる訳でもないこの世界で、予定日などあってないようなものである。

父がすぐに帰れない立場にある事は母も承知をしている。

何より3人目の出産である。

大人たちは落ち着いたものであるが、シリウスは違っていた。

シリウスの記憶にある、アダーラの出産時よりも明らかに母の腹は大きく、そして辛そうであった。


どうすれば良い?

何をするべきか?


他の同年代の子供よりも聡いとは言え、シリウスもまだ9歳の子供である。

2歳になったばかりの妹の手を握り考えるが、気が焦るばかりだ。


「にいさま、あのね。かあさまはあかさんが生まれるのよね?」

「そうだよ、アダーラ。アダーラの弟か妹か、どっちだろうね。」


シリウスは上手く笑えているか分からない。

それでも、最愛の妹に不安は悟らせまいと精一杯微笑んだ。


「えとね、せいけつなぬのと、おゆがひつようなのよ。」


満面の笑みでアダーラは言う。


「かあさまがおっしゃっていたの。あかさんが生まれるときはおとこの人はうぶやに入ってはいけないんですって」


だから一緒に待っていましょうと、アダーラは言う。


「おとこの人は、おゆとぬのをよういしてまってるんですって。」


何に使うのかしら?と


その声に弾かれた様に、シリウスは指示を飛ばす。

父不在の今、屋敷を回さなくてはならない。

きっと優秀な家令は既に指示を出しているだろう。

それでも、シリウスが声を出す必要があった。


「畏まりました。すぐに…。」


そう言って家令は年齢を感じさせない軽やかな足取りで退出をする。

妥協点には達したようだ。


「ありがとう、アダーラ。」


どういたしまして

そう言うようにアダーラは手を握り返した。


2年、穏やかに親愛を築いてきた兄妹には確かに絆が出来上がっていた。




その後、ぼろぼろのよれよれになりながら帰宅した父がそのまま産屋に乗り込み引きずり出されたり、何時ものように一騒動はあったが、母は無事に健康な子を産んだ。

男子の双子であった。


二人とも、うっすらとブロンドの毛髪が見えていて、瞳は風渡る草原の色であった。


そんな弟達の姿を思い出し、アダーラは一人鏡の前に立つと、何とも複雑な気持ちになる。

アダーラの髪はまっすぐな黒髪で、瞳も同じく黒く、よくよく覗き込むと瞳の奥に燃え立つような紫の炎が見えるのだ。

それがアダーラの大きな瞳をきらきらと輝くように見せ、より一層魅力的に映るのだが、あまりに両親とも兄とも、そして生まれたばかりの弟達とも違っていた。


もしかして『私』がいるから?


もう名前も思い出せない『私』。

でも確かに日本で生きて、そして恐らく死んだ『私』。

『私』がいなかったら、『アダーラ』は他の家族と同じく輝くようなブロンドの髪に美しいグラデーションを纏っていただろうか?


『シリウスお兄様』はアダーラを慕ってくれている。

でも

愛するアダーラの中に『私』がいると知られたら?


それでも愛してくれるだろうか?

父は?

母は?

弟達は?


愛情を疑う訳ではない。

確かに曇りのない愛情を向けてくれているのは感じる。

でもそれは『アダーラ』が受けるはずの愛情だったのではないか?


いつの日か『私』の存在が露呈するのではないか?

弟達の誕生によって、一層鮮やかにアダーラの異質さが示されてしまった。



…怖い

温かい眼差しを失うのが

手の温もりを知ってしまったから

失う事が怖い


新しい命の誕生に喜びの溢れる屋敷の中で、アダーラただ一人が這い寄るような恐怖に怯えていた。


誤字修正致しました。



ここで一先ず目覚めは終了です。

細腕繁盛してないしね!

はらはらドキドキの展開はほぼありませんが、次回より新章となります。


本日も読んで頂いてありがとうございます。



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