表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

4話 目覚め 4

おかしい、いつもの倍の量を書いたのに

進んでないだと?


「おはよう、アダーラ。マイスウィートエンジェル!」

「おはよう、アダーラ。僕の天使!」


あれから、アダーラの部屋の人口密度が増える事となってしまった。

アダーラの一日は暑苦しい挨拶から始まるのが日常となった。

父と兄である。


日参してはその一日の大半をアダーラを眺めて過ごす。

アダーラがうごうごしている横で、兄は勉強をし、父は仕事をしているらしい。

そしてこの二人がいるせいで、母もまた大半をアダーラの傍らで過ごすのだ。


幸せな家庭である。

そこは否定しないアダーラではあったが、正直面倒であった。

事あるごとに父は兄と張り合い、アダーラの寵を競った。

アダーラとしてはまだ乳児から乳幼児へと移る程度の年齢である。

当然、ほぼ初対面の成人男性よりも兄の方が良い。

良いのであるが、その成人男性が涙を流し、うなだれる姿を見るのも忍びないし、部屋の隅からすすり泣かれるのも面倒である。そして更に、それを宥めて仕事をさせる使用人のみなさんにも申し訳がない。

結果、父にも兄にも気を使い、甘える必要があった。


乳幼児なのにである。


そして父が在室しているせいで、今までその存在を知らずにいた他の使用人の顔も見る事となった。

家令なのか執事なのかは分からないが、きっちりとしたスーツに身を包んだ初老の男性が父に仕事を促す。その周りで細々とした雑務を年若い2人の従僕がこなしていた。

三者三様にアダーラを親愛の情を浮かべた瞳で、時折見つめるのがどうにもくすぐったい気持にさせる。

初老の男性は、眩しそうなな慈愛の瞳で、年若い2人は輝くような笑顔で、アダーラが見つめている事に気がつくと笑みを深める。


「旦那様、こうしてお嬢様のお側で執務をするのも新鮮でよいものですね。」

「おう、でもアダーラはやらんぞ。」

「いくらお嬢様がお可愛くても、まだ1歳にも満たないじゃないですか。いくらシェアトがむっつりでもそれはあんまりですよー。」

「でも天使だぜ?」

「はい、そうでございますね。ここサインが抜けております。シェアトもマルカブも、執務中の私語は慎むように。旦那様の間違いが増えます。」

「ああ、すまなって、俺か、俺が悪いのか?俺の集中力の問題か?


なんとも気安い雰囲気を醸し出しつつ、父は執務をこなしていた。

父親は死んだのではないだろうか、などと物騒な事を考えていたアダーラの予想を裏切り、精力的に執務をこなし、そして時間が空けば、アダーラとシリウスを構い倒すと言う、中々の父親っぷりである。


「ああああぁぁ、癒されるな。やっぱり王都なんかもっと早く逃げ出してくるべきだったわぁ。」


アダーラを抱くシリウスを膝にのせ、ぐりぐりと撫でながら父は呟く。

王都、耳慣れない、初めて聞く言葉にアダーラは反応を示す。


「王都って言うのはね、ここから馬で3日ほどかかる場所だよ。王様がいるんだよ。」


優しく、シリウスが教えてくれる。

乳幼児にも丁寧な優しい兄である。


「そのくそ王のせいでお父様はアダーラに会えなかったんだ。」


どこか遠くを見つめ、父はふぅーっと息を吐いた。

よっぽど王都で嫌な事があったようだ。

しかし、生まれたばかりの我が子に会えず、しかも初めての女児だ、ひたすら山と積まれる仕事をこなしていたとなれば、黒い息も出るだろう。


100日会えなかった我が子とのつかの間の一時だ、少々ウザくても私が大人になろう。


まだ乳幼児ではあるが、中身は事なるのだ。それくらいは仕方なかろう。


その父は中々の美丈夫であった。

堂々とした体躯は鋼のように鍛えられ、膝の上の二人の子供をしっかりと支えている。

7歳児であるシリウスを抱えて放り投げたり、鍛練だと言い募り小脇に抱えて庭を駆ける姿も遠目ながら見掛けられた。

武官として、身分だけに依るものではなく、その体に裏打ちされた確固たる地位を築いているのだ。

明るい赤銅色の髪の毛に、日に焼けた肌、そして人好きのする笑顔、すべてが眩しい父だ。


その父が黒いため息をついたり、めそめそと泣くのは似合わない、乳幼児だが大人になるのも仕方ない事だろう。



それはともかく、てんやわんやのお食い始めよりもう1つアダーラの日常に変化があった。

離乳食が始まったのである。

まだペーストばかりで、歯が生えていないのだから当然だが、味気ないが今までのように栄養接種だけの食事からより文化的人間的な食事へと変化した。

乳の飽きの来ない素朴な味わいも良いが、やはり野菜や果物も良い。

じっくりと火を通しとろとろに煮込まれた野菜の本来の甘みを噛みしめ、歯はないが、擦り下ろされた果実の瑞々しさと甘味と酸味の絶妙な味わいを楽しんだ。


やはり食べることは楽しい。


そして何より、両親と兄と同じ食卓に着けることが嬉しかった。

食卓などと細やかな言葉で呼んで良いのかは分からないような、華美ではないが恐ろしく質の良い家具の並んだ部屋であるのだが、食事をするための部屋で、食事のためのテーブルであるので、食卓で間違いではないだろう。

ペーストとは言え、食事をとれるようになってから、アダーラの生活範囲はぐっと広がった。

手提げの籠に押し込まれ、と言ってもアダーラが入ってもまだ余裕のある大きな物だが、庭に出てみたり、居間のような部屋で過ごす事も増えた。

それに伴い、今まで知らなかった様々な人に出会う。

想像以上に多くの者が働いていた事に何よりも驚かされたようだ。

そしてアダーラの散歩に、籠に入ってだが、付き従う従僕は一人一人を丁寧にアダーラに紹介し、また紹介された方もアダーラを乳幼児と侮る事なく丁寧な挨拶を返してくるのだ。


何とも生真面目な話である。



そんな真面目な使用人達に見送られ、アダーラは最近のお気に入りの場所へと連れられて来ていた。

屋敷の西側の庭である。

芝生が綺麗に整備され、木々か生い茂り、ともすれば乱雑な、しかしながら絶妙なバランスで配置されている。

芝生も立ち木の枝もしっかりと剪定され、一女たるアダーラが安心して遊べるように管理されている一角だ。

これはアダーラ付きとなっているメイドが庭師に管理を徹底させていると言う話だ。

小市民の記憶を持つアダーラにとっては、なんとも申し訳のない限りであるが、そこまでされては使わないわけにはいかない。


と、言うわけで晴れの日は庭に日参してもらっているのである。


どの様に庭行きを伝えるのかと言うと、窓の方を見

て、いーいーと唸るのである。

それで通じるのだから、優秀なメイドだ。


乳幼児が庭で何をするのかと言えば、芝生の上をころごろと転がってみたり、時折訪れる小鳥を掴もうとしてみたり、無論成功率は0だ、実に乳幼児らしくしている。

しかし、仲間はほぼ大人のアダーラには、1つ楽しみにしている事があった。

むしろそれが目当てで庭に出ていると言っても過言ではない。


父と兄シリウスが剣の鍛練をしているのだ。


鍛えられた鋼の肉体に肉食獣のようなしなやかさを持つ正に今が働き盛りの成人男性と、天使と見紛う輝く美貌のまだ幼さの垣間見える少年が陽射しを浴びて打ち合っているのである。

これを見ないでなどいられるだろうか。

見るしかないのだ、いや見るべきだと風が語りかけるのだ。

メイドに支えられつつ、その短い足を大地に下ろし、アダーラはまさにどっしりと構え、この天上からの贈り物を堪能していた。

アダーラの視線を感じてか、時折父が大人気なく剣を振るう、がシリウスも子供の敏捷さを見せ掻い潜る。

中々に白熱しているが、手を抜いているとは言え職業軍人に子供が敵うわけもなく、鍛練が終了した。

終了を待ち構えて、アダーラは猛烈なスピードで兄に這い依る。まだ二足歩行はマスターしていないので仕方ないのだ。

普段の落ち着いた様子は見る影もなく、着乱し大地に伏した兄がアダーラのゴール地点だ。

そのまま兄のお腹にダイブすると、流石に父に止められた。


「ささ、勝ったのはお父様だからね、勝利の証の天使のキスをくれるかい?」

茶目っ気たっぷりに笑みを浮かべ、アダーラにその頬を寄せた。


やや汗臭い。


これが父が在宅している日の日常の風景となっていた。



父ももう暫くは家にいれるようである。

王都まで馬で3日と言った通り、この屋敷は王都から離れた郊外に建てられている。

アダーラの家の領地であるそうだ。

本来の領地はまだここから遠く、南へ進んだ果てにある。

辺境伯と言うのがアダーラの父の身分である。

場所柄、前線となる事の多かった歴史により、代々家を継ぐものには個人の武勇はもちろん、高い指揮能力が求められた。

その歴代のなかでも父は傑物と言うことだ。

その為、王の信も厚い。


だからアダーラお嬢様、お父上の事恨まないであげて下さい。


と言うのは従僕の言葉だ。2人に対して、父は中々良い上司であり主人であるようだ。



大丈夫です、分かっています。

私の前ではちょっと情けなくって、ちょっと面倒臭くって、ウザくて・・・そんな父ですが嫌いになんてなれません。


そんな思いを込めて彼を見返せば、心得たとばかりに頷かれる。

この家の使用人は皆ニュータイプか何かだろうか?

案外通じるものである。




そして、そんな賑やかで穏やかな日々も終わりを告げた。

王からの召還状である。

苦虫を噛み潰したような顔とはこう言う顔か、と、教科書があれば掲載確実な、実に忌々しそうに父はその無駄に豪奢な書状を眺めていた。


アダーラは膝に入り一緒に眺めていた訳だが、残念ながらこちらの文字は装飾の一部にしか見えず、仕方ない、項垂れる父をつんつんとつつき朗読させるのだった。

曰く、休暇は終わりだ、さっさと戻ってこい、仕事はたんまり用意してある、何なら家族で王都に来ても良いよ、との事だ。

離乳を始めたとは言え乳飲み子に旅をさせる訳には行かず、アダーラが動かないとなればシリウスも当然動かない、そして子供を置いて行くような母ではないので、必然的に単身赴任となる。


大黒柱は大変だね。



領地でもなく、王都でもないこんな中途半端な位置になぜ居を構えているのかと言えば、母の実家の近くの飛び地なのだそうだ。

まぁ、乳幼児にはどうでも良い情報だが。


そして父は再び王都へと赴いていった。

それまでの数日はアダーラにとってはひたすら忍耐の時間であった事は想像に難くない。



結局うごうごしているだけで終わってしまった感が拭えません。

とってつけたように、アダーラのお家の身分的な話をぶっこんでみました。

もうしばらく、アダーラが馬車の旅に耐えられるようになるまでは、父は単身赴任です。

仕事を詰めつめしてやりくりして、馬をかっ飛ばして子供と戯れる日々です。

働くお父さんは尊いのです。

ウザいけど。


活動報告に4話終了までの登場人物紹介を掲載しております。

もしお時間ございましたら、こちらもご覧下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ