3話 目覚め 3
勢いのままに本日3話目です。
しばらく赤子生活を満喫していたアダーラは、ある日、眠りから覚醒するとふと思った。
今日は体が軽い気がする!
いける、いける、いける気がする。
もぞもぞとベッドの上で身じろぎをすると、いつもの様に側にいた兄が立ちあがりベッドを覗き込んだ。
「どうしたの?アダーラ?」
そんな兄をベッドから力強く見上げ、少なくともアダーラはそのつもりだ、にやりと口元に笑みを浮かべた。
本来ならば、赤子特有のただの筋肉の動きだ。そこに意味はない。
しかし、兄は何かを感じとったのか、兄もまた力強くアダーラを見つめ頷いた。
「うー。」
愛らしいが、力の籠ったうなりをあげ、アダーラは渾身の力を込め、体を持ち上げる。
顔は真っ赤に染まりまさに赤子だ。
ぐ、ぐ、とその小さな体が持ち上がり、そして、万感の思いを込め、アダーラは動いた。
ころん。
初寝返りである。
「アダーラ!!!!!」
兄にも気持ちが伝わったようだ。
感激に瞳を潤ませアダーラを抱き寄せる。
流石兄、年齢差の分力強い。
平和な、平和な昼下がりであった。
それはともかく。
兄の名前であるが、シリウスと言うようだ。
アダーラが盗み聞き、赤子なので視力は弱く聞く耳を立てるしか方法がないのだ、した結果、兄との年齢差は実に7歳であった。
力強いはずである。
母の年齢は良く分からなかった。
女性の年齢を、ましてや女主人の年齢を使用人が噂する訳もなく、全くもって年齢不詳だ。
名前も不明のままである。
兄、シリウスはお母様と呼び、使用人たちは奥様と呼んでいる。
それでもアダーラに不自由はないので問題ない、そもそもまだしゃべれないのだ。
穏やかに、穏やかに、絹のシーツに包まれるようにアダーラの日常は過ぎて行った。
シリウスは片時もアダーラの側を離れず、ゆるゆると始まった勉強もアダーラの側で行っているのだ。
朗読をするシリウスの優しい声を子守唄に、アダーラはまどろんでいた。
おかげで、ある程度成長した時、昔話や神話がつぎはぎだらけの記憶になったがそれはきっとアダーラが悪いわけではない。
強いて犯人を挙げるのであれば、兄であるシリウスとその家庭教師である。
いやむしろ家庭教師だ。
夢の中で家庭教師を断罪しつつ、アダーラは成長をして行った。
今日のアダーラはとても興奮をしていた。
とうとう、とうとうこの日を迎える事になった。
誕生より100日。
この風習は共通のようだ。
普段はミルクの香りしかしない、アダーラに与えられた部屋に、ほんのりと食べ物の香りが漂っていた。
そう
お食い初めである。
アダーラが、ちらりちらりと盗み見ると、主食はどうやらパンの様だ。
ミルクに浸かり柔らかそうにしんなりとしたパンのような物体が見えた。
蛤のお吸い物はなかったが、とうもろこしだろうか、黄色いポタージュが温かな湯気を立てていた。
他は、何やら色とりどりの野菜、果物、そして少しの魚と肉が見える。
これは中々期待できそうだわ。
内心にんまりと頬笑み、アダーラはその時が来るのを今か今かと待ち構えていた。
あっさりと美味しい乳はもちろん良いのだが、3食が3食乳だ。赤子なので8~5食くらいしているが。
体の成長と共に、アダーラは塩そして砂糖を欲していた。
「お母様?アダーラは僕が抱っこしていて良いですか?」
お行儀よく待っていたシリウスが母に強請る。
「もちろん良いわよ。いつもアダーラを見ていてくれてありがとう。」
母はにっこりと笑って肯定を示した。
お食い初めとは食べさせるふりをさせるだけの、所詮はセレモニーである。
だかしかし、アダーラは兄の膝の上で静かに野望に燃えていた。
絶対に食べてやる!
優しい頬笑みをうかべ、母が嬉しそうにスプーンを手に取った。
アダーラはポタージュにロックオンされている。
その視線を読みとり、母はポタージュをひとすくいすると、アダーラの口元に近づける。
そして
ぱくりと、アダーラはスプーンをくわえた。
「あらあら。」
「アダーラ美味しいかい?」
どちらも優しく頬笑みながら、アダーラの感想を待っていた。
んんんんん
美味しい!
久しぶりの塩味!
ちょっと薄味だけどそこが良い!
とうもろこしのほんのりとした甘味が引き立つ、そして乳児にも優しい薄味のポタージュに笑みもこぼれる。
そのまま、あ、あ、と声を出しお代りをねだりつつ、和やかな雰囲気のお食い初めは終わった。
お腹も膨れうとうととし始めたアダーラが、本日のセレモニーの終了に安堵していると、遠くからバタバタとおよそこのお屋敷の和やかな雰囲気に似つかわしくない物音がした。
大きな足音は慌てたように近付いてくる。
眠りかけていたアダーラも目を覚ましてしまう騒々しさだ。
「シリウーーーーーーーース、アダァァアラァアアアアアアアアア」
とんでもない声で叫びながら、見た事のない成人男性が、超良い笑顔で涙を流しつつ乱入してきたのだ。
あまりの出来事にアダーラはシリウスの腕の中で号泣を始めた。
そしてその男性はシリウスもろともアダーラを抱きしめ、これまた号泣し始めた。
「うおおおおおぉおぉ、アダーラ、アダーラ、やっと会えたよぉおおお、お父様だよぉおおおおお」
ちょいちょい男泣きにかき消されたがどうやら父親のようである。
それが分かった所で赤子の体がそうそう泣きやむものでもなく、アダーラはうぎゃあうぎゃあと泣きながら、父親がいた事に驚いていたとかいなかったとか・・・。
とりあえず、勢いのまま父親登場まで進めました!
(謎のやりきった感)
こんなつたない文章を4ケタの人に見て頂いてほんとに嬉し恥ずかしです。
本当に有難う御座います。
とりあえず、にゃんことステップ踏んで引っかかれてきます。