第三章 それぞれの思惑 その1〈挿絵あり〉
メイベルを迎えるパレードが過ぎ去ってよりだいぶ時は経過し、夜は更ける。
しかしその熱気は冷めやらず、まだエスルの街は落ち着きを取り戻してはいなかった。
盛り場には人が溢れ、各国の言葉が飛び交う。
唯一粛々と仕事が進められている場所は、ノクトネイラの船から五四騎の騎神兵を荷揚げしているエスル港だけだった。作業に従事するのはラーグリス王国海軍の将兵たちであり、港はもちろん周辺一帯、一般人はおろかベリュン領の軍隊も排除されていた。全てはこの作業を指揮するラーグリス王国北方海域総督・ホグーラグの意向である。メイベルを出迎える栄誉を、ベリュン領主に取られた意趣返しだった。
そのベリュン領主トスカラルの居城エスル城では、メイベルを迎えての歓迎晩餐会が盛大に開かれている。
会場となった政庁大広間には、楽団による優雅な演奏が響き、テーブルには豪勢な料理と高級酒が並べられていた。
出席者は各国、各界から招待された名士ばかりだ。しかし彼らの目的は、色とりどりの御馳走でもなければ美酒でもない。猊下に拝謁することが、至上の命題であった。
会場に設けられた玉座にメイベルが通されると、人々の視線は彼女から離れることはなかった。瞬く間に、彼女に拝謁するための長蛇の列ができる。
玉座のメイベルは、背後にネルセダとエルラッカムを控えさせ、次々拝謁する名士たちに嫌な顔一つせず、にこやかに応じた。
トスカラルはそのメイベル右手の席で、拝謁者の紹介に徹する。さすが貿易都市の領主だけあり、大勢の客一人一人をそらで紹介していた。また時間を超過する者や無礼な者は、ヴァスタロトが捌く役目である。彼が一睨みすれば、誰もが引き下らざるを得なかった。
そして左手にはアティアナと、その傍らにウォルが控える。
この頃には、ウォルの役目はアティアナだけではなく、メイベルの警護も兼ねていた。メイベルに信用されている様子は周囲にも明らかで、従騎士ながらもトスカラルに急遽命令されたのである。彼はめまぐるしく入れ替わる名士の多さに戸惑いつつも、何とか気を緩めずに任務に就いていた。
そのウォルに緊張が走る。今日は何度も話題に上った人物が現れたのだ。
ソウブロアはメイベルの目の前に、静かに歩みでる。
「コルゴット王国大使、ソウブロア司師にございます」
トスカラルは紹介する。ソウブロアは深々と頭を下げた。
「リンク猊下。お初にお目にかかります。コルゴット王国国王の代理として参上致しました。ご尊顔を拝し奉り、恐悦至極に存じ上げます」
ありがとう、とメイベルは微笑む。
「また未熟な法師の身として、猊下にご教授していただきたいことが山のようにございます。ぜひ後ほどでも歓談の機会を設けていただければ、幸いにございます」
ウォルにはその瞬間、メイベルの瞳の虹彩が輝いたように見えた。
「ソウブロア司師、申し訳ないが……」
「お待ちを」
断りを入れようとしたトスカラルを、メイベルはそっと止める。
「私も、ソウブロア司師とはお話したいと思っておりました。今でよろしいかしら」
これまでにない彼女の発言であった。多くの者がソウブロアはメイベルに優遇されていると感じ、羨望と嫉妬の入り混じった反応を示した。
しかしウォルは、何がこれから起こるのかと、固唾を呑む。
「ありがたき幸せ」
「法師でありながら一国の大使を務めておいでなのですね」
「非才の身ではありますが、我が主君の信頼を得て、このような大役を仰せつかりました。ですが猊下におかれましては、法師は世俗を離れるべきとお考えでしょうか」
へりくだってはいるが、挑発的な言いようである。
メイベルは少し間を置き、答えた。
「法師とは、魔神の勢力から人民を護るために、神々より力を与えられた者たち。それをわきまえることこそ、法師としての生きる道と考えます。ソウブロア司師も力を持つ者として、心しなければなりませんよ」
「肝に銘じております。しかし……」
と、疑問を呈する。
「神々に力を授けられたという点では、騎神兵も同様ではないでしょうか。しかも持つ者は皆、大陸の統治者に与する者ばかり。国を治める道具として使われてもおります。猊下はこの現状をどのように考えておりましょうや」
周囲は騒然とした。この発言はこの場には相応しくない。ソウブロアは自国を含めた世界のありようを批判したのだ。しかもそれに属している者たちが集う会場でである。
皆、それぞれ不快感と不安を抱いた。それでもメイベルの面前なので、誰もが口をつぐみ、発言を控えている。
しかしメイベルは明確であった。
「まさに。どちらも魔神に対する、人類への神々からの贈り物です。ただし騎神兵が人の意思により使われていることに対し、法師は神々の名の元に力を行使致します。故に人々への影響力も違うのです。司師は神々の御威光に適う行いをされておりますか?」
「まだ実現には程遠いですが、主君を支え、臣民を慈しんでいきたいと考えております」
メイベルは頷く。
ヴァスタロトは、危機感を募らせた。彼の発言内容に対する危険性へではない。間違いなく何かを企んでおり、それが近いうちに起こることが目に見えているからだ。各国の要人のいる前で、これだけ批判に通じる発言をしたということは、その反発さえ考慮する必要はないと思っているのだろう。
今ここで取り押さえておくべきかもしれないが、状況が邪魔をしてヴァスタロトは行動を起こせなかった。
「ところで、どちらで帰依をなされたのでしょう」
メイベルは話題を変える。
「はい。コルゴット王国の辺境。オジュオンダという小さな村の寺院でございます」
「先ほど港で、あなたの法術を拝見致しました。素晴らしい法力をお持ちですね。その寺院の法師殿も優れた方なのでしょう。ご健在であられますか」
舞台役者のような大仰な動作でソウブロアは答えた。
「ご高齢のため逝去なされました。すでに亡くなられてから五年が経ちます」
「残念です。お悔やみを」
ソウブロアはメイベルの質問に対し、澱みなく答えているかに見えた。しかしその実、核心には触れさせないように振舞っている。ウォルにもそれがわかった。
ウォルはその対話の様子に注意を払いながらも、父を見る。一見してわかるほど、思い詰めた表情をしていた。
ソウブロアもヴァスタロトの厳しい視線に気づき、自嘲ぎみに頭を振る。
「猊下。無用な話にお付き合いくださり、ありがとうございました。ぜひ改めて拝する機会をいただけましたら幸いにございます」
「こちらこそ。興味深いお話でした」
引き下がるソウブロアを、周囲も無言で見送るほかなかった。
「はぁー」
側から大きな溜息がもれ聞こえて、ウォルは振り向く。
隣のアティアナがホッとした表情をして、緊張していた背すじを丸めていた。差はあれ、周囲も同じ心持ちであったのではないだろうか。
その溜息は、メイベルにも届いていたらしい。
「アティアナさん」
ニッコリして彼女の名前を呼んだ。
「は、はい。メイベル様」
話しかけられたアティアナは、気恥ずかしさと驚きで顔を赤くする。しかし彼女の想像していたものとは違う言葉が、メイベルから発せられた。
「そろそろ、あなたのお母様を紹介していただけますか。あまり夜が更けてしまいますと、お体に障りますからね」
病床にあり晩餐会に出席できない母と猊下の対面は、アティアナの望んでいたことだった。しかしこの多忙の中、大勢の来賓を前にわがままを言えないことも承知している。港でかけていただいた言葉も、社交辞令であると納得していた。しかし猊下は、しっかりと気にかけてくれていたのである。
アティアナは例えようもない喜びと感謝の気持ちに胸を躍らせた。
トスカラルはメイベルの配慮に感謝しながらも、皆への遠慮からお断りを入れようとしたが、それより早く彼女は玉座から立ち上がる。
「ご来場の皆様。申し訳ございませんが、少しばかり席を外させていただきます。それまでしばしご歓談を」
特に、ソウブロアの次に順番を待っていた大使夫妻に対しては、視線を交わして辞した。二人は恐縮しきりで、返礼をする。
「さぁ、行きましょう」
メイベルはアティアナを促した。
「猊下!」
そこへ副司令官のキーレオスが、数人の騎士と共に駆け寄り跪く。
「ぜひ騎士団の護衛をおつけください」
メイベルの代わりに答えたのは、ネルセダだった。
「メイベル様の近辺警護は、我々に任せてもらえるはずではなかったのか。それにウィルナリス殿もいる。それで充分であろう」
「そうですが、念のためにも。何かございましたら、我々の立つ瀬もございません」
「フン。これだけ警備しているにも関わらず、この城内はそんなに危険な場所なのか。よくもそれで、メイベル様をお連れできたな」
相も変わらず、ネルセダの言動は尊大である。
しかしキーレオスも引き下がらなかった。
「では、二名だけでもお願いいたします。各人とも腕に覚えのある者たちです。距離を置いて後方から警備致します。決して気分を害するような真似は致しません」
「それぐらいでしたら、よろしいでしょう。ねぇ、ネルセダ」
「はい。まぁ、メイベル様がおっしゃるのであれば……」
渋々、彼女も認めた。
己はまだ騎士にもなれない未熟者だと承知しているウォルには、ネルセダの心情が理解できた。恐らく、認めて信頼して欲しいのだろう。猊下もそれがわかっているから、彼女をからかいつつも可愛がっている。
「ではご案内致します。メイベル様」
そのアティアナに、メイベルはにこやかに頷く。
晩餐会の会場から退場するメイベルたちを、来賓者たちは深々と拝礼して送りだした。
ヴァスタロトはキーレオスを呼んだ。
「司令。お見苦しいところをお見せして、申し訳ございません」
「いや、それはいい。それよりもだ。城内の警備を一段階強化をしろ」
「それは、もちろんですが……」
ヴァスタロトは、窓際に移動しているソウブロアを見る。
「特に、あの男にはしっかり張りつかせろ」
「指令は始めからソウブロア司師を警戒なさっておいででしたが、そこまでだと」
「必ず、事を起こす」
キーレオスには、ヴァスタロトが覚悟を決めた表情をしているように思えた。
「承知致しました。お任せを」
敬礼して、持ち場に向かう。
そこへトスカラルが、様子を窺うようにヴァスタロトの元にやってきた。
「ご苦労である。それより……どうだ、キーレオスは」
その問いに今日の働きぶりを評しようとしたが、領主は何か含みのある顔をしている。
「武勇、技量、騎士としての資質は群を抜いており、この度の任務も不足なくこなしていると考えおりますが、閣下には懸念がおありのようですな」
「確かに、あの者の能力はお主の言う通りであろう。しかし例えばだ。軍の指揮を委ねられ、それに相応しい力量を持った若者がいるとして、この平和なエスルにあってそれを発揮する機会はあるのかのう。そのような時、ああいった者はどう思うのだろうな。しかも上官であるお主は遠く離れた任地におり、目も届かぬ」
離れていくキーレオスを、ヴァスタロトは見やる。
「キーレオスが、何か良からぬことを企んでいると」
「それがわからぬ故聞いてみたのだ。お主がこの地を離れてより、エスルの騎士団の行動が把握し辛くなった。とは言え、役目を疎かにしている訳でも、何か事件を起こした訳でもない。故にこちらも強くは言えん。それにあやつの父には世話になったからのう」
トスカラルが身内の騎士団について思い悩んでいると知り、ヴァスタロトは申し訳なく思った。自分が外患に気をかけ過ぎている隙に、内部に懸念材料を生んでいたらしい。今回の式典に合わせケブン砦より呼び戻されたのも、そういう事情があったからなのだ。
ヴァスタロトもトスカラル同様、前司令官であるキーレオスの父には恩義もあり、尊敬している。幼少よりキーレオスも見知っており、信用に足りると思っていた。
「とは言えわしも、お主にソウブロア司師を警戒するよう促し続けられても、先ほどのやり取りを目にするまでは信じなかった。そのわしに言う資格があるのかわからんがな」
「こちらこそ閣下にいらぬ懸念を抱かせてしまい、返す言葉もございません」
「だからという訳ではないが、先ほど港で話したウォルの件だ」
トスカラルが、正して言う。
「お主がケブン砦の守りにつくのは仕方がない。その代わりといってはなんだが、ウォルをエスルに留め置けぬか」
「お言葉ではありますが、あ奴はまだ半人前。騎士にもなっておりませぬ」
「だからこそ、今回王都に随行してもらおうかと思っておるのだ。そこで国王より騎士への叙任式を執り行っていただく」
ヴァスタロトは悩んだ。
「それが可能だとしましても、閣下の望み通りお役に立てるかどうか」
「信頼できる者を側に置いておきたいのだよ。これだけ御膳立ての整った形式はあるまい。わしの側近となったとしても、誰も口は挟むまいて」
ここまでトスカラルを思い詰めさせた責任を感じ、承知せざるを得なかった。しかし本来であれは、息子には騎士としての本分を完璧に身に着けさてからの叙任が適当だと考えている。半端な騎士として仕えることこそ、領主の負担になりかねないのだ。
「まぁ今回の大役で、キーレオスもそれなりに満足してくれていると思いたいが」
トスカラルは、この話をそう締めくくった。
「司師。肝を冷やしましたぞ」
広間の大窓より外の夜景を眺めているソウブロアに、側近の法師たちが声をかけてきた。先ほどのメイベル・リンクとのやり取りもあってか、他の者が近づく気配はない。
「私も今回ばかりは、慎重にいくべきだったと後悔しているよ」
窓側から振り返ったソウブロアの顔は蒼白で、鼻からは一筋の血が垂れてきていた。
「リンク猊下を侮っていたかもしれぬ」
冷静を装い、それを拭きながら彼は答える。
「猊下は呪文も唱歌せずに、私の頭の中を覗こうとした。真に恐ろしい力の持ち主だ」
「で、では、我々の計画も漏れてしまったのですか!」
法師の一人が小声で詰め寄った。
「いや、それない。抵抗した結果がこのザマだ。お主らを伴わず拝謁して正解だった」
血で染まったハンカチを見ながら、何とも言えない表情をする。
「だがわかったこともある。猊下の力は強力過ぎる。相手に影響がでることを考えれば、片っ端から人の心を読む真似はすまい。聖女を気取っている内はな」
法師たちは不安な様子を隠せないでいた。
「やはり、計画を中止しては。猊下の御前で、我々はとんでもないことを仕出かそうとしているとは思いませぬか」
ソウブロアは即座に否定する。
「それはできん。すでにこの計画は私の手を離れ一人歩きを始めている。もう私でさえその流れに乗るしかないのだよ」
「しかし万が一にも、猊下の身に何かあってしまいましたら……」
神聖視されているメイベル・リンクを前にし、後悔の念に苛まれているようだった。
「その為に、ここに乗り込んでいるのではなかったのか。猊下には我らの保護下に入っていただく。他の誰にも手出しはさせぬよ」
この計画は、今後世界の趨勢を決める遠謀の第一歩である。止める気は一切なかった。
「手を引きたければ引くがよい。ただし、邪魔をするのであれば、容赦はしない」
側近らに改めて言い放つ。
「わかっておりまする。我々はソウブロア司師に従います」
法師の一人が、周囲に悟られないような小さく敬礼をした。他の者たちもそれぞれ不安の度が違うものの、それに倣い立場を示す。
時は近づきつつあった。
城の外郭、長屋が並ぶ広場の一角。
家臣向けの晩餐会が、主人であるトスカラルの好意で開かれている。城主に仕える使用人とその家族や、城外から招かれた客たちが大勢集い、大道芸や楽団も呼ばれた。
トスカラルからは、コフンやボーモグなどの上質な肉、何樽もの酒が提供されている。それらの食材は、次々に並べられた炉の上で焼かれ、客に振舞われた。
皆は気前の良い城主に感謝しながら、料理を口に運び酒を饗す。
「おうっ、飲んでるか」
「ガハハ。いやぁ、お前さんの雇い主は大したもんだ」
酒瓶を片手にすっかり出来上がっているオーグは、と畜場の親方の肩を何度も叩いた。
かたやラフノスは、大道芸人の奏でる音楽に合わせて歌い踊っている。
周りでは、子供たちも笑いながら駆け回っていた。賑やかなものである。
ダレクはこの喧騒とした雰囲気に馴染めず、一人離れた場所で肉に喰らいついていた。歯応えはないがさすがにコフンの肉は美味い。これを食していると、本当に聖女様が捕ってきた野生の肉を食してくれるのか不安になった。折角苦労したのだから、美味しいと言わずとも、食べて欲しいとは思う。
することもないダレクは猟師としての性分か、ふと周囲を把握するように眺め回した。
内郭ごしに豪華な宮殿の上部が見える。大きな窓の連なる一角には、大勢の人々のシルエットが映っていた。あそこで晩餐会が行われていると使用人の誰かが言っていた。
ウォルもそこにいるのだろうか。今日の様子では今回はウォルと会うのは無理なようだ。そう思いながら再び視線を地上に戻したとき、その景色に突然違和感を感じる。胸騒ぎのする感覚だった。
皆が食事を取り、歌い踊るその光景をじっと見ながら、理由を考える。
そして思い当った。今皆を楽しませている大道芸の曲芸師たち。演奏している楽団員。それに外部から招待された客の一部。明らかに他人を装いながらも、互いに視線を交わし何らかの意思を伝達し合っている。それに全員身のこなしが、訓練されたものだった。曲芸師はともかく、他の連中まで動きに無駄がないのが解せない。
サッーと頭が醒めてきた。ここはもう引き上げるべきだと感じた。
とはいえ他の二人の上機嫌な様子をみていると、当分帰る気はなさそうである。それでもオーグより、足取り軽く踊っているラフノスの方が正気を保っているように見えた。
帰るように促そうと思い、あくまでも連中に気付いた素振りは見せずに歩きだす。
「おーい」
呼び声に気付いたラフノスがもたつきながら、踊りの輪を離れて近寄ってきた。
「なんだぁ、全然楽しんでない面だな」
「もう疲れたよ。帰ろうと思うんだが。もちろん馬車を引いてな」
「何言っておるんじゃ。馬車がなくなったら、わしらが帰れんじゃろうが」
とラフノスが寄りかかってくる。
「帰る気があるのかよっ」
「つれないのう。お前にどんだけ狩りの技術を教えてやったと思っとるんだ」
酔っぱらうと必ずでるセリフだ。
「使った道具はその日のうちに手入れをする。馬の蹄の泥は綺麗に落し休ませる。教えたのはあんただろう」
「うぃー。そうだったかのう?じゃ、明日迎えに来てくれんか」
「おいおい。明日はリンクさんとその連れがエスルを発つ日だぜ。城に再び入れてもらえる訳がないだろう。二人ともいい大人なのだから、自分で何とかしろよ」
リンクさんとは誰だったかと、ラフノスは考え込む。どうやら何が行われるのかなど考えてもいないようだ。明日は言わずと知れた、騎神兵譲渡の式典とメイベル・リンクがノクトネイラへ帰還する日である。
「ああ……なるほど。仕方あるまい。帰るかぁ」
ようやく明日のことを思い出して、ラフノスは何とか納得した。
「それじゃ、おれは馬車の用意をするから、おやっさんはオーグのじっさんを頼んだぜ」
酒樽付近に居座る老猟師は、もうすぐ酔いつぶれそうな感じだ。
ダレクは溜息を一つする。
「急いでくれよ」
そう言うと、返事を待たずに厩舎へと向かった。