表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/25

第七章 蒼装の騎神兵 その1

 夜空には、青みがかかり始めていた。

 エスル近郊の森も、少しずつ視界が開けてくる。

 ノーガング率いるベリュン軍の残党は、その森の中、再集結を始めていた。

 敵がエスルの街をでて、追撃してくる気配はない。

 偵察の知らせではあの戦闘の後、コルゴットの連中と裏切り者キーレオスは合流して、奪った騎体とともにエスル城へ向かったという。

 エスルの街には戒厳令が敷かれ、一般市民は建物の中に押し込まれた。街を囲む市城門も全て閉ざされ、各所にはエスル城から出動した守備隊が配置される。街はキーレオスの手により、掌握されてしまったようだ。

 今となっては取るに足りない存在として、彼ら敗残兵は捨て置かれていたのである。

 ただそのお陰で、逃げて散会していた兵士らは、無事にこの地に参集することができた。

 しかし事態は刻一刻変化していく。すぐにでも今後の方針を固め、次の行動に移らなければならなかった。

 この軍の指揮を担うノーガングは、木々の間に造られた簡易の幕下に部隊長らを集める。「隣国領へ退き、国王の親征を要請しては。さすれば国内のラーガントも集結できます」

 早速、一人が提案した。

 しかしすぐに反論でる。

「どの面下げて国王にお目通りするのだ。王国の海軍は全滅し、我らの司令官も討たれ、その上副司令官の裏切りだ。名誉のためにも我々は今から突撃し死ぬしかない」

「それではウィルナリス卿が身を挺して、我らを撤退させた意味はないではないか」

「ならばケブン砦まで退きましょう」

「閣下を見捨てるつもりなのか!言っておくがわしはお主らと違い、エスル城の守備隊だ。そんな遠くまで退く気はないぞ」

「敵はコルゴットです。いつまでもエスルに留まらないはず。本国へ戻るとなれば、ケブン砦を抜かねばなりません。砦であれば、騎神兵相手でも持ち堪えられます」

「キーレオス卿の籠るエスル城は、それで放っておく気か!」

「そういう訳では……」

 皆それぞれ、この状況に憤りながら意見を言い合う。

 ノーガングにしても一矢報いなければ、ケブン砦に戻る気にはなれなかった。しかし戦力が圧倒的に劣っているのも事実である。ここが思案のしどころであった。

 そこへ、衛兵が慌てて駆けてくる。

「ノーガング卿、急ぎお目通りを!」 

「何事だ?」

「アティアナ様です!アティアナ様がお越しになられました!」

 皆は、その衛兵の背後に立っている少女の存在に気付いて驚いた。

 庶民の恰好はしているが、違いなく令嬢アティアナ・ベリュンである。しかもその後ろに、メイベル・リンク猊下の従士ネルセダも一緒だった。

 急ぎ二人を幕下の中央に通すと、そろって拝礼をする。それからノーガングが進み出た。

「御無事で何よりにございます!ご心配しておりました」

 アティアナは頷き、緊張しながらも言葉をかける。

「皆もご苦労でした」

「領主閣下や夫人もこちらにおいでなのでしょうか」

 部隊長の一人が、もっともな質問を投げかけた。

「父と母はエスル城にて、キーレオス卿とコルゴット王国の軍に捕われております……」

「無念にございます。我らが不甲斐ないばかりに、このような事態を許してしまうなど」

 彼の嘆きは、アティアナもよくわかる。彼女も今の今まで、何も気づかず何もできずに、ウォルたちの足手まといばかりになっていた。

 だからこそメイベルに託されたこの任務は、必ずやり遂げなければならないのである。

「それで私は、ベリュン領主代理としてここへ参りました……名前を存ぜず申し訳ありませんが、ここの指揮官はどなたでしょうか?」

 ここにいる面々の名前を知らないのは恥じであろうが、正直に彼女は尋ねた。

「私、ノーガンクにございます。ケブン砦騎兵隊隊長を勤めております。司令官ウィルナリス卿から軍の指揮を引き継ぎました」

 彼は自己紹介し、それからここに至った経緯を話そうとした。

「それで、司令官ウィルナリス卿でありますが……」

 アティアナは目を伏せる。

「それについては存じております。ご立派な最後と伺いました」 

 ノーガングは驚いて、目を丸くした。

「こちらのネルセダ様から、報告をいただきました」

 後ろに控えていたネルセダを彼女は合わせて皆に紹介する。

「ネルセダ様にはメイベル・リンク猊下の名代として、私に同行いただいております」

「猊下も御無事であらせられますか」

「無論である。ただし同僚である従士エルラッカムが、コルゴット王国のソウブロア司師に捕われてしまった。故にメイベル様は彼女の救出を前提に、ベリュン軍との共闘を提案され、それをアティアナ様が受諾された。私がここにいるのもそのためである」

 ネルセダが事務的に説明した。

「何と!猊下が我々に協力をしてくださるのですか」

 アティアナは頷いて、ノーガングに確認する。

「ノーガンク卿、それでお聞きします。私アティアナ・ベリュンを領主代理と認め、私の命令に従い戦っていただけますか」

 ノーガンクは襟を正して、即座に答えた。

「はい。身命を掛け、アティアナ様に忠誠をお誓いいたします」 

 その場にいた部隊長たちも次々に誓約を誓う。

「我らも同様です。司令官を失った無念、裏切り者をだした恥辱を削ぎ落すためにも、必ずやご期待に沿うよう働いてみせます」 

「ありがとうございます」

「して、どうなさるお積りです」

 一人がアティアナに尋ねた。

「ご存じのように、敵は何十騎もの騎神兵を抱えており、私どもとはその戦力に歴然と差があります。正面から挑んでも勝ち目はありません。しかし、国王様あるいは諸侯の協力を仰ごうにも、私たちにはそれを悠長に待っている時間もないのです」

 皆は頷く。身内を人質に取られた者も多く、その処遇を思えば待ってはいられなかった。

 と、そこに今度は従軍の法師が報告に現れる。

「失礼致します!ケブン砦より伝書光が届きました」

「この陽も明けぬ朝に……何事か起こったのか?」

 ノーガンクは報告を急かした。

 しかし法師は、不意にアティアナらの姿を目にして歓喜する。

「アティアナ様!あぁ、御無事であられましたか。それにネルセダ様もご一緒とは!これも神々のご意思!感謝いたします」

「ありがとう。それよりも伝書光の内容をお聞かせください」

 アティアナがノーガンクに変わり、やんわりと神官を促す。

「申し訳ございません。ケブン砦にコルゴット王国軍が攻めてきたとのこと。その数、三〇〇〇あまり」

「何だと!」

「コルゴットの奴ら!」

 皆、身を乗り出す。

「それで、現状は守備兵のみで防ぎききっておりますが、戦況は極めて不利。至急の援軍を要請しております」

 ケブン砦には、現在六〇〇名ほどの守備兵が残留している。ヴァスタロトが領主トスカラルの命令に反し、エスルへ随行せず残してきたのだ。

「やはり司令官は正しかったか……ベリュン方面に三〇〇〇とは大した数だ」

「では急ぎ、我らもケブン砦へ戻りませんと」

 エスルとコルゴット王国の道をつなぐために、攻めてきたのは明らかだった。

「アティアナ様、いかがなさいます」

 アティアナはウォルの父ヴァスタロトの判断に感謝しつつ話す。

「ケブン砦からきた方々はご心配でしょうが、このままケブン砦には今の将兵のみで耐えていただかねばなりません。私たちは猊下から預かってきた計画を順守します」

「猊下の計画ですか?」

 ネルセダが補足した。

「メイベル様の指示に従い実行すれば、今日中には片が付く。安心してよい」

「あの大兵力相手に、勝つことができると?」

 猊下の使者といえ、さすがに少女と呼べる年齢の人物の言を俄かに信じられない。

 少し前のネルセダなら、その反応を察しただけで噛みついていただろうが、今は押さえる術を身に着けていた。

「別に全てと戦う必要はない。戦う意義を無くせばよいだけなのだ」

 尊大さは残ってるが、それでも気を使った態度は見せる。

 その様子にアティアナはくすりと微笑み、皆に再度お願いをした。

「必ず敵をエスル、いえベリュンから追い出してみせます。ですから皆様のお力をお貸しください」

 ノーガングは答える。

「後ろをご覧ください。ここにいる者たちは皆、アティアナ様のために戦いを望む者ばかりです。エスルを必ず奪還致しましょう」

 アティアナが振り返ると、彼女の来訪の知らせを聞いた騎士、兵士らがずらりと勢ぞろいし待機していた。


ウォル、メイベル、ダレクらは森を抜け、草原の丘をラワック馬で駆け抜ける。

 三人とも、必死に馬に鞭打っていた。

 ダレクがウォルに並走しながら、後ろを振り向く。

「どうする、このままでは追いつかれるぞ」

 後方には、敵の追撃部隊が迫っていた。キーレオス旗下とコルゴット軍混成の騎兵隊のようだ。メイベルの伝書光を追跡してきたのだろう。

「この丘を越えれば海にでる。そこまでの辛抱だ」

「そうさ。この先は海だ。船が来てなければ、逃げ場のないまま包囲されてしまうぞ」

「それは猊下を信じるしかない」

 先を行く、メイベルを見ながらウォルは言った。

 そして三人は丘の頂点まで辿り着くと、その越えた向こうを見渡す。

 丘を下った先には、青白く照らされている岩礁の入り組んだ海岸が見えた。

 この周辺は岩場が多く航行に困難は生じるものの、水深が深く大型船の接岸も可能である。ウォルは相対的な距離や移動経路を考え、この地点を落ち合う場所に決めた。

 日の出ももうすぐのようで、海は水平線の先まで見えるほど明るくなっている。

 ウォルとダレクは海岸周辺や沖合を遠目で探った。

「船は……どこだろう」

「敵はすぐそこまで来ているのに、どうするんだ!」

 船の姿はどこにも確認できなかった。しかしメイベルは確信をもって言う。

「大丈夫です。もうそこまできています。さぁ、行きますよ!」

 ウォルらが疑問を挟む暇もなく、メイベルはラワック馬に丘を下らせた。二人も不安ながら、彼女について速度を上げ丘を駆けていく。 

「あれを御覧なさい」

 メイベルは二人に指し示した。

 太陽が昇り始め、さざ波が煌めく海上に、不思議に輝くシルエットが浮かんでいる。

 何もない空間を押し広げ、帆を広げたノクトネイラの帆船が海上に突如出現した。

「うぁ、突然現れた」

「まさか、姿を隠すことができるのですか」

「ええ。私たち聖域の住人は、人々のいない洋上にも目を光らせる必要があります。どこから魔神が現れるか不明ですから」

 聖域の人々はそれこそ人知れず、魔神よりこの世界を護っていたのだ。

 その輝く船は、朝日に照らされゆっくりと海岸に近付きつつある。さすがのノクトネイラの船も、岩礁の多い海岸は慎重に接岸をしなければならないようであった。

 ウォルは後方を確認する。追手の中でも脚の速い五騎が先行して接近してきていた。 

 このままでは船に乗り込む前に追いつかれてしまうのは確実である。

「ここは私が引き受けます。先に乗船していてください。ダレクもな」

 彼は剣を抜き敵に取って返すと、追手に低い姿勢で真正面から突撃した。

 敵がエスルの者かコルゴットの者か判断つかないが、剣とロープを携帯している。  

 ウォルは敵の中央をすり抜け、すれ違い様に左側にいた騎手の太腿に斬りつける。相手は右手に剣を持っているため、左腿を思うように防げなかった。右側の敵はウォルと仲間が接近し過ぎていたため、躊躇し振り遅れる。残りの三騎は仲間の外側を走っていたため、手を出せずに通り過ぎるしかなかった。

 五騎を抜けたウォルは、すぐさま手綱を引いて馬を返す。このまま敵が抜けてメイベルのほうへ向かってしまうことは阻止しなければならない。そのためこちらが真っ先に後ろを取り、圧力をかける必要があった。

 太腿を斬られた敵は左足を抑えながら振り返り、容易に挑発に乗った。残りの四騎のうち二騎は迷いながらも、味方に合わせその場に留まる。しかし他の二騎はメイベルのほうへとそのまま駆けていった。

 ウォルがその先をチラリと見ると、ダレクが弓矢を番えているのがわかる。ウォルは彼を信じ、留まった三騎に向かっていった。三騎と同時に鉢合わないようにしながら器用に馬を操り、複数の剣と切り結んでいく。特に先に傷を負わせた一人目を集中的に攻め、騎馬を操れない状態に追い込み、馬上から叩き落とした。

 続いて残った二騎には隙を与えないように、馬の動く範囲を広げながら敵と渡り合う。

 ダレクは迫る二騎に向け、何本かの矢を連続して放った。しかしそのどれもが敵の剣に払われる。追手の余裕な顔も見て取れたが、それでも焦ることもなく射続けた。

 彼には充分な勝算がある。

 当然敵がダレクらに近付くほど、彼の放つ矢の精度と威力は上がっていく。そしてその矢の速度が敵の技量を上回ったとき、立て続けに二人の敵射落としてみせた。

 ウォルも、味方が討たれたのに気を取られた敵の隙を見落とさず、一気に攻める。

 一人の利き腕に斬りつけると、浮いた腕の間から脇腹に剣を突き刺した。後は力任せに、馬から敵を突き落とす。残りの一人は、先ほどからの立ち合いで実力は把握していた。正面から切り結びその技量の差によって、数合打ち合う内に斬り倒す。

 そこへ息付く間もなく、ダレクの叫び声が届いた。

「ウォール!急げぇ、船が着いたぞ!」

 振り向くとノクトネイラの船が、メイベルとダレクの元に接岸し舷梯を下ろしている。

 しかし一方で、馬の群れが大地を突き蹴る音も響いていた。追手の本隊が、丘を下りこちらへ迫ってくる。

 ウォルはメイベルたちの元に、急ぎ馬を返した。

 船の前に辿り着いたウォルに、メイベルは労をねぎらう。

「ご苦労です。さぁ、行きましょう」

 そう言ってメイベルは、ラワック馬を引き舷梯を上っていった。

 ウォルとダレクもそれに続くが、舷梯を上がりきったところで一瞬驚く。

 目の前に、異形の姿をした神々の眷属が多数、メイベルを迎えに甲板へでていたのだ。

 彼らは巨人のように大きな者から二人より背の低い者まで、一括りにできないほど多種多様な姿をしている。中にはネルセダやエルラッカムの系統らしい種族も見えた。

 眷属たちは皆、メイベルの元に集まり、口々に無事な帰還を喜んでいるようである。

 その彼らがウォルとダレクに気付き、一斉に視線を浴びせた。

 ここでは二人のほうが異質なのだ。

 どうすることもできず立ち尽くすウォルとダレクに、メイベルが助け舟をだす。

「二人は私の友人です。驚かせないで上げてください。さぁ、ウォル殿、ダレク殿。皆に紹介します。こちらへ」

 返事をしようとして、ウォルは思いだした。

「猊下、急ぎ出航しませんと!」

「そうでした。舷梯を上げてすぐ船をだしてください!」

 彼女の一言で、眷属たちが慌ただしく準備を始める。その手際は見事であり、瞬く間に船が動きだした。それは風、あるいは漕ぎ手によって動いている感覚ではない。

 ノクトネイラの船は、海岸を波に滑るように離れ始めた。

 とはいえ、狭い岩礁が続くため、それを避けながらの航行である。

「これで危機は脱したのかな?」

 ふと追手の様子が気になったダレクは、手摺から身を乗りだした。

「おい!ウォル」

「どうした?」

「あいつら引っついてるぞ」

 ウォルやそれを聞きつけた眷属らも、舷側の外板を覗く。

 複数の追手がロープを使って船の舷側をよじ登り、侵入を試みていた。

 ウォルは剣を抜き、立ち向かおうと身構える。

 ところが踏み込む寸前で、獣顔の眷属によって遮られた。

「客人は手出し無用」

 その間にも、船への侵入してきた者らは、眷属らに取り囲まれる。

「速やかにここから去れ!」

 獣顔の眷属は、彼らに向けて警告を発した。

「我らは、メイベル様に刃向かう者を決して容赦しない」

 しかし船も動き出しており、退路を断たれた追手は、引くに引けなくなっている。焦りの表情を見せながらも、攻撃の構えを解かなかった。

「猶予は与えぬぞ!」

 包囲した眷属らは手をかざし、法術を唱歌し始める。

 追手は自棄になって剣を振り上げ、無謀にも眷属たちに掛かっていった。

 しかしそれが彼らの最後となる。

 眷属らの手から放たれた攻撃球が彼らを吹き飛ばし、血や肉片さえ残さなかった。

 ウォルとダレクは、話にだけ聞いていた眷属たちの力を目の当たりにし、息を飲む。

 そこへメイベルが現れ、眷属らに詫びた。

「私の失態です。皆の手を煩わせ、申し訳ありませんでした」

「いいえ。船に賊を侵入させたのは我々の落ち度です。もっと早く到着し、迎え入れる準備さえ整えておれば、メイベル様を危険な目に会わせずに済みましたものを」

 皆はメイベルに対し恐縮する。

「お互い詮なきことを言いましたね。それではこの件を置くことにして、船に透明壁を施してください」

「承知致しました。してどちらへ向け航行致しますか」

 問われたメイベルは、ウォルとダレクを見た。

「エスルへ戻ります。エルが囚われの身になってしまいました」

 眷属たちはざわつき始める。

「何と!ネルセダもでしょうか」

「ネルはエルの救出計画を実行するため、別行動をとってもらっています」

「では我らも、協力致します。仲間に仇なす者は許しておけません!」

 爬虫類顔の眷属が詰め寄った。

 メイベルはやんわりと断る。

「いいえ、エスルへ送り届けてもらうだけで結構です」

「しかし!」

 眷属たちが不満を表明した。

「エルラッカムの救出など、我らにかかれば造作もありません」

「メイベル様の好意を踏みにじった人間どもに、思い知らせましょう」

「人類をつけ上がらせるべきではありませぬ。我らを侮ったこと、後悔させましょう」

 それに対し、メイベルはウォルたちにも届く声で宣言する。

「これは私と彼ら、ウォル殿とダレク殿とで解決致します」

 彼女の強い口調に、眷属たちは口をつぐんだ。

 ウォルはメイベルの言葉にグッとくるものを感じ、眷属らの前で表明する。

「お任せください。必ずエルラッカム殿をお救い致します。猊下に対しても、誰にも手出しはさせません」

 その言葉を、彼らがどのように受け取ったかわからないが、メイベルだけは頷く。

「そういうことです。私たちを信じてください」

「……」

「わかり申した」

「メイベル様の意のままに」

 眷属らは皆、メイベルに逆らえない様子で渋々承知した。

「では準備を引き続きお願いします」

 彼女に促され、皆散らばり、持ち場へ戻っていく。

 甲板に残ったメイベル、ウォル、ダレクの三人は、船が変化していく様子を眺めた。

やがて船が振動しだし、徐々に発光を始める。

「あれ?全体が光っている」

 ダレクから素直な感想が、思わずこぼれた。

 メイベルは、二人に説明する。

「今、この船は法力によって光の鏡に包まれました。乗船している私たちに効力はありませんが、外から見ている者にとっては、船は透明になり見えなくなっているはずです。先ほど丘の上であなたが目撃した状況を、今は中から見ていることになりますね」

 彼女がそう言うように、追跡を放棄した兵士らは、海岸で一様に驚きの表情を見せていた。目の前で陸から離れていくノクトネイラの帆船か、陽の光と輝く波に溶け込むように消えてしまったのである。

 彼らは改めて任務に失敗したことを痛感し、呆然と海を見つめるしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ