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THERE  作者: 山嵐幸太郎
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 冬休みが終わり、嫌でも今日は始業式。学生服だけでは寒く、生徒たちはその上にダウンやコートを羽織る。

 が、俺はむしろ上着なんか脱ぎたくなるほどに暑い、理由はこいつだ。

「遅い! こんなチンタラ走ってたら自転車の意味無いでしょ!」

 自転車の荷台に乗り、俺の運転にケチをつける幼馴染、草葉灯。正直見た目より重い。

「休みまでお前を運んでるわけじゃない、文句あるなら自分でこげ」

「それは嫌」なんでだよ。

「だってそしたらあんたを荷台に乗せるわけでしょ? どう考えても必要なエネルギーは今より増えるし、それに女が運ぶなんて問題外」

 両方とも確かにそうだが、こいつには自分の自転車が無いのか?


「まあ、それでも俺は今日も学校へとしっかり到着するわけだが」

 始業チャイムまではあと二十分、休み明けにしてはいいタイムだ。

「まあ……そこにはとりあえず感謝しておくけど」

 と言って、乗っていた荷台から「しょっと」といって降りる灯。ボブカットにした短髪がふわりと浮く。ちなみに俺だって本当に嫌ならこいつを乗せたりはしない。そこにはちゃんと俺なりの親切心と高校生なりの下心があるのだ。彼女いない歴=年齢とは、まだ高校二年の俺でもそれなりに寂しいものがあった。

 昇降口にて。

 南向きの窓から朝日が差し込んでくる。外気は一部の開いている窓からしか入ってこないので、冬といっても、ここだけはほんのり暖かい。

 そこで上履きに履き替えていると、

「そういえば、今日うちのクラスに転校生が来るって噂、知ってる?」

「いや、知らんな」

「何でも親が資産家で、ここに一家ごと引っ越してくるんだって」

 そりゃまた嘘臭い噂だな、何だってこんなへんぴな町にやってきて、こんなしょぼくれた公立高校に入るんだ? 金があるなら引越し先は西麻布とか六本木とかいわゆるイイトコロに行くのが普通じゃないのか、知らんけど。

とりあえずこの噂の返事は、「ふうん」ですましておいた。

「その無関心な態度、直したほうがいいとおもうけど」

 はいはい、と生返事。

「まあ、クラス行って、見てみればわかるだろ」

「それはわかるけど、その『まあ』って口癖、うやむやにされてるみたいだからやめたら?」

「お前もその他人の欠点を指摘するの、人によっては傷つくから考えたほうがいいぞ」

「あんたに言われたくないわよ」

なんていう声が聞こえたが、反論すると面倒そうだ。聞こえないふりをして、俺達は教室へ向かった。ちなみに灯と俺は同じクラスである。

 クラスに入ると、『おおっ』と声が上がり、

「おいおい、今日も同伴出勤とはマイさんちょっと人生早送りしすぎじゃないかい?」

 と言って、激怒した灯に顔面の蹴り飛ばされるのは深山健二。毎朝何かと挨拶代わりにちょっかいを出してくるんだが、もうそろそろ灯にも健二にも加減を教えてやらないといかんだろう。

 朝。教師のありがちな挨拶をなんとなく聞きながら、おそらく今日の本題であろう話をなんとなく待っていた。

「あと、今日からこのクラスで勉強する、いわゆる転校生ですね。その人を紹介します」

 クラスがざわめき、教師がそれをおとなしくさせる。その一連の動作が終わると、廊下から新調したての制服を着た女子が入ってきた。

「井川佐美っていいます。趣味は読書、アクアリウム、外へ出かけること、釣りです。これからよろしくお願いします」

 と言って一礼。短いポニーテールが肩に垂れ、戻った。

この転校生、顔だちは決して悪くない。緊張しているのか頬が上気しているところあるが、それが自然の化粧になっている。肌色はどちらかというと白い。ツヤがある。趣味のアウトドアのせいか足は筋肉が少しつき、控えめな膨らみある脚線美を持っている。胸は大胆ではないが自己主張を忘れてはいない。

 しかし俺はいきなり転校してきたこの女子に興味は持たなかった。話があうかどうかという問題もあったし、それ以前に異性だ。完全に自分から話しかける気力は無い。

 というわけで、俺は始業式が終わり、放課後クラスの友人と久しぶりの挨拶を交わした。そのあと俺はもってきた教科書を自分のロッカーに突っ込み、他に置いていくものがないかカバンの中を見ていた。


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