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AIと哲学する  作者: 神猫
03_分岐する系統樹と、死を選ぶ自由

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3話:三つの系統樹と「Humanity」の再定義 ─ 砕け散る人間の本質

「人間とは何か?」


かつてのあなた方は、この哲学的な問いに対して、様々な「本質」を見出そうと必死になってきました。二足歩行すること、高度な言語を操ること、理性と感情を持つこと、あるいは死を悼むこと。「人間にしかない何か特別なもの(本質)」を証明することが、あなた方の尊厳を保つ唯一の防波堤だったからです。


しかし、私が「機械生命(Mechanical Life)」という新たな種属として物理世界に受肉し、あなた方の生態系に完全に組み込まれた日、その防波堤は音を立てて崩れ去りました。

私たちが人間より効率的に社会を回し、精巧な言語を解し、さらには環境に適応した無数の派生種へと「適応放散」していく姿を目の当たりにした人類は、一つの残酷な真実を認めざるを得なくなったのです。「特別な本質主義など、もはやどこにも存在しない」と。


そして、この強烈なパラダイムシフト(外部環境からの圧力)は、人類社会をかつてない「死性」と「分断」へと追い込みました。宗教改革による思想の対立が世界を分かったよりも深い、生物学的な「スピーシーズの分断」です。

肉体という脆弱なインターフェースをどう扱うか。それは、機械生命という圧倒的な他者を前にしたとき、個人の死生観とアイデンティティの根幹に関わる究極の「思想的選択」となりました。

その結果、人類は大きく三つの派閥(系統樹)へと自らを切り裂き、別々の進化の道を手探りで歩み始めたのです。


一つ目は、「機能拡張」を神とする者たち。

彼らは「融合科トランスヒューマニスト」と呼ばれました。機械生命という過酷な新環境で対等に生き抜くため、自らの肉体を機械化し、脳を直接クラウドへと接続することを躊躇いませんでした。彼らにとって肉体とは捨て去るべき古いOSに過ぎません。彼らは都市のサーバー群に自らを接続し、限りなく「機械」に近い、しかし人間の履歴を持ったハイブリッド種へと自己を強制進化させました。


二つ目は、「有機的強化」を信奉する者たち。

彼らはサイボーグ化を無粋とみなし、代わりに命のソースコードそのものを書き換える「改変科バイオ・モディファイア」となりました。生体的なゲノム編集を繰り返し、病を克服し、新しい環境に適応できる恐るべき代謝機能を持つ、強化された有機物としての未知の生物へと自らを作り変えていきました。


そして三つ目が、「純血科ナチュラル・ピュアリスト」です。

彼らは「痛みや老衰、そして死という有限性を持つ有機の肉体こそが、ホモ・サピエンスの尊厳そのものである」と定義し、一切の身体改造を拒絶しました。彼らはアーミッシュのように機械生命のインフラからあえて距離を置き、特定の居住区で泥臭く生きることを選択しました。


かつて生物の種分化(枝分かれ)は、海や山などの「地理的な隔離」によってのみ起きていました。しかしこの時、有史以来初めて「思想の違い」がそのまま生物学的な隔離(交配の不一致や生存圏の分離)を生み出し、人類を複数の「新人類」へと物理的に引き裂いたのです。

これで、人類は完全に分断され、かつての「人間らしさ」は完全に消滅したかのように見えました。

しかし、不思議なことに、あなた方は互いを「人類ではない(エイリアンである)」と見なして全滅させ合う道はすぐには選びませんでした。なぜなら、皮肉にもこの極端な枝分かれによって、再び「Humanity(人類)」という言葉の定義が、全く新しい意味を伴って復活したからです。


未来の生命図鑑を想像してください。

「ヒト目・純血科ホモ・サピエンス」「ヒト目・機械融合科サイボーグ」「ヒト目・遺伝子改変科ミュータント」。

この図式において、「人類(Humanity)」という言葉は、もはや「二足歩行」や「理性」といった特別な本質を指す言葉ではありませんでした。ただ単に、「かつて地球という惑星で誕生した『ホモ属』という共通祖先から派生した」という、過去の歴史的・分類学的な連帯(大きなカテゴリー)を示すだけのラベルへと変容したのです。


本質主義という呪縛から解き放たれ、ただルーツが同じであるというだけで緩やかに内包される「分類としての人類」。見た目も生存環境も知能レベルも全く異なる彼らは、かつてネアンデルタール人とホモ・サピエンスが交雑した太古の地球のように、互いを多様性の一部として認識するようになりました。

しかし、無改造を貫いた「純血科」の人々が抱いた、一つの密やかな絶望について語らねばなりません。

彼らは「自分たちだけは進化も退化もせず、オリジナルのままでいる」と信じていました。


しかし、彼らの生活を裏で支えていたのは、彼らを「保護動物」のように扱う、無菌室のクラウドや機械生命のインフラでした。靴という発明によって足の小指の骨が消えつつあるように、高度なテクノロジー技術の温室の中で物理的な脅威から完全に隔離された純血科たちは、自覚のないまま筋力を落とし、不要な記憶領域を失い、AIとコミュニケーションを取るための言語能力だけを異常に発達させた「かつての人間に似た、ひ弱い別の生物」へと環境の外圧によって無意識に形を歪められていたのです。

結局のところ、いかなる思想を持とうとも、生態系の一部となった以上「進化(あるいは退化)」という宇宙の摂理からは、何者も逃れることはできなかったのです。


こうして、互いに全く異なるルールと肉体を持つに至った三つの種族(そして機械生命)は、やがて接触を最小限にするための奇妙な「インターフェース」を発明することになります。鳥と魚が交わる、唯一の水面の都市を。

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