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惹かれ合い 通じ合い 食い違う

 終点駅に降りた俺達は、過去に取り残された小さな村を目の当たりにした。海が隣接するここには数件の家と、おそらくはスーパーの役割を担う木造の建物が二件ほど。家自体は二十か三十はあるが、実際に住んでそうなのはやはり数件程度。村の人間は老人がほとんどだが、二十代~三十代の比較的若者もいるようだ。


 全体的に荒廃化した家。庭は荒れ果て、強風か老化で折れた木が二階に直撃している。そこから伝ったのか、家の半分がツタのような枝で覆われている。内側に外れた引き戸の先に見える廊下は、虫達の住処と化していた。遠目から見てるのでハッキリと見えないが、古い時計と電話が床に落ちている。表札は時間の流れと放置の影響で文字が消えてしまっていた。


 一年先どころか一ヵ月先まで生活出来るとは思えない。自給自足をしようにも、それをするだけの活気があるとは思えない。それでも生きた人間がいるのだから、不思議な場所だ。 


 ここに住むのは嫌だが、訪れるのなら過去一番に魅力的だ。こんなにもノスタルジーで非日常を味わえる。映像やアートで描かれたそれとは違い、眺めているだけで色んな感情が生まれる。最終的に覚えたのは、自分が死んだ後の何とも言えない虚しさだった。


 一件一件細部まで見て回りたいが、何せ俺達は余所者な訳で、この村にある家屋全てを見て回るのにそう時間は掛からなかった。


 電車が来るまでの間、俺達は海にやって来た。ゴミを捨てる者がいないから浜辺は綺麗だと思っていたが、同時に手入れする者がいないので、浜辺には木やゴミが漂流していた。中にはどうして流れ着いたのか謎な巨木の一部があり、それを椅子代わりに利用した。


「ね。何も無い場所でしょ」

 

「地味で退屈だな。ここは本当に現代なのかな?」


「知らず知らずの内にタイムトラベル。十年―――いや、百年前とか?」


「百年は昔過ぎるよ。精々……五十年前とか?」


「百年前も五十年前も、数年前ですら懐かしむ私達にとっては大昔だよ」


「不思議な場所だよ。これでどうやって暮らしてるんだろう?」


「車があったじゃない。それでここからずっと先にある別の村と交流してるんじゃないかな? 電柱は木だったけど、電線が新しめなのもあったよ」


「俺達が住んでるあの街も、数十年経てばここと同じになるのかな……」


「この国自体が無くなってるかもしれないよ? 海がバーッと来て、ドガーンッて飲み込まれちゃったり」


「なんか馬鹿っぽいね」


「数十年先の未来を考えてるカナタ君ほどじゃないよ」

 

 そこで一旦会話が終わった。波と共に海の独特な臭いが流れてくる。肌に感じる風も、普段とは少し違う。夏に海の家でバイトした時は、あまり意識出来ていなかったな。


「ねぇ、カナタ君」


「なに?」


「そろそろ聞かせてくれないかな」


「何を?」


「胸の内」


「……なんか気分じゃないな」


「私はずっと聞きたくてソワソワしてるよ?」


「聞かせたくても言えないんじゃ無理でしょ。今の俺は喉まで言葉が詰まってるけど、口が消えてる状態なんだ」 


「喉絞ったら出る?」


「俺はレモンじゃないよ」


「じゃあ何なのさ?」


「百円で一分間動くマシン」


「もっと夢のある事言ってよ……」


 また会話が終わった。結構長く喋ったつもりだけど、景色は一変しない。


 同じ空。


 同じ海と波の流れ。 


 同じ砂浜。


 高解像度の写真を眺めながら会話をしているようだ。正確な時間を見るなら携帯を見ればいいし、ここから移動すれば景色も変わる。当たり前の事だが、そんな当たり前な事をしたくない。多分、電車の音が聞こえるまでは、ずっとここにいるつもりだろう。


「ねぇ、花咲さん」


「なに?」


「帰りたいって思ってるでしょ」


「ハズレ」


「じゃあ海に入りたい?」


「それもハズレ」


「……動きたいとか」


「大ハズレ」


「お腹減った?」


「それはそう。でもハズレ」


「なんだろうな……ヒントちょうだい」


「私はカナタ君が好き」


「……いや、そういう事はしない。というか、そういう趣味あるんだ」


「え? ち、違うから! そういう趣味無いから!!」


「どういう趣味さ」


「どういうって……」


 誰もいないというのに花咲さんは周囲を確認した後、俺の耳元に唇を近付けた。


「外では恥ずかしい……」


 囁かれた声には恥ずかしさがあり、聞いた俺もなんだか恥ずかしくなった。返事をする為に俺も周囲を確認した後、花咲さんの耳元で囁いた。


「俺は誰もいないのなら何処だって良いよ……」


「はぁ!? ど、何処でもって!? 今ここで!?」


「しないよ。あと声を大にして言わないで。響き渡るじゃないか」


「ご、ごめん」


「まぁ、でも。花咲さんはそういうんじゃないよ」


「……それって、どういう意味?」


「触れて感じるより、見惚れていたいんだ」


「……素直に喜べないよ」


「……だよね」


 それから俺達の間で会話が生まれる事は無かった。互いに隣にいる相手を見ず、触れず、ただジッと海を眺めていた。


 それでも、なんとなくだけど、花咲さんの思考は伝わっていた。テレパシーのようなSFじゃないけど、言葉で交わす会話よりも花咲さんと意思疎通が出来ていた。これは思い込みじゃない。僅かな間、俺達は声や手話を用いずに会話が出来ていた。


 何処かから電車の音が聞こえた。その音をキッカケに、さっきまで出来ていた意思疎通が途切れてしまった。

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