前途多難
吹く風の冷たさに寒いと思ってしまう。もう秋も終わりかもしれない。
「カナタ君。寒くない?」
「寒いね」
「そっか……」
会話が下手だと思うや否や、花咲さんが俺の手を握ってコートのポケットに突っ込んだ。なるほど上手い手口だ。ただポケットに手を突っ込むよりも、繋いだ手と手で温め合える。人の温もりというのは馬鹿に出来ないからな。
「……嫌がりも恥ずかしくもないんだ」
「何が? 温かいよ」
「……マフラーもしてくれば良かった」
自分からした事なのに、花咲さんは何処か悔しそうにしていた。
「そういえば、今向かってる店ってどんな店なの?」
「オシャレで美味しいフレンチ! お昼過ぎとはいえ、今日は土曜日だから、ちょっと混んでるかもしれないけどね」
「フレンチね……今日は定休日ってオチじゃないよね?」
「ご安心を! 定休日は毎週水曜。営業時間は午前十一時から午後七時まで。予約なしでもオッケー。ちゃんと調べてあるんだから!」
「なるほど、しっかりしてるね。フレンチか~……」
「洋食は嫌い?」
「嫌いっていうか、店の雰囲気が合わないからね。シャレた店にはシャレた人間しかいない」
「それはお店に入るのが恥ずかしいと思う人の言い訳。カナタ君って意外と自分に自信無いんだ」
「着る服に悩まない人間だからね」
フレンチって何料理だ? フランス? なんにせよ、食べ馴染みがある料理があればいいな。フィッシュアンドチップスとか。食った事無いけど。
そうして歩く事二十分。まぁまぁな距離を歩いたおかげで、俺も花咲さんも空腹だ。フレンチだろうがイタリアンだろうが、空腹を満たせるのなら何でも構わない。
「で? ここが目当ての店?」
「うん」
「扉の代わりにシャッターとは、面白い店だね」
「うん……」
「それでこの紙によれば【しばらく武者修行に行って参ります。店主より】と書かれてあるな」
「……うん」
「……まぁ、これは予想外だったな」
結局俺達は、近くのファミレスへ入った。席に案内され、早速メニュー表から食べる物を選び始めた。
「さて花咲さん、何食べる? 大抵の物はあるよ。それこそフレンチコーナーもある」
「しばらくフレンチって言葉は見たくも聞きたくもない……」
「あ? なんでフレンチトーストはフレンチコーナーに載ってないんだ? フレンチって付いてるだろ」
「フレンチフレンチうるさい!」
花咲さんは俺の手からメニュー表を奪い取ると、注文端末を連打の如く操作して注文を済ませた。あの様子だと、俺の分も勝手に注文したな。何が来るんだろ。
「それで? この後どうする? 時刻は……もう四時になるな。帰るか」
「帰らない! ちゃんと考えてあるから!」
「そんなヤケにならなくても……」
「このままだと友人関係に落ち着いちゃうじゃん! 今日と明日で、絶対カナタ君をモノにするから!」
それが空回りに発展してるんじゃないか、と言いたい所だが、今の花咲さんに言っては泣かれてしまう。花咲さんはやる気を出すとポンコツになるタイプか。なんというか、リンとは真反対だな。
リン、か。今頃、何してるんだろう。もう既に俺に愛想尽かして、別の男か女と仲良くやってるんだろうか。それか俺の代わりにタケシの世話をしているのか。
なんか、嫌だな。
「……カナタ君」
「ん?」
「リンちゃんの事、考えてたでしょ」
「……ご明察」
「今頃、別の人と仲良くしてるかもね~」
「嫌だなー……」
「……リンちゃんの事を考えないように、今日と明日だけ恋人関係を解消したんじゃないの?」
「そうなんだけど……花咲さんがリンの事を考える隙を与えた所為だよ」
「私の所為にするんだ。酷いね」
水の入ったコップを眺めていると、肩に何かがぶつかった。見ると、いつの間にか隣に来ていた花咲さんが俺に寄りかかっていた。
「今日と明日は私の物なんだから、いいでしょ?」
「……まだ花咲さんの物になった覚えはないよ」
「なるよ。きっとね」
花咲さんは俺の頬に唇を当てると、上目遣いで笑みを浮かべた。
自信あり気に語るその言葉から察して、何か秘策があるのだろう。マイナスな事ばかり考えるより、その秘策の正体に頭を悩ませる事にした。




