美化
今日の美術の授業は、相手の絵を描く。けれども描きたい相手が学校に来ていない為、妥協でタケシの絵を描く事にした。
「人の絵って物を描くより難しいよな。物だったら下手くそでも笑い話に出来るけど、人だとそうはいかないだろ?」
「どうした急にマトモな事言って」
「いや、お前の絵を描いてみたんだが、どう頑張ってもお前に見えなくてな……」
タケシが描いた俺の絵を見せてもらうと、確かに俺ではない別人の絵だった。人の絵は小さな描き間違いが大きな違和感になるので、タケシが言うように難しいものだ。鼻が少し長かったり、目が小さかったり、顔の輪郭が細かったり。完璧に模倣するのは素人はもちろん、プロならもっと出来ない。元より印象深く描くのがプロなのだから。絵は妄想よりも美化されるものだ。
ただ、タケシの絵には一生懸命さが現れている。何度も描き直した跡。髪の毛で描くパーツを省略していない。変に理想化させずに、多少崩れても現実的にしてる。
「俺は好きだぞ。お前の絵」
「マジか!」
「ああ。下手くそなりに頑張ったじゃないか」
「ハハ。お前は元美術部員様だもんな」
「元美術部って言っても、俺が描ける絵は風景だけだ。まぁ、その唯一描ける絵に絶望したから、辞めたんだけどな」
「それでサッカー部を勧めたんだけど、お前は結局帰宅部のままだしな」
「言うなよ。全力で描いた絵に絶望してから、俺は何かを本気でやる事が嫌になったんだ。お前は俺がサッカー部に入部したら、否が応でも同じ熱量でやらせるだろ?」
「おう! エースストライカーの双璧だ!」
「じゃあ今の俺は正解を選んでるわけだ」
描き終わった絵をタケシに渡した。俺の絵を見た瞬間、期待一色だったタケシの表情が困惑一色に変わった。
「馬の絵と、鹿か?……え、俺は?」
「馬と鹿を漢字に直して並べると?」
「……馬鹿?」
「ほら、お前じゃん」
「一休さんかよ、お前……」
美術の授業が終わり、昼休みになった。屋上に行く前にコーヒーを買おうと一階の自販機に寄った。そうして買ったコーヒーを片手に屋上へ向かおうと振り返ると、男女五人組が横並びで立ち塞がってた。男女例外なく気味の悪い笑みを浮かべている。
「お前、風野カナタって二年だよな?」
「え? まぁ」
「ヘヘ! ちょっと俺らに付き合ってもらおうか」
「断んない方が身の為だよ~?」
屋上へ行くと、タケシがリンに土下座をしていた。リンは俺が来たのを目にすると、逃げるように俺の傍に駆け寄ってきた。
「先輩助けてください! 嫌って言ってもタケシ先輩が聞かないんです!」
「何があったんだよ」
「その、携帯にカナタ先輩の絵を保存してるって自慢したら、見せろって脅されて……」
「……あれが脅してる?」
もうリンは目の前にいないというのに、タケシは気付かず土下座し続けている。懇願も度が過ぎれば脅しになるか。
その後、俺が見せても良いとリンに言って、タケシに過去の俺が描いた絵を見せた。念願の絵を見たタケシは最初こそ眼を輝かせていたが、すぐに飽きて昨日のお笑い番組の話をし始めた。絵に興味があるわけじゃなく、過去に俺が描いた絵が気になっていただけなようだ。すぐに興味が失せたタケシに、リンは若干不機嫌になっていた。
「それでさ―――って、おいカナタ。そのコーヒー缶、ちょっと潰れてないか?」
「ん? あぁ……買った後、ちょっと強く握ったからだな」




