狼の皮を被った羊
久しぶりに来た学校だったが、色々と疲れた。
睡魔誘う授業。
常に感じる視線。
何かを成功する度に鳴る拍手。
タケシ伝いに聞かれる連絡先。
ほとんど周囲が原因で疲れたな。始めは無関心、次に軽蔑ときて、今度は羨望。彼ら彼女らの善悪基準はスイッチ式なのだろうか。
そもそもこうなった原因である噂をタケシから聞いてみれば、事実無根な肉付けをされていた。強盗集団二十人を相手に徒手拳法で制圧って胡散臭いだろ。どうしてこれを信じるんだ。というか強盗制圧って、もう話がすり替わってるレベルだろ。
「じゃあカナタ! 俺、部活行ってくるわ!」
「ああ。また明日な」
「また明日……ハハッ! そうか! また明日か!」
「合法的な長期休暇は終了したしな。あ、そうだ。アオから何か連絡来てないか?」
「アオ? あぁ、そういえばアイツもずっと休んでるな。入院してるんだったか?」
「そうだけど、そこまで重症ってわけじゃないんだけどな」
俺からのメッセージも返事を寄こさないし、今週の土日のどっちか見舞いに行ってみるか。
タケシが教室から出ていくと、教室に残ってる人達からの視線が気になってしまった。ずっと見てるだけで話しかけてこないのがタチが悪い。居心地悪い俺の身にもなってくれよ。
カバンを持って教室から逃げ出し、リンの教室に向かった。
階段を下りていく途中、上から急いで下りてきた足音が踊り場で止まった。
「英雄く~ん!」
振り返ると、声を掛けてきたのは胸のデカい先輩だった。短いスカートを履いてる所為で、数段下りたここからでも下着が見えていた。
「えっと、リ……リ、リ……先輩。何か用ですか?」
「誰かから聞いたのなら憶えておきなさいよ。リアナ! それがウチの名前!」
「風野カナタ。それが俺の名前です。人の名前はあだ名ではなく、ちゃんと呼んでもらいたい」
「ッ!? やっぱり生意気な後輩ね……!」
「そう思うのは、先輩のプライドが高く傷付きやすいからです。見せかけの余裕なんて見苦しいだけですよ」
「人を馬鹿にしないと死ぬのかな君は!? このリアナ先輩が声を掛けてやってんだよ!? もっと鼻の下を伸ばしなさいよ!」
「あいにく、紫のスケスケパンツに欲情する感性は持ち合わせていませんので」
「は? パンツって―――ッ!?」
両手でスカートを抑えた。恥じらっているのか? なら、なんでそんなにスカートを短くしてるんだろうか。
「ウチの秘部を勝手に見やがって……!!」
「秘部ってほど秘密にしてませんよね? もう行っていいですよね。パンツ見ましたし」
「そんなわけないだろ!!」
「では早く要件を。暇は暇でも、暇な時間を他人に奪われるのは嫌なものなんですよ?」
「グッ!? いちいち癇に障る……!!」
おかしい。タケシから聞いていた人物とは思えない。もっと話が通じない人だと思っていたが、意外にも恥じらいや弱さがある。見た目が痴女なだけの普通の女子だ。それとも花咲さんとリンの所為で、俺の中で厄介な女性のハードルが上がってるのだろうか。
先輩はパンツが見えない位置まで階段を下りてくると、思い出したかのように意地の悪い笑みを浮かべた。
「風野君。ウチが風野君と付き合ってあげる」
「付き合うとは?」
「とぼけるつもり? 男女の関係。もっと言えば……体の関係、かな」
先輩は指で引っ張って胸元を見せてきた。パンツは恥ずかしがるのに胸元は良いのか。この人の羞恥がよく分からん。
それにしても、改めて凝視してみると怖い大きさの胸だ。巨乳という類を超えた何か。この大きさでは重さも凄まじいだろう。そうなると、気になるのは胸なんかじゃなく、胸の負荷によって鍛えられているであろう肩周りだ。
「なんだ。口では色々言ってくれちゃったけど、ちゃんとウチの胸に興味津々じゃんか」
「……それ、何キロあるんですか?」
「……は?」
「いや、だから胸の重さです。俺は男だから分かんないんですけど、胸って脂肪の塊らしいじゃありませんか。その大きさから察するに……合わせて五キロ程?」
「いや……は? いや、いやいや! アンタ、馬鹿なの!? こんなにおっきい胸が目の前にあんだよ!? 食い入るように凝視してんじゃん! それなのに気になるのが重さ!?」
「ええ、まぁ気になった―――あ! ごめんなさい。女性に重さなんて聞くのはデリカシーありませんでしたね」
「そうだけど! そうじゃない!」
「初めて会った時、服を乱しすぎだと思ったんですけど、そりゃそうですよね。そんなに大きいとサイズが無いんですよね? それなのに痴女だなんて思って、すみませんでした」
「ッ!? お、覚えときなさいよー!!」
通り過ぎざまに腕を先輩の胸で殴られ、先輩は下駄箱の方へ走り去っていった。腕を殴られた感覚からして、五キロじゃ済まないかも。
すると、先輩が去っていた逆側からリンが現れた。リンは走り去る先輩の後ろ姿を奇怪な眼で追った後、階段で腕を抑えている俺には呆れた視線を向けた。
「先輩……また、やりましたね?」
「……ごめん」




