恋文
下駄箱に手紙があった。赤いハートのシールで封を留めてる。
「おはよう、カナタ君」
「うん。おはよう、花咲さん」
「ん? その手紙、どうしたの?」
「下駄箱に入ってた」
「えぇ!? そ、それって、つまり……」
封を開けて中の手紙を読んでみると、全体的に丸っこい文字で【昼休み。校舎裏に来てください】と書かれていた。差出人の名前は書かれていない。
「やっぱり、それってラブレター……よ、良かったね! やっぱり、カナタ君はモテるんだよ!」
「……あぁ、そうか。アイツか」
「心当たり、あるの?」
「多分ね。俺としては、アイツであってほしいな」
「……告白、オッケーするの?」
どうして花咲さんは心配そうに俺の顔を見てるのだろう。彼女には関係ない話なのに。
それから昼休みになり、俺は手紙に書かれた通り、校舎裏に向かった。
校舎裏まで来ると、アイツの姿が無い。まだ来ていないのか。
「先輩!」
急に背中に衝撃が走った。視線を下に落とすと、後ろにいる誰かが俺の腹部に手を回している。背中の真ん中らへんに頭が当たってる事から身長を考えるに、やはり手紙の差出人はアイツだ。
「リン。またこんな誘い方して。普通に教室に顔出せよ」
「……チェッ! バレちゃってましたか」
俺の背から離れた後、振り返ってリンの姿を見た。赤いゴムで結ったツインテールに、低い身長。可愛い顔で華奢な体格。普通よりもかなりスカートを短くしている。
やはりリンだ。中学の頃から変わらない可愛い後輩だ。
「それにしても、最初から僕が来るのを分かってた風でしたね? 僕の名前を書いてなかったのに。そんなに僕の事が好きなんですか、先輩?」
「中学の時も同じ方法で知り合っただろ。それにあの文字の書き方。あんな文字、お前以外じゃ書かないよ」
「嬉しいな~! 先輩にそこまで憶えてもらってて! それじゃあ早速、告白の返事、くださ~い!」
「お前、タケシには会ったか? アイツ、俺よりもお前を可愛がってただろ。きっと喜ぶぜ?」
「え、ヤダ」
相変わらずタケシの事は苦手なようだ。まぁ、傍から見ても、仲良しには見えなかったし。なんというか、ウザい飼い主と懐いてない猫みたいな関係だよな。
「それにしても、お前もこの高校に来るなんて。確か、美術で有名な学校から推薦貰ってただろ?」
「先輩がいないんで、断りました!」
「もったいない。お前絵の才能凄いんだから、その才能を無駄にすんなよ。まぁ、お前が決めた事なら、俺が何言っても意味無いよな」
「そういう僕を尊重してくれる優しい所、やっぱり好きですよ!」
「ありがと。こんな可愛い後輩に好かれちゃ、悪い気はしないよ」
リンと仲良くなったのは、絵の才能もあったが、一番はこの人懐っこい所だ。こんなに可愛い後輩なのに、俺なんかを尊敬して同じ高校にまでついてくるなんて。なんだか、ちょっと悪い気がするな。
「再会の挨拶も済んだし、戻るか。俺まだ昼ご飯食べてないんだよ」
「僕もです、先輩!」
「じゃあ俺のクラスに来いよ。タケシは……もう食い終わって友達と遊んでるかもな」
「むしろ好都合です!」
「ハハ。お前、ちょっとは残念がれよな? タケシの奴、本当にお前の事を気に入ってんだからさ」
「……そんなの、どうでもいいですよ」
「酷い奴だな。じゃあ、先に教室に戻ってるから。後で来いよ」
「……はい! 先輩、また後で!」
一旦リンと別れ、先に教室に戻った。本当に変わらない。初めて会った中学の時から、ずっと俺についてきて。俺の絵がマシになったのもリンのおかげだし、よく話しかけてくれるし、アイツと出会ってから色々良い変化があったな。
ただ、相変わらずなんで女装してるのかだけ分からん。確かに男のくせに可愛い顔してるし、体格だって華奢だが、だからといって女子の制服を着る理由にはならんだろう。そういう趣味、と言えば簡単だが、まぁ深く言及しない事に越したことはない。
教室に戻ると、花咲さんが弁当を机に出したまま俯いていた。
「花咲さん。まだ食べてないの?」
「あ……ちょっと、食欲が湧かなくて……」
「そっか」
「……あの! 告白、どうしましたか……?」
「告白? あぁ、今朝の手紙の事。別に告白なんかじゃないよ。中学の後輩がこの学校に来た事を知らせてくれただけ」
「え? あ、そ、そうなんですね! そう、だったんだ……!」
花咲さんは安堵したかのようにホッと息を吐くと、弁当の蓋を開けた。
「なんだか、食欲が戻ってきました。良かったら、一緒に食べませんか?」
「いいけど……後から後輩も来るよ?」
「じゃあ、三人で。フフ、あんな誘い方で入学を知らせるなんて、一体どんな方なんでしょう!」
すると、教室の扉が勢いよく開けられると、元気の良い声が教室に響き渡った。
「せんぱーい!!! 愛しのリンちゃんが会いに来ましたよー!!!」
「おぉ、来た来た。あれが噂の後輩。元気が良くて可愛い奴だろ?」
「え、えぇ……」
リンの登場のインパクトが強すぎたか、花咲さんは苦い顔を浮かべていた。




