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燃え盛る炎のように 穏やかな暖炉の火のように

 トウカさんに連れられて二時間ほど。車から降ろした荷物を背負い、林道を進んで辿り着いたのは、秋に彩られた木々が囲うキャンプ場。探さずともテントを見つけられる程度には人がいる。


「おぉ! 結構いるね! みんな暇人だね~!」


 キャンプをしてる人達を横目で見ながら、トウカさんの後を追った。キャンプ場は林間学校以来だが、あの時は学生が占領していたから何も感じなかったが、見知らぬ人がいるテントの数々に不安な気持ちになる。他人がいる場は初めてではないはずなのに、こういう場所ではどこか身近に感じてしまう。周りを囲う木々の所為だろうか。 


 トウカさんの後を追いかけていくと、他のテントから離れた場所で止まった。


「ここがいいかな? このくらい離れてれば、誰も絡みに来ないでしょ」


「来るものなんですか?」


「妙なフレンドリーさに掻き立てられてね。まぁ、誰もが必ずって程じゃないけど。あ、荷物運んでくれてありがと! やっぱり男の子だね!」


 荷物を下ろすと、風が木々を揺らす瞬間を目の当たりにした。木から離れた紅葉が宙を舞い、地面に落ちていた紅葉が迎えに行くように浮き上がる。思わず「おぉ」と声を漏らしてしまった。まるで先立った者との再会のようだ。生と死の狭間とでも言うべきか。


「芸術家モード?」


 花咲さんがからかう口調で囁いてきた。


「季節に浸る瞬間、誰もが芸術家さ」


「そうかな? 私には、ただ紅葉が木から舞い落ちたようにしか見えないけど」


「表面的だね」


「つまらない人間かな?」


「何でもかんでも芸術として捉える人間よりはずっとマシだよ。それに表面的な感想も、立派な個人の感性さ。良いか悪いかなんてのは無粋だよ」 


 トウカさんがテント設営をしている間、俺達は焚き火に使う枝を任された。どのくらい拾ってくればいいかを尋ねると、多過ぎず少な過ぎずとアバウトな返事をされた。初心者には難しい指示だ。


 地面に落ちてる枝を拾いながら紅葉の木々を眺めていると、一際綺麗な紅葉をした木を見つけた。真っ赤な紅葉は幻想的で、太い木の幹は力強さを感じる。他とは明らかに違うこの木に、枝拾いを忘れて見上げていた。


 すると、頬を触れられた触覚と共に、リップ音が聞こえた。振り向くと、花咲さんが人差し指で唇を撫でながらニヤけていた。


「怒らないでね。無防備だったのが悪いんだから」


「……別に、キスくらいならもう怒らないよ」


「へぇ……なんか、複雑だな~。キスを許してくれたのに、キスされても無反応なんて」


「これが初めてなら色々言うよ。でも俺は、何度も花咲さんに不意打ちされてるからね」


「何度もって沢山はしてないでしょ? 四、五回くらいだよ」


 何処からか風に乗ってきた紅葉が一枚花咲さんの頭に乗った。それを取って見ると、何処にも欠けた部分が無い綺麗な紅葉だった。


「綺麗だ」


 そう呟いた後、疑問が浮かんだ。何に対して綺麗と呟いたのか。普通に考えれば手に取った紅葉に対してだろうが、紅葉がボヤけて見える。ハッキリと見えているのは花咲さんの顔だ。


 答えを出せずにいると、花咲さんが俺の頬に触れてきた。その手の平に温かさを感じると、花咲さんは少し背伸びをして唇にキスをしてきた。唇と唇が触れる程度の軽いキス。


 それでも、胸の内に熱を感じた。


 木々が揺れ動く音で我を取り戻した風に花咲さんを離した。罪悪感はあるが、それ以上に快感のような高揚感もあった。二度目を望んでしまう下心が体を支配しようとしている。


「……悪いと思わないで」


「え……?」


「これは隙があったから。カナタ君は抵抗出来なかったから。だから、カナタ君は悪くない。悪者は、私だから」


 俺を見つめる花咲さんの瞳に心が締め付けられる。


 ゆっくりと近付く唇に、花咲さんも俺も、息遣いが乱れていく。


 唇に柔らかな感触を感じると、再び胸の内が熱くなった。花咲さんは目を閉じてキスの感触に浸っている。一方で俺は、この妙な感覚に疑問が浮かぶばかりだった。


 リンとするキスは恋愛のものだと断言出来る。キスされたいし、キスしたい。求め合う気持ちに昂り、キス以上の事をしたくなる。


 でも花咲さんとのキスは、リンのとはまるで違う。熱を感じるが、これ以上は発展しない。ただ、この高揚感は時間が止まったような錯覚をさせる。


 リンが燃え盛る炎だとすれば、花咲さんのは暖炉の火。


 いや、難しく考える必要なんかない。むしろ考えてしまうのはリンへの裏切りだ。リンと花咲さんを比較してしまうなんて、立派な浮気だ。


 花咲さんとのキスに幸せを覚えてしまったのは、きっと紅葉の所為だ。この環境に美化されてるだけなんだ。

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