刺激
リンにメッセージを送ったが【気にしてません】の一点張り。額面通りに受け止められる程、今に限って俺は鈍感じゃない。
「カナタ君。ご飯出来たよ」
「ノックしなよ……」
「あ……何か、あった?」
「え?」
「イライラしてるからさ」
よく分かったな。
いや、何故分かった?
「リンちゃんの家に行ってたよね。そこで何かあったんだ?」
ズバリと言い当てる。こういう所があるから、花咲さんに少し怖さを覚えてしまうんだ。エスパーというか、憑依に近い。俺になって俺よりも俺を知っている。
花咲さんはゆっくりと俺に歩み寄り、俺の肩に手を置いた。
「私の所為だよね……」
耳がゾワリとした。嫌じゃないが、勘弁してほしい。
「どうしてそう思った?」
椅子から腰を上げ、花咲さんに正面を向いたまま距離を取った。花咲さんは微笑をこぼし、俺が座っていた椅子に座った。
「だってリンちゃんの機嫌が悪くなる時って、私が原因じゃない」
「それを分かっているなら、改善してほしいな」
「誰に言ってるの?」
「花咲さん以外にいる?」
「いるよ。私と、カナタ君」
「……リンは肩入れし過ぎと言った。自覚が無いと言えば嘘になるが、肩入れと言われる程だろうか?」
「私は心地いいよ。高価な宝石を取り扱われてるみたいで」
花咲さんは椅子を回転させた。それの所為で、本音なのか冗談なのか分からない。
「なぁ―――あ、いや。ねぇ、花咲さん」
「……なに?」
「ご飯にしよう」
「そうだね」
晩ご飯は白米・味噌汁・焼き鮭の切り身。どれもこれも、食べてすぐインスタントだと分かる味。これで味が良いんだから、手料理の立場が悪いってもんだ。みんながみんな、インスタントばかり食べるようになったら、何処か欠落するのだろうか。
「そうだ! ねぇ、カナタ君! ずっと聞きたかった事があったんだ!」
「なにさ。藪から棒に」
「カナタ君って、格闘技の稽古を受けてたの?」
「格闘技? どうして?」
「だってカナタ君、大人相手に一方的だったじゃない! 特に私の父親はこっぴどくやられてた!」
「そう言われても……多分、俺は反射神経が良いんだ。言い訳苦しいけど、俺は暴行を加えたつもりは無い。ただ身を守っただけだ」
「才能?」
「暴力の才能なんて、真っ先に腐らせてしかるべきだよ」
「その才能のおかげで仕事が出来てる人がいるじゃない。格闘技のプロ。警察、軍人さん」
「同一すべきじゃないよ。前者はスポーツ。後者は公務。暴力ってのは、生産性も価値も無い負の欲望だよ」
俺の持論は、自分で自分の立場を危うくさせてる。実際そうだ。暴力は駄目だと理解しておきながら、俺は暴力で解決したんだ。衝動的にそれが手っ取り早いと判断して。
そう考えると、花咲さんとの関係がまた複雑化してくるな。俺が花咲さんを気に掛ける理由が、ただ好きなだけじゃなく、期待してるから? 俺の人生はそんなにつまらないものだったのか? このインスタント食品のように。
「でも、やっぱり必要だよ。暴力は」
「どうして?」
「痛い目に遭わないと学習しない人がいるんだから」
「……花咲さん、それからアオの両親は確かに言葉で諭せる相手じゃない。でも、だからって暴力はいけないよ」
「それ、わざと言ってるの?」
「何が?」
「矛盾してるじゃない」
「そうだね。だから、だからってと言ったんじゃないか」
「なんだか、私と話してる時のカナタ君は二人いる気がする。二重人格ってやつ?」
「それを言うなら花咲さんの方がよっぽどだよ」
「私は二面性でしょ。カナタ君のとは違う。カナタ君は表裏じゃなく、表と表。物で例えるなら、多色ペンかな」
こうも決めつけられて苛立たないのは、全て的中していると確信があるからか。あるいは、そう信じ込まされているのか。どうも俺は、女性にとことん弱いようだ。
「不思議な感じだね。私達って恋人でもないのに、互いに相手が欲しい物を持ってる」
「持ってるように見える?」
「だから好きなのよ」
「……花咲さんもアオに会いに行ったらどうだ? 多分まだ病院にいるよ」
「会いたくないよ、あんな男!」
「向こうも同じ気持ちだろうね。だからこそ行く価値がある。嫌がらせだよ」
「へぇ……カナタ君って、結構アオの事が好きなんだね」
「嫌いじゃないよ。だって可愛いじゃないか。ああいう男は年上に好かれる」
「あっそ。せっかくの二人の空間に割り込んできて、私は良い気がしないよ」
明らかに花咲さんの機嫌が悪くなった。今度から花咲さんのペースに乗せられたら、アオを使って離脱するか。




