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潜在

 

「カナタ君どうかな? 似合う?」


「うん」


「そっか! じゃあ…………これはどうかな?」


「うん」


「え~! じゃあ次は―――」


「試着室を私物化するな。もう何着目だよ。いい加減買う服決めてくれよ」


「分かった分かった! 次で最後にするから!」


 そう言って、花咲さんは試着室のカーテンを閉めた。


 服選びに付き合うとは言ったが、もう三十分も試着室でこんなやり取りを続けている。優柔不断というか好奇心旺盛というか。


 服なんて、その季節に合った服を着るだけ。熱いなら半袖、寒いなら長袖。見た目を気にするのはいいが、自分が服に負けては意味が無い。加点減点というより、同調しているのか誤魔化しているのか。物に個性を任せてしまえば、マネキン人形と大差ない。 


 少し、嘘を嫌い過ぎているな。


 試着室のカーテンが開くと、今までよりも素朴な服装の花咲さんが現れた。


「どうかな? シンプルだけど、その分どんな服にも合わせられるし、気を遣わずに使える。値段の割には生地も良いんだよ? まぁ、それでもカナタ君はケチつけると思うけど」


「……いいじゃん」


「あれ? もしかして好感触?」


「うん。今までのよりもずっといい」 


「へぇ……じゃあ、これを買おうかな!」


「なんで?」


「なんでって?」


「それは花咲さんが着る服でしょ。なら―――」


「だからだよ。じゃあ、もう少しだけ待っててね」


 カーテンを閉める直前、花咲さんは俺に微笑んだ。なんだか子供扱いされた気がする。


 花咲さんは試着した服を脱ぎ終えると、本当にそれを買った。あの言葉から察するに、俺の反応が良かったからだろう。自分が買う物を他人の評価で決めるのは、ちょっとどうかと思う。


「久しぶりに自分の服を買えたよ! やっぱり自分が着たい服を買うのって、それだけで楽しいね!」


「今まではどうしてたの?」


「用意されたよ。アオの好みに合わせてね」


「嫌だったんだ」


「今はそう思う。前はそうじゃなかった。カナタ君と会う前は好きな人なんていなかったし、親の言いつけに慣れちゃってたから。前の私はキャンパスだったけど、今の私は画家なのよ」 


 嬉しそうに語る花咲さんはエスカレーターに後ろ向きで乗った。


 気付けば、俺は花咲さんの腰に手を回していた。花咲さんが危なく感じて俺は慌てたのか?


 腰に回していた手を引っ込め、花咲さんが立つ位置から二段離れた位置に移動した。この一連の行動がおかしいのか、花咲さんは肩を揺らして笑みをこぼし、フワリと髪を流しながら前を向いた。


「カナタ君はリンちゃんの何処に惹かれたの?」


 唐突にリンの事を訊ねられた。確かに唐突だが、俺とも花咲さんとも関わりのあるリンの話が話題に上がるのは不思議な事ではない。


 ただ、背中を向ける相手と会話をするのは、少し不気味だ。


「わざわざ聞く必要ある? 好きなものは好きなんだよ」


「それは分かってるよ。私が聞きたいのは、具体的な話なの。作ってくれる料理が美味しいとか、優しい所とか。本当に好きなら、考えなくても出せるでしょ?」


「……傍に居てくれる。駄目な部分もひっくるめて、俺を好きでいてくれる。そういう所かな」


「それって違うんじゃない?」


 そう言って、花咲さんはエスカレーターから下りて、一階に下りるエスカレーターに乗った。


 違うって、何が違うんだ?


 その答えが気になり、エスカレーターを下って花咲さんの隣に立った。花咲さんは横目で俺を見ると、わざとらしく顔を背けた。


「カナタ君さ。私のどんな所を好きになったの?」


「今度は花咲さんの話? ……あまり言いたくないな」


「リンちゃんに悪いから? それとも私に気を遣って?」


「どっちもだ」


「……体?」


「違うよ。そんなんで恋はしないさ」


「じゃあ何処かな?」


「……髪の毛だよ。桜の木の下でそよぐ髪の毛が美しかったんだ。いや、美しいの一言では足りない。あの瞬間、君だけが生きた人間のように思えた。風景というか、自然。空に浮かぶ雲一つとっても同じものは存在しない。でも人間って、少しの違いはあれど、同じようなのばかりでしょ。あの瞬間の花咲さんは、他の人間とは明確に違っていた」


「今はどう?」


「嫌な言い方をすれば、知り過ぎてしまった。もしかしたら、ここまで花咲さんに肩入れしている理由も、あの瞬間の花咲さんを忘れられずにいる所為かもね」


「ふーん。じゃあ、私もリンちゃんも過去の花咲ハルに負けちゃってるんだ」


「どうしてリンも出すんだ?」


「だってそうじゃない。カナタ君はリンちゃんの安心感に心地良くなってるだけだから」


 エスカレーターを下りた後、足を止めて考えた。


 花咲さんの言い方が引っ掛かる。わざと引っ掛かるような言い方をしている。あくまでも俺に気付かせたいのだろう。


 ふと、一階のフードコートの数ある席に座る母親と子供に目がいった。特別変な所は無く、ただ母親と一緒に食事をしているだけ。食べる所を見守られ、時折食べ方や箸の持ち方を指摘され、口の周りについた汚れを拭いてもらって、同じ物を食べてるのに一口貰ってくれて、笑ってくれて、傍にいてくれて。


「いいなぁ……」 


 何を言ってるのだろう。俺は十分愛されてる。母さんと父さんが頑張ってくれるおかげで、子供の俺は不自由ない暮らしが出来てるんだ。ワガママ言ってどうする。


 先に外に出ていた花咲さんと合流すると、俺の手を握ってきた。その表情は、どこか落ち込んでいるようだった。


「どうしたの?」


「……ごめん」


「え? あぁ、もしかしてさっきの話の事? 別にいいよ。普段の行動と比べれば、全然許せる」


 そう言ったが、花咲さんは落ち込んだままだった。


 じゃあ、何に対しての「ごめん」なのだろうか? 

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