事後
あれから三日後。アオが入院している病室を訪ねた。
「よぉ、アオ。元気か?」
「……元気だったらこんな所にいないよ」
あの後、駆け付けた警察官が救急車を手配してくれて、怪我人全員を連れて行かせた。その中には、二人の両親も含まれている。当然のように俺は疑われ、怒鳴られながら一から説明すると、更に怒号を浴びせられた。俺が語った全ては信憑性の無い話だったようだ。
暴行罪・傷害罪・侵入罪など様々な罪を課せられそうになる中、花咲さんとアオ、父さん母さんが俺を擁護してくれた。驚いたのは、俺の疑いを完全に晴らしたのがアオの両親だった。自分達がやった事、花咲家の異常性、全てを自白したらしい。
「悪かった……」
「なにが?」
「僕がカナタに助けを求めなければ、面倒ごとにならずに済んだ……」
「それじゃあお前らが損ずるだけだったろ。お前と花咲さん。それにお前達の両親にとっても、こうなって良かったんだ」
「クソ親共がまとめて逮捕されて、僕もハルも自由になれた。なのに、なんというか……自由になれた実感が湧かない。僕達は自由になれたんだろうか?」
「難しく考えんなよ。これからお前らは好きなように生きて、好きな人と共にいられるんだ」
「入院してから時々考えてしまうんだ。僕が求めていた自由は、どんなものだったのか。自由になってどうしたいのか」
「お前がまず気にすべきは、腹の傷を塞ぐ事だ。その程度の傷で入院なんて大袈裟だぜ?」
「刺されたんだぞ!? 今も喋ってると、傷口がジンジンするんだ!」
アオはカッターで刺された腹をさすりながら訴えてきたが、ただの腹痛にしか見えない。そもそもアオが俺の身代わりにならなければ、その傷も無かったというのに。
だが、アオは俺を守ろうとした。結果的に余計な傷を負って素直に喜べはしないが、アオにも誰かを守りたい気持ちがあり、行動出来る男だという事が分かって嬉しい。これを機に、自分の出来る範囲で誰かの為に何かをし続けてほしいものだ。
「あ、そうだ。お前に買ってきた物があるんだった。病院食が嫌いそうなお前の為に、味が濃くて軽い物買ってきたんだよ」
買ってきた惣菜パン三つをアオの太ももの上に並べた。ピザパン・カレーパン・焼きそばパン。
「どこが軽い食べ物だ。どれも濃くて重いだろうが」
「おやつみたいなもんだろ」
「僕は病院食で十分だ。むしろ好物と言ってもいい。お前こそ病院食は嫌いじゃないか?」
「知らん。世話になった事が無いからな」
「頭カチ割られても生きてたくらいだからな。同じ人間とは思えないよ」
アオと話している最中、看護師が病室に入ってきた。二十代後半ぐらいだろうか。病院の人間にしては、少し色っぽい。
「あら、アオ君のお友達? 良かったじゃない。アナタの為にお見舞いに来てくれる人がいて」
看護師って入院患者とこんなフランクに接するものなのか。
そう思った矢先、看護師は当然のようにベッドに腰かけ、アオの左足にソッと右手を置いた。アオに目を向けると、バツが悪そうに俺から目を背けた。
「お名前は?」
「カナタです」
「そう。カナタ君か。このパンもカナタ君が持ってきたのかしら? 知らなかったら仕方がないけど、病院には飲食の持ち込みが禁止されてるの」
「え? そうなんですか」
「フフ。まぁ、今回は見逃します。この子のお友達だからね。それにしても、アオ君ったら! 私には「見舞いに来る人間なんていない」とか言っておいて、ちゃんとお友達がいるじゃない。せっかく私が慰めてあげたのに。なんだか騙された気分」
うわぁ。アオの奴、入院先でも女遊びしてる。ナンパに関して天性の才能があり過ぎるだろ。この人もこの人で、なんで俺の前で赤裸々に語るんだよ。
「んん! カナタ、今日はありがとう。退院したら改めて礼を言いに行くよ」
「アオ君、退院しちゃうの? せっかく、仲良く、なれたのに」
「んん!! さぁ、カナタ。帰れ。帰ってくれ」
「分かったよ……これって話題しても―――」
「良い訳ないだろ! 特に学校の女子には言うなよ!?」
「任せろって。俺口は堅いんだ。それじゃあな」
なんとなくこれから何が行われるか想像出来てしまい、アオが言うまでもなく病室から出ようとしていた。
「カナタ!」
病室から出る際、アオが俺を呼び止めた。
「……ありがとう。僕達を救ってくれて」
「気にすんな。じゃあ、またな」
そうして病室から出た。
それにしても、入院先でも女遊びとは。なんかの拍子で口を滑らせてみるか。アオが誰と付き合おうが自由だが、度が過ぎる女遊びをするようなら仕置きが必要だ。
廊下を歩いていると、階段を上ってきた花咲さんと出くわした。
「あ、カナタ君。カナタ君もアオのお見舞いに?」
「ああ。花咲さんも?」
「まぁ、一応幼馴染だしね。顔くらい見せようかなって」
「そっか。ああ、でも今は行かない方がいいかも。アイツ今頃よろしく―――何でもないです」
「……お見舞いに来た人と? それとも病院の人?」
「あ~……ちなみにどっちが嫌だ?」
「どっちも不潔」
「だよね。じゃあ今日のところは帰ろう。仕置きはまた今度。お詫びになるか分かんないけど、コーヒーでも飲みに行こ。そうしよう!」
俺は花咲さんの手を引いて病院から出た。ふとアオがいる病室の窓に目を向けると、そこだけカーテンが閉められていた。
アイツ、十分に自由を謳歌してるじゃないか。




