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嘘はいずれバレる

 現代文の授業で本を読むだけの授業がたまにある。先生曰く本離れを危惧してとの事だが、それは建前で、自分がサボりたいだけだろう。現に先生は教室に来て二分もしない内に教室から出ていった。今日で三度目だが、そろそろ他の先生にバレるんじゃないだろうか。


 しかし皆は先生のサボりを継続してほしいのか、あまり騒がずにいる。声のボリュームを普段より落とし、たまに通りかかった先生が現代文の先生の行方を訊ねた際、その時々で理由をつけて誤魔化す。こういう時に発揮する団結力というのは、良くも悪くも人間らしい。


 授業が終わるまで、あと四十五分。それまで仮眠でもとろうかな。


「ねぇ、カナタ君。ちょっと聞いてもいいかな?」

 

「なに?」


「その、こんな事言える立場じゃないのは分かってる。分かってるけどさ。もう、四日目だよ?」


「四日目……あぁ。花咲さんが居候してもう四日経ったか。早いね」


「うん、そうだね。それで、どうかな?」


「どうかなって?」


「私の、家族についてだよ」


「俺に関係ある?」


「あるよ。私の両親にとって、カナタ君は昔からの両家の約束を阻む悪い人になってるから」

  

「花咲さんが勝手に俺の名前を出した所為でしょ?」


「それは……そうだけど」


 流石に罪悪感があるのか、花咲さんは自分の所為だと認めて俯いた。それでも横目で俺を見てくるのが、彼女の図太さを表している。


 しかし、よく考えてみればおかしな事だ。花咲さんが家出をして四日。あの両親なら血眼になって花咲さんを取り戻すだろう。学校に乗り込んで来てもおかしくない。


 それなのに、今日まで何事も無い。連絡があったのなら、花咲さんは俺に伝えるはず。だが、そんな話も無かった。


「ねぇ、花咲さん。君の両親はもう約束の事は諦めちゃってるんじゃないのかな? その、こんな言い方したら失礼だけど、今日まで平和だったわけだし」


「……確かに」


 花咲さんも気付いていなかったのか、疑問を露わにした。


「……もしかしたら、アオが誤魔化してくれてるのかも」


「アイツが? 他人の為に何かするような奴じゃないだろ」


「でも、アオも結婚の約束については反対だし、その為なら嘘もつくよ。あくまでも私の為じゃなく、自分の為に」


「なるほどね。じゃあ、ずっと誤魔化してればいいじゃん。表面上は交際してるフリをして、裏では各々本当に好きな人と交際する。ずっとそうだったように、これからもそうしていけばいい」


 口では軽く言ってみたものの、それは家族に対して後ろめたさを抱えて生きるという事。例え酷い両親だとしても、親は親。どれだけ嫌いでも、感情では断ち切れない繋がりがある。


「一応、あとでアオに聞いてみるといい。それで今後の付き合い方についてルールを作ってみたらどうだろう。それで万事解決だ」


「肝心な事が解決出来ないよ。私の想いは?」


「とっくに解決済みなんだよ。俺はリンの恋人だから、花咲さんの想いには応えられない。十分な理由だ。それでもやっぱり諦めきれない?」


「うん」


「……花咲さんは、失恋って言葉を知らないのかい?」


「カナタ君こそ。恋は諦めない限り、失恋にはならないんだよ?」


「格言っぽく言わないで。ただ単に諦めが悪いだけだよ」


「フフ。この諦めの悪さで、いつかリンちゃんを諦めさせてあげるから」 


「その時は俺もリンも墓の中だけどね」


 花咲さんの発言に、俺はもっと本気で怒るべきなのだろう。


 だけど不思議かな。あまり怒る気が起きない。花咲さんがどれだけ諦めが悪くても、リンが恋人の座を譲るのは現実味の無い話。現実味の無い話には感情が動かされない。


 先生が教室に戻ってくると、ちょうど授業終了のチャイムが鳴った。


 次の授業の前にトイレへ行こうと廊下に出ると、教頭先生と生活指導の先生二人に現代文の先生が連行されていく姿を目撃した。何故連行されたのかは考えるまでもない。


 やはり、嘘はいずれバレるものか。

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