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早朝のハーレム


『おはようカナタ! 忙しい日々を送る僕が君の為にわざわざ来てやったぞ! 僕は男も女も待たせるのが礼儀と思っていてね。時間通りに来た事なんて一度も無い。だが君は特別だ! この僕がこうして早い時間に来て、君がこの扉を開けるのを待ってやる! 光栄に思え!』


 午前五時。インターフォンの音が鳴ったから何事かと画面を見たが、アオが直々に朝を報せに来てくれたようだ。早朝とは思えない程に元気が良い。


「……おはよう。今何時だと思う?」


『起きたようだね。じゃあこの扉を開けなよ』


「今五時だよ? 本来ならあと二時間は寝れたんだ。昨日眠りについたのが午後十一時。つまり六時間だ。六時間しか眠れなかったぞ。俺の睡眠時間は八時間がベストなんだ」


『何を訳の分からない事をゴチャゴチャと』


「ホントだな。多分まだ目が覚めてないんだ。待たせるのもなんだし、今扉開けるから」


 鍵を開けた瞬間、向こうから扉を開けてきた。ドアノブへ伸ばした手が空を切ったのと、まだ目覚めきっていない事もあり、ちょっとしたバランスの崩れで俺の体は倒れてしまった。


「邪魔するぞ」


 床に倒れた俺を跨いで、アオは家に上がっていった。遠慮が無いのは分かっていたが、倒れている俺を心配する素振りさえ無い。俺を地面に転がってる小石だとでも思っているのだろうか。


 玄関の鍵を閉めてリビングへ向かうと、アオは自分の家のようにくつろいでいた。勝手にコーヒーは淹れてるし、勝手にパンを一枚トーストしてるし、勝手に家のカップを使ってる。子を甘やかして育てればこうなるのか。朝一番から勉強になったよ。


「……それで、なんで来たのさ」


「訪ねたくなった。理由はそれで十分だろ?」 


「あっそ。ついでにトーストとコーヒー、俺の分も用意してくれよ」


「自分の事は自分でやるんだね」


「そのカップ、花咲さんが使ってるやつだぞ?」


 そう指摘すると、アオはカップの中でコーヒーを噴き出し、慌ててシンクにカップを投げ捨てた。噴き出したコーヒーで口の周りが濡れたまま、アオは不機嫌そうに俺を睨んだ。


「……どうして言わなかったんだ?」


「女遊びに慣れてるなら、間接キスくらいどうって事ないと思って」


「君は今でも両親とキス出来るかい? 口と口でだ」


「向こうは出来ても俺は出来ないね」


「そうだろ? つまりそういう事だ」


「悪かったよ。お詫びに新しいの用意してやるから、お前は大人しく椅子に座って待ってろ」


 椅子に座るよう頭を軽く叩くと、アオはブツブツと小言を呟きながら椅子に座りにいった。シンクでまだ流れずにいるコーヒーを水で流し、棚から自分用と来客用のカップを取り出してコーヒーを淹れた。ちょうどトーストが焼き上がり、包丁で切るのも面倒だから、手で千切って二つに分けた。


 頬杖ついて待つアオにコーヒーが入ったカップとトーストを手渡し、俺は向かい側の席に座った。


「……皿は?」


「洗い物が増えて面倒だろ」


「だからって、客人に直で渡すかね」


「客人ならこの家の作法に従ってもらうぞ」


「洗い物が増える事の何が面倒なんだ? この家には家政婦がいるじゃないか」


「役割を与えると、自分を必要としてくれると勘違いさせてしまう。この家には今週の日曜まで。月曜になったら出て行ってもらわなきゃいけないんだ」


「冷たい男だね、君は」


「キッチリしてると言ってほしいね」


 何も塗っていないトーストを齧り、時折コーヒーを飲んでアオと話していく。俺がトーストを三口で完食したのに対し、アオはようやく二割といった所。一口が小さければ、噛んで飲み込むまでも長い。飲食店で一人長居してる人ってこんな感じなんだろうな。


 コーヒーを飲みながらアオの食事風景を眺めていると、リンが起きてきた。


「珍しく早起きで―――え、誰?」


「おはよう、リン。紹介するよ。早朝から他人の家で我が物顔して飯食ってるコイツが花咲さんの彼氏」


「あぁ、この人が。流石はあの人の幼馴染といったところですね」


「君達、ハルの事が嫌いなのかい……?」


「嫌いってわけじゃないよ。なぁ」


「ええ。僕の恋人を奪おうとする所さえ除けば、良い先輩と言えますね」


「なるほど……アイツが言ってた巨大な障害というのは、どうやら君の事らしいね」


「花咲先輩の彼氏さんなら、浮気しないようにちゃんと躾てください。僕とカナタ先輩みたいに」


 自覚は無かったが、俺ってリンに躾けられていたのか。これは将来リンの尻に敷かれるな。生活力があるリンの尻に敷かれるのが自分の為か。 


「リンちゃん今日のカナタ君のお弁当は―――え、なんでアオがいるの?」


「おはよう、花咲さん」 


「おはようございます、花咲先輩。朝食もお弁当も僕が作るので、花咲先輩は彼氏さんの隣に座って待っててください」


「う、うん。分かった」


「なんでカナタ先輩の隣に座ろうとしてるんですか。逆ですよ、逆。いつから花咲先輩の彼氏がカナタ先輩になったんですか」


 花咲さんは渋々とアオの隣の席に座ると、距離が近いのが気になるのか、二人はほぼ同じタイミングで椅子を離した。仲が良いのか悪いのか。二人の親はこの感じでよく二人を結婚させようとしてるな。それとも親の前では我慢してるのだろうか。


「……お似合いのカップルだね」


「「どこが!?」」


 ホント、仲が良いのか悪いのか。

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