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お前の為に

 始めて食べたお子様ランチの味は、予想を大幅に上回る美味しさだった。チキンライスにハンバーグにナポリタン。比較的にハンバーグが一番味が薄いまであるトリオだ。


 だから途中で飽きるかと思ってたが、一つ一つの味が美味しく、ぶつかり合いではなく手を取り合うように協和していた。面白かったのが、最初チキンライスに刺さっていた旗が邪魔だと思ってたのに、いかにして旗を倒さないように食べ進めるかが楽しかった。


「お子様ランチって美味いし楽しいんだな。初めて食ったけど、ちょっと感動しちゃったぞ」 


「……」


「なんだよ。お前が食わないから食ってやったんだぞ? 文句があるなら、次からはすぐ食えよ」


「……お腹空いた」


 ボソリと呟くアオの声は、小さな子供のようだった。


 少し踏み込み過ぎたな。喋ってるうちに自分でも口が止まらなくなって、言わなくてもいい事まで言ってしまった。これじゃイジメだ。


 アオの家はおそらく花咲さんの家の隣だから、まだ別れないだろう。


「少し待ってろ」


 コンビニに寄り、肉まんを三つ買ってアオのもとへ戻った。


「ほら。食えよ」


「……頼んでない」


「腹減ってんだろ? じゃあ食えよ」


「だから―――」


 いつまでも受け取らないアオの口に肉まんを突っ込んだ。アオは飛び跳ねて肉まんの熱さを表した。包み紙越しでも熱かったんだ。唐突に口に放り込まれれば飛び跳ねもするだろう。


「―――馬鹿か君は!? 火傷しちゃったらどうするんだ!」


「さっさと受け取らないのが悪い」


「だからって口に突っ込む事ないだろ!?」


「美味い物食えたんだ。文句言うな」


「ッ!? 君って、話で聞いた真逆の人間だね!」


「話って誰から?」


「色ボケ真っ最中のアイツからだよ! あんなに優しい人間は他にいないって言ってたのに……!」 


「そりゃ過大評価だ。花咲さんは自分にとって都合のいい時に頭の中で花咲かせてんだよ」


「ホントだよ! まったく……!」


 怒りながらも、アオは肉まんの二口目を口にした。ヤケクソ気味だったのか、口にした瞬間、また肉まんの熱さに悶えていた。それで俺が睨まれるのは理不尽だ。 


 袋から肉まんを一つ取り出し、一口食べてみた。アオが悶えた通り、想像以上の熱さだ。皮と餡はもちろんの事、噛んだ瞬間に溢れ出る肉汁が熱さの原因だろう。熱い。熱いけど、美味い。もはやこの熱さにも味があるような気がしてきた。


 俺は食べ終えたが、アオはまだ半分も食べ進められていない。猫舌なのが理由なのかもしれないが、口に含む一口が凄く小さい。


「お前一口が小さいな」


「仕方ないだろ。これ以上口が開かないんだ」


「ハンバーガーとか厚みのある物に苦労してるだろ?」


「そうだよ! あんなの顎を外す為に食ってるようなものさ!」


「不便だな。まぁ、ゆっくり食ってくれよ。急かしてるわけじゃないからさ」


「……ありがとう」


 聞こえないように呟いたつもりだろうが、隣にいるのだから聞こえてしまう。手のかかる子ほど可愛いなんて言葉があるが、まさにアオがそれだろう。この短時間でこうも印象が変わるものか。


 そうしてアオが肉まんを食べ終える頃、分かれ道に辿り着いた。


「じゃあ俺こっちだから」


「そうか……そうだもんな」


「なんだよ。初めは男が隣にいるのが気持ち悪いみたいな事言ってたくせに、今は別れたくないってか?」


「そ、そんなわけないだろ!! 男が男に恋するなんて、気持ち悪い……!」


「そうか。悪かったな。じゃあな」


 アオの肩に軽くタッチした後、左に曲がった。今は午後七時くらいだろうか。晩ご飯までには帰れると思ってたが、まさかここまで時間が掛かるとは。


 歩き続けていくうちに、袋に残った肉まんを渡し忘れていた事に気付いた。元々二つ渡すつもりだったが、あまりにも食うのが遅い所為で忘れていた。


 後ろに振り返ると、アオは分かれ道で立ち止まっていた。俺の方をジッと見て、動こうとしない。ちょうどいい。渡しそびれた肉まんを渡しに戻ろう。


 そうしてアオのもとへ戻ると、アオは一瞬だけ目を輝かせて、すぐに不機嫌な表情を浮かべた。


「な、なんだよ! なんで戻ってきた!」


「いや、これ渡しそびれてた。良い感じに冷めて食べやすくなってると思うから。お前の為に買ったんだぞ?」 


 肉まんが入った袋を差し出した。アオは躊躇いつつも、最終的には受け取った。


「よし。渡す物も渡したし、本当に帰るわ。じゃあな」


 手を上げて別れを告げ、俺はまた帰路についた。


 家に着くと、花咲さんが血相を変えて玄関にやってきた。


「ちょ、ちょっとカナタ君!?」


「え、何? 家に帰る事にしたの?」 


「それはありえません!」


「ありえるよ。それで? 何があったの?」


「さっき、アオから連絡があったんです……! それで、その……」


 声が震えている。本当に緊急事態なのかもしれない。


「落ち着いて。アイツから連絡があってどうしたの?」


「……アオが、言ったんです」


「何を?」


「……好きに、なったみたいです」


「……何が?」


「カナタ君の事が……好きになっちゃったみたいです!」


「……なんで?」

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