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表裏一体

 放課後になり、先日押し付けられた約束の時間になった。リンに今日は一緒に帰れないと言った時、寂しそうにしながらも承諾してくれた。最近リンには色々と悪い思いをさせてるし、今週の土日どっちかデートに連れて行こう。それでお詫びになるかは分からないけど。


 校門前でアオを待っていると、携帯に通話の着信が入った。昨日掛かってきた番号と同じ。


 アオからだ。


「……なぁ、校門前で待ち合わせだったよな? お前今何処にいる?」


『開口一番喧嘩腰だな』


「約束を押し付けられたんだ。邪険にもなるだろ」


『意趣返しのつもりか? 面白い。女じゃないのが惜しいよ』


 イライラしてきた。よく知らない相手を第一印象だけで嫌いになるのは良くないが、彼は例外だ。自己中心的な所はまだしも、女性に固執する癖に、明らかに下に見ている。男尊女卑を形にしたような男だ。


 一度携帯を耳から離し、気持ちを落ち着かせようとして、ふと顔を右に向けた。そうして顔を向けた先、二十メートルくらいの位置にある電柱にアオは背を預けていた。耳に携帯を当てたまま、ジッとこちらを見ている。


「……マジでふざけんな」


 再び携帯を耳に当て、たまらず文句を言い放った。


 返ってきたのは、人を馬鹿にする引き笑いだった。


『僕はさ、男と近くで歩きたくないんだよ。むさ苦しいだけで気色悪い。だからといって、女なら誰でもいいわけじゃない。ブスは最悪。顔が良いだけの女は論外。発育の良い馬鹿な女が最高だ』


「……俺に用事があるんだろ? それともイラつかせたいだけか?」


『許可なく勝手に怒るなよ。そういうのが一番イラつく』 


 その一言を聞き、少しだけアオの評価が変わった。


 しばらく睨み合っていると、アオが歩き出した。俺も携帯を耳に当てたまま、彼についていく事にした。


『それにしても驚いたよ。アイツが親に反発するだけでなく、家まで飛び出すなんてさ。その話を聞いた時、冗談か何かだと思ったよ。それで直接聞いてみれば、意中の相手の家に押し掛けたそうじゃないか。笑いが止まらなかったよ』


「どうして?」


『アイツは好きになった相手、つまり君を親の支配から逃げる為に利用したんだ。初めて好きになったなんて口では言ってるが、恋と逃走のどちらが二の次なのか分かったもんじゃない』


「多分、前者だろうな」


『へぇ……どうしてそう思う?』


「まず前提として、花咲さんの想いを否定するわけじゃない。ただ、彼女の環境は酷いものだ。俺も一度彼女の両親と会った事がある。初対面の俺を相手に高圧的で、父親には二発も殴られた」


『やり返したな?』


「なんでそう思う?」


『君ならやりそうだ。このちょっとした会話から察せる。最初電話に出た時、君は僕の言葉に苛立っていた。なのに今は冷静に話している。普通はそのまま通話を切ってサヨナラだ。なのに君は、わざわざ僕に付き合う―――いや、張り合っている。自分が優位に立たないと気が済まないタイプだ』


 やはりそうだ。彼はただの自己中心的な男じゃない。自分の思い通りにならない事、つまりは予想外の出来事に弱いんだ。自己中心的な発言も、自分の思い通りにさせる為の必死さの表れ。こうして距離を空けているのも、面と向かって話せないのも、相手に本性を見せない為。


 幼いままなんだ。成長したのは体だけで、精神は小学生かそれ以下、もしくは赤ん坊のままかもしれない。


 この推理が的外れなら、俺は喜んで罵倒されよう。むしろそうであってほしい。じゃなければ、あんまりにも彼が惨めじゃないか。 


「……本題に移ろう。俺に用って何だ?」


『その前に答えなよ』


「何を?」


『あのクソジジイを殴ったかどうかだ』


「察したんじゃなかったのか?」


『分かってるさ。ただこればっかりは聞いておきたいんだ』


「……殴ろうと思って殴ったわけじゃない」


『アッハァ! マジか! マジで殴ったんだ! サイコーじゃん!』


「気は済んだか? じゃあ本題に―――」


『なぁ、どんな風に殴ったんだ!? 殴られたジジイの反応は!?』


 凄い食い付きようだ。花咲さんの父親―――というよりかは、自分達を縛る親が痛い目に遭ったのが嬉しいんだろう。声色だけじゃなく、体もピョンピョン跳ねてる。俺の場合で置き換えるなら、両親が揃って家にいる期間が長いみたいなもんか。


 不思議だ。最初は彼の言動に嫌悪感しか覚えなかったが、今は彼のワガママに付き合ってあげたい。複数の女子を取り囲めたのも、こういう気持ちにさせるのが上手いからだろうか。  


「……お前には悪いが、期待には応えられないぞ?」 


『なんでだよ?』


「無意識に殴ったんだ。気付いたら、花咲さんの父親は地面に寝そべってたよ」


『アッハハハハ!! ザマァねぇな! 良い気味だよ! なぁ、もう一発殴らないか? 今からでもさ!』


「暴力は嫌いだ」


『殴った癖によく言うよ!』


 その後もアオは語り続けた。アオの口から出る言葉は親に対する嫌悪ばかり。俺はそれに肯定も否定もせず、アオが望む返事をし続けた。

 

 そうして距離は縮まっていき、やがてアオは俺が隣にいる事を許していた。隣に立って見た彼の表情は、良くも悪くも無邪気そのものだった。  

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