インターフォンが鳴るまでは
放課後になり、一年の教室に向かった。
リンがいるクラスに顔を出すと、俺に気付いた人が他の人に伝達していき、ソワソワと何かを待ち構えていた。リン過激派の彼ら彼女らの事だ。俺とリンがイチャイチャする瞬間を待っているのだろう。待ち焦がれているところ申し訳ないが、他人がいる場でイチャイチャはしない。
「あ、先輩! 今日も迎えに来てくれたんですね!」
「玄関に行くついでにな」
「たまには僕が先輩を迎えに行きましょうか?」
「階段上がって、また下りてくのか? 二度手間だろ」
「彼氏の為に敢えて二度手間する彼女。素敵じゃないですか」
「無駄な苦労をさせない。それが彼氏の役目だ」
「フフ。相変わらず女心に疎いですね、先輩は」
リンは俺の手を取り、俺はその手を握り、互いに指を絡めた。
その瞬間、怒涛の勢いでリンのクラスメイトが倒れていった。みんな苦しそうに手で胸を抑えているが、その表情は幸福に満ちている。他人の幸せを心から喜べる彼ら彼女らは、きっと良い子……なはず。
靴を履き替え、先に待っていたリンと合流した。
「そういえば、花咲先輩はどうしたんですか?」
「なんか用があるから先に帰っていいよだってさ」
「まぁ、行きはともかく、一緒に帰る必要無いですしね。早く帰って、花咲先輩が来るまでイチャイチャしましょうか!」
「そうしたいところだが、開いてる内にスーパーで飯の材料を買いに行かないとな。そういえば、今日の朝食と昼食の材料って何処から出てきたんだ? 昨日冷蔵庫見た時は、もう悲惨なくらい何も無かったんだぞ?」
「二十四時間開いてるスーパーもあるんですよ。でも、余裕がある内に買っておいた方が良いですもんね。今日は何が食べたいですか?」
「言っておいてなんだが、出来合いのでもいいんだぞ? あの商店街のコロッケとかさ」
「そっちの方が楽なのは確かですが、今の内に出来る女アピールしておきたいんで」
「もう十分痛感してるよ」
「エヘッ! エヘヘへ!」
晩御飯のメニューや、学校であった事を話しながらスーパーへと向かい、着いて中に入った後も会話が途切れる事はなかった。やっぱり俺にとって、リンとタケシは他の人とは違う。血の繋がりが無いだけで家族同然だ。わざわざ話題を考えなくても、自然と会話が弾む。
買い物を終え、大量の商品が詰められた袋を片手にスーパーから出た。
「やっぱり袋を二つに分けた方が良かったですよね?」
「この程度の重さなら苦じゃないよ」
「へぇ、男の子ですね」
「当たり前な事を言うなよ」
「じゃあ女の子の僕は、先輩の空いた左手を更に温めてあげましょう!」
そう言うと、リンは俺の左手を両手で繋いだ。リンの両手に包まれた左手が温かい。今はまだ時期尚早な気がするが、これから本格的に寒くなれば重宝したいくらいだ。
「歩き辛くないか?」
「大分歩き辛いですね」
「そりゃそうだ……普通に手を繋いでくれるだけで、俺は嬉しいよ」
「……そうですか」
一度繋いだ手を解き、今度は指を絡めて繋いだ。やっぱりこっちの方がしっくりくる。
「先輩」
「ん?」
「僕、いつまでもこんな風に手を繋いでいたいです」
「俺だって同じだ。春も、夏も、秋も、冬も。リンと手を繋いで過ごしたいよ」
リンの親指が俺の親指を撫でてきた。少しくすぐったい。妙な焦りさえ覚える。
「……先輩。花咲先輩の用事って、時間が掛かる用事なんですか?」
「どうだろう? 用があると言っただけで、どのくらい時間が掛かるかは分かんないな」
「そうですか……」
「ああ……」
多分、今考えてる事は俺もリンも同じだろう。
そうして家に着くと、玄関先に花咲さんはいなかった。まだ帰ってきていないようだ。
家に入り、袋をテーブルの上に置いた。買ってきた物を袋から取り出す直前、リンが後ろから抱きしめてきた。
「……花咲先輩、まだ帰ってきてないですね」
「……そうだな」
「……先輩」
背中に押し付けてくるリンの体。
胸や太ももを摩るリンの手。
やや荒いリンの吐息。
インターフォンの音が鳴るまでは、リンと二人きりだ。




