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因果


『『彼女が出来たぁ!?』』


 うるさ。予想はしてたが、予想の五倍はうるさい。俺はどうして父さんと母さんに報告しようと思ったんだろう。


『どんな子なんだい!? 好きな食べ物は!? 欲しい物とかは!?』


「父さん貢ぐつもりだろ。欲しい物を買ってあげるのは俺の役目なんだから、父さんがその役目奪ってどうすんのさ」   


『ど、どうしましょう! 母さん達、あとどれくらい帰ってこない方が良さそう?』


「いや、ちゃんと紹介したいし、予定通り普通に帰ってきてよ」


『だって、アナタ達は高校生のカップルなのよ? 家に親がいない方が何かと都合が―――』


「待った。それ以上言わないで。親の口からそういうの聞きたくない」


『なぁカナタ―――』

『ねぇカナタ―――』

『母さん! 次は僕の番でしょ!?』

『息子の恋愛事情は母親の役目なの!! 父親のアナタは毎日馬車馬の如く働いて、ドッシリ構えておけばいいの!!』

『僕だって聞きたい聞きたい!! 息子の恋でニヤニヤしたい!!』

『私だって聞きたいの!! どこまで進んでるのか聞きたい!!』


『『―――!!!』』 


 ミュートにしちゃった。話題の主を差し置いて二人だけで盛り上がるなよ。変わらず元気そうなところを知れて安心するけどさ。光っぱなしの二人のアイコンからして、あと数十分はこの調子だろう。待っているのも時間の無駄だし、俺が報告する事も無いので、ひっそり通話を抜けた。


 久しぶりの両親との会話は、通話越しでも喧しかった。中々会えない両親との通話は普通嬉しいものだが、我が家に限っては素直に喜べない。聞いてるだけで晩ご飯分のカロリーが消費された気がする。


 冷蔵庫の中を確認すると、見事なまでに何も入っていない。納豆一パックだけでもいいのに、納豆どころかヨーグルトも無い。リンがいないと冷蔵庫がすっからかんになるな。


「……コンビニ行くか」


 財布をポケットに突っ込み、外に出た。先月までの夏の夜とは違い、九月の夜は少し寒さを感じる。まだ半袖でも大丈夫だが、来月になれば長袖を出さないと夜は寒いだろう。


 少し歩いた先にあるコンビニに着き、今食べる用と貯蓄用のカップ麺をカゴに入れた。コンビニは来る度に新しい物が置いてあるから、ついつい興味をそそられてしまう。結局買うのはオーソドックスな物だけど。


 レジに持っていこうとすると、サンドイッチが並んでるコーナーの前に花咲さんが立っていた。つい後退ってしまったが、花咲さんはサンドイッチを選ぶのに夢中で俺に気付いていない。このまま後ろを素通りしてもバレないだろう。


 レジで会計をしている最中、ずっと背後が気になった。振り向きたい気持ちと振り向くなと警告する本能が同時に押し寄せる。会計を終えた瞬間、すぐに店を出た。


 店を出てからしばらくして、また背後から視線を感じた。後ろから誰かがついてきている。


 すると、携帯に花咲さんからのメッセージが届いた。


【カナタ君】


 たった一言のメッセージ。それだけで俺の背筋を凍らせるには十分だった。


 俺は走った。尚も届くメッセージの着信音に、更に恐怖は増長した。花咲さんは俺を追いかけながらメッセージも送ってきている。下手な妖怪より怖い。


 家に着き、玄関の扉を閉める寸前、扉の隙間に手が差し込んできた。


「うわぁ!?」


 俺が驚いている間に、花咲さんが扉の隙間から覗き込んできた。


「カナタ君。急にごめんね?」


「ほんとだよ……!」


「あの、お願いがあって。全然断ってもいいんだけどね?」


「なら、今も扉を開けようとしてる手を引っ込んでくれないかな……!?」


「しばらく私を泊めてくれない?」


「無理だから! 泊まりたいなら友達の所でもアオの所にでも行けばいいじゃん!」


「カナタ君の家がいいの」


「断ってもよかったんだよね!? 全然押し切ろうとするんじゃん!」


 開ける開けないのやり取りはしばらく続き、結局根負けして花咲さんを家に上げてしまった。


 テーブルの椅子に座り、それぞれ買ってきた物を食べ始めた。


「……それ食べたら帰りなよ?」


「え? 泊めてくれるんじゃないの?」


「泊めるなんて一言も言ってないからね? というか、なんで家に帰りたくないのさ。親と喧嘩でもしたの?」


「うん……ちょっとね」


 ちょっと、ね。全く信用出来ないな。


「泊めるにしても、着替えどうすんのさ? 制服は? まさか学校まで休むつもりじゃないだろうね?」


「……カナタ君のジャージを―――」


「体育の時に俺が困るでしょ。やっぱり無理だね。そういう事だからサンドイッチ食ったら帰って」


 花咲さんが反論しそうだったので、わざと麺を啜る音を大きくして遮った。おかげで口の中を火傷した。猫舌がやる遮り方じゃないな。


 先に食べ終え、花咲さんがサンドイッチを食べ終わるのを待っているが、花咲さんは一向に食べ進めない。食べ終わらなきゃ居座れると思ってるのだろうか。


「……どうしても駄目なの?」


「無理だね」


「……私、両親と喧嘩したの」


「それは聞いたよ。だから帰って謝るんだ。今頃あっちも頭が冷えてるだろ」


「それが、そうはいかなくて……その……アオと、別れたって言っちゃった」


 花咲さんの言葉を聞いて、俺は困惑した。それでどうして両親と喧嘩になるのだろう。


 そうして思い出す。花咲さんの両親がヤバい思考の人間な事を。父親の方に二発も殴られたのに、どうして忘れかけていたのだろう。


「……確かに、あの両親なら冷静じゃなくなるね」


「うん。それで、その……私、余計な事も言っちゃって」


「余計な事?」


「好きな人が出来たって。自分の意志で恋をした人がいるって」


「……え、待って。まさかとは思うけど、俺の名前言ってないよね?」


「……ごめん」


「……ほんとだよ」

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