不滅の愛を誓い合う
一命を取り留めた俺とリンは、疲弊し切った体を引きずってリンの家に一時避難した。俺がソファの手前で倒れていると、リンが背に乗ってきた。なんか素人が作った寿司みたいだ。
「……先輩」
「……どした」
「……お昼、何食べたいですか?」
「……リンが作ってくれるなら、何でも嬉しい」
「……それ、ご法度ですよ」
「じゃあ、美味しいご飯……」
「それ何でもいいと同じですよ……」
俺もリンも動く素振りが無い。疲労が溜まった体でダラダラと過ごす心地良さは快楽的だ。このまま駄目人間と化して、氷のように溶けていきたい。
「……せんぱ~い」
「うぅ、全身で背中を擦らないで……変な気分になる……」
「変な気分にさせてるんですよ……」
「腹上死で心中するつもりか……?」
「それはそれでアリです~……」
疲れた体に鞭打って起き上がった。背中に乗っていたリンは腕と足で俺に引っ付き、離れようとしない。俺を腹上死させたくて堪らないんだろう。
「リン~。降りてくれ~」
「降りませ~ん。このまま先輩と同化しま~す」
「えぇ……せっかくなら、真正面がいいよ。背中だと顔が見れないじゃ~ん」
「もぉ~、仕方がない先輩ですね~。そんなに僕のキューティーフェイスが好きなんですか~?」
口では文句を言いつつも、リンは俺の背から離れた。
そのチャンスを逃さず、俺はリンから距離を取った。慌てて追いかけてきたリンと部屋の中で走り回り、ソファを隔てて睨み合いになった所で停滞した。
「先輩! 僕を騙しましたね!?」
「馬鹿野郎! 騙された奴が悪いだろ!」
「酷いですよ! 僕はただ先輩に引っ付いた拍子にキスをして、辛抱堪らなくなった先輩に襲われて、そのまま夜まで貪りつくし合いたかっただけなのに!!」
「襲わないよ!? お前は俺を飢えた獣だと思ってんのか!?」
「若い男女が二人っきりでいるんですよ!? ドチャネチャしないで何するんですか!?」
「お昼ご飯を食べようよ!?」
「じゃあドチャネチャエッチしましょうよ!!」
「食事と性行為を一緒にすんな! というかドチャネチャってなんだよ!? そんな風には……なるかもしれないけどさ!?」
「じゃあエッチさせろ!!!」
リンはソファを飛び越え、唇を噛み千切る勢いでキスをしてきた。嬉しいには嬉しいが、身の危険を感じる。このままリンの勢いに負けてしまえば、腹上死も冗談じゃなくなってしまう。力で強引に押し退けようとしたが、リンは華奢な体とは思えない力を発揮している。力で勝てないのなら、あれで対抗するしかない。
俺はリンの頭を掴み、キスをされている状態から、キスをしている状態に変えた。力で押し退けた所で、また迫られてしまう。なら、気持ちで押し勝つしかない。全ての戦いにおいて、気持ちの勝負はそれだけで決定打となる。
このまま押し切れるかと思いきや、リンも対抗して俺の頭を掴んで押し返してきた。眼前に見えるリンの瞳には、確かな闘志が燃え滾っていた。
息苦しい。辛うじて鼻で呼吸出来るが、密着状態では満足に酸素を確保出来ない。一旦唇を離して酸素を確保しようものなら、その瞬間に押し切られて、そのまま負けてしまう。
だが、それはリンも同じだ。これは本格的に気持ちの勝負になってきた。この勝負は一時の勝ち負けだけじゃなく、今後の関係に影響する大事な戦いだ。彼氏として、男として、負けるわけにはいかない!
あれから何時間経ったのだろうか。空はすっかり夕焼け空に焦げ、窓から差し込む光が茜色に変わっていた。
「もう夕方か……リン、大丈夫か?」
「……はひ」
床でピクピクと痙攣しているリンは、吐息ともとれる声で返事をした。勝負に勝った喜びより、心配が勝る。そもそもなんでキスで勝負なんてしたんだろう。滅茶苦茶馬鹿じゃん俺ら。
リンの傍に座り、力の無い手を握りながら、窓から見える夕陽を眺めた。
「なぁ、リン。どうしてあんな風に暴走しちゃったんだ?」
「……先輩が、他の子に取られそうだったから」
「いや、取られないから。高校生になるまで恋愛をした事が無い男の拗れっぷりを舐めるな」
「……先輩」
「ん?」
「……ギュッって、してください」
リンを抱き起こし、潰れないように優しく、けれども軽いハグにならないように力を入れて抱きしめた。俺の背中をさするリンの手に力が入っていくと、離れないようにしがみついた。
「ごめん。嫌な気持ちにさせるような事言って」
「……いいんです。僕が望んだ事なんですから」
「こんな事言っても安心出来ないかもしれないけどさ。俺は絶対にリン以外の女性を好きにならない。これから先の大人になっても。俺が愛してるのは、リンだけだ」
「僕も、同じ気持ちです。先輩以外の男性なんか眼中にありません」
しがみついていた手が離れると、リンは俺に微笑んだ。その顔を見て安心したのと同時に、嫌な想像をしてしまった。
もしも逆の立場だったら。リンが俺以外の誰かとキスしたら、俺は耐えられるだろうか。
「……その、こんな事言える立場じゃないけどさ。もしもリンが―――」
不安を言葉に出しかけた所で、リンに口を塞がれた。勝負の時にした力強いキスではなく、心の底から安心出来る優しいキス。
唇が離れると、再びリンは微笑み、俺の頬に手を当てた。
「先輩。僕は先輩の事が大好きです。好きで好きで、きっと自分の子供にさえ嫉妬してしまう程、先輩の事が好きなんです。先輩。好きです。ずっと好きです。生まれ変わっても、必ず先輩を好きになります。例え鳥になっても、海になっても、夜空に浮かぶ星の一つになっても……僕は先輩だけを愛します」
好きな人にいつまでも愛される。これ以上に嬉しい事は無い。
「リン……」
「先輩……」
額をくっつけて互いを感じ合った。
鼻の先をくっつけて微笑んだ。
唇に触れる吐息に心を温めた。
キスをして気持ちを伝え合った。




