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二学期

 夏休みが終わり、今日から二学期が始まる。


 制服に着替えてリビングに向かうと、制服の上にエプロンを着けたリンが朝食の準備をしていた。


「おはようございます。先輩」


「おはよ。今日も朝食作ってくれてありがとう」


「僕、早起きなんで。先輩がどうしてもと言うのなら、明日から一緒に住んであげましょうか?」


「魅力的だが遠慮する。今日から不健全な生活を正していくぞ」


「僕の料理が気に食わないと?」


「昨日まで俺らがしてた事を思い出せ。ポルノ映画でもあそこまでやらないぞ?」


 食卓の席につくと、後ろから朝食が乗った皿とコーヒーが差し出された。半分に切られたトーストと、スクランブルエッグとベーコン二枚。トーストにはそれぞれピーナツバターと餡バターが塗られている。マグカップから湯気が出ているコーヒーは熱々だ。


 先に朝食を食べていると、リンが少量の朝食とオレンジジュースをテーブルに置き、俺の隣に座った。


「幸せな朝食タイムですね~!」


「そうだな。恋人が作ったご飯を食えて幸せだよ」


「なら僕は、僕が作ったご飯を恋人が食べてくれるのが幸せです!」


「……なんか、バカップルみたいだな」


「ね~。幸せですね~」


 フワフワとした朝食タイムが終わり、二人で食器を洗ってから洗面台で歯磨きをしに行った。リンが身嗜みを整えられるように洗面台の鏡に映らない位置に立っていたが、リンに鏡の前に連れられて寝癖を直された。


 準備が終わって外に出て、玄関の鍵を掛けて振り向くと、リンが俺を待っていた。一緒に家から出たのだからリンがいるのは何もおかしくない。ただ俺は、誰かと一緒に家を出る事が無かったので、振り向いた先に自分を待つ誰かがいるのが嬉しくなってしまった。


「先輩どうしました? 凄くニヤニヤしてますけど?」


「……いや、ちょっと嬉しくてな。こうして誰かと一緒に登校出来るのが」


「しかも恋人ですよ?」


「ああ、そうだな。嬉しさ百倍だな」


「僕が一緒に住めば、毎日一緒に登校出来るし、更に同じ家に帰る事が出来ます! まさに一石二鳥ですよ!」


「そうしたらお前が住んでる家が寂しがるだろ? しばらくはあのマンションに居てやれ」


「先輩って花や蝶にさん付けするメルヘンな方なんですか?」


「俺が歌えば小鳥もソプラノで返すよ。朝から何喋ってんだ俺ら……」


 並んで歩いていると、俺の左手にリンが右手を重ねてきた。俺が指を絡めると、リンは強く握り返してきた。リンと恋人関係になる前から、腕に抱き着かれて歩いてたりしたが、今の方がリンを感じられる。不思議なものだ。手と手を繋いでるだけで、胸の奥から熱が湧き上がって、自然と笑顔になる。


 横目でリンを見ると、リンも俺を横目で見ながら笑っていた。


 セミの鳴き声が聞こえない。終わってしまったのは夏休みだけでなく、夏の季節も終わりを迎えたようだ。これから僅かに残る夏の残り火が消えていき、その残り火も消えると、秋の季節になる。色とりどりの葉で彩られた木。落ち葉の脆さに覚える寂しさ。温かさの中に寒さを感じる季節が来る。


「リン。俺はお前との約束を守れたか?」


「フフ。わざわざ聞く事ですか」


「そうか……秋になったら、色とりどりの葉で埋め尽くされた場所へ行こう。退屈させるかもしれないけど、それでも俺は、リンと一緒に行きたいんだ」


「何処でもついていきますよ。先輩と二人っきりなら、何処へでも」


 顔を見ずとも、握る手から伝わってくる。これが恋か。この温かさは、何物にも代えがたい。


 いつまでもこうしていたい。季節が織りなす景色の中、リンと二人だけで歩いていたい。叶う事ならその瞬間を絵画にして、永遠なものにしたい。


 でも、それは妄想の中でしか叶わない。見えてきた学校と、登校してきた生徒達が校門を通っていく姿を見て、現実に引き戻される。 


 校門の左側から来た俺とリン。


 その逆方向から登校してきた花咲さんとアオ。


 手を繋ぐ俺達と、ただ隣に並んで歩く二人。


 花咲さんは唖然として立ち尽くし、隣にいたアオは俺を見て苛立っていた。


 俺は二人に構わず、リンを連れて校門を通った。


「先輩? どうかしましたか?」


「……なんでもないよ」


 セミが死んだ夏の終わり。長い夏休みを経て、一学期の頃から少しの変化を見せて少年少女は校舎へと足を踏み入れる。


 今日から二学期が始まる。 

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