恋は永遠に 愛は一つに
体が動かない。かつてない疲労感だ。シャトルラン一時間やったってこんなに疲れないよ。
「先輩。お風呂沸きましたよ」
「……先、入っていいよ」
「疲れ過ぎでは?」
「逆にお前はどうしてケロッとしてんだ?」
「フフン! 女は男の精気を吸い取れるんです!」
「サキュバスめ……!」
ソファで仰向けになって休んでいると、リンが俺の腹部に腰を下ろしてきた。シャツ一枚の格好のリンだが、本当にシャツ一枚のようだ。腹部から柔らかい感触がする。
「お前それ、俺のシャツじゃん。洗濯に出したんじゃないのかよ」
「洗濯機に入れようとはしましたよ? でも、このシャツに先輩の汗の臭いが染みついてて……僕、先輩の汗の臭い結構好きです」
「変態だ」
「先輩が言います? 僕の体でいいように愉しんだくせに」
「それは……そうだけど……」
「……先輩」
リンは俺の体の上で横になり、胸に顔を埋めた。すぐ目の前にあるリンの頭頂部からは、甘く温かな匂いがする。
「僕、先輩とこうなる日をずっと待ってました。先輩に男の子として認識されてる間も、ずっとこうなる日を待ち望んでいました。先輩モテるから、結構モヤモヤしてたんですよ? でも、今こうして先輩の胸に抱かれて、お互いの初めてを捧げあえて……先輩への好きを諦めなくて、良かった……!」
静かに泣くリンを優しく抱きしめた。結ばれた恋人同士が抱きしめ合う時、嬉しさだけが胸一杯に広がって幸せになると思っていた。リンを抱きしめる俺の胸には確かに嬉しさがあるが、同時に申し訳なさもある。
幸せと罪悪感の両方を抱えた俺は、リンの温もりを感じながら、決心した。
「リン」
「グスッ……なんですか?」
「リンが好きだ」
「……」
「今に始まった事じゃない。俺はずっと、リンが好きだった。でも俺が友人関係にばかり固執して、それ以上にもそれ以下になる事も恐れてた。怖かったんだ。関係が変わった途端、歯車が上手く回らなくなって、簡単に壊れてしまうのを」
「……じゃあ、どうして」
「さっきのお前の吐露に気付かされた。俺がずっと友人関係に固執し続ければ、お前をずっと苦しませる事になる。お前が苦しむのを分かっていて、自分可愛さで一歩踏み出さない程、俺は臆病じゃなくなった。まぁ、要するにだ! 俺はもう、お前から逃げない。想いをちゃんと受け止めて、それ以上の想いを返してやる」
無駄に長いクサい台詞だ。正々堂々、ハッキリ好きと言えば済む話なのに。
でも、俺だけ短く済ませるのはリンに悪い。リンは今までの苦しさを俺に教えてくれたのに、俺だけ今の想いだけを口にするのは不誠実だ。だから吐露した。関係が変わる事が怖くて、一歩踏み出せなかった事。寂しさで友人関係に固執していた事も。
俺はリンを抱く力を少しだけ強めた。こんな華奢な体で、今まで耐えてきたのだ。物理的な痛み以上に蝕む想いの苦しさに。
「リン。好きだ」
リンのつむじに唇を当てた。ほんの少しだけ、罪悪感が薄れた気がした。
「……駄目じゃないですか、先輩……こういう時、相手の目を見つめながら言う事なんですよ?」
「え? そうなのか? 悪い。なにぶん恋愛に疎くてな。じゃあ―――」
「もう遅いです……! 本番一発で決めなきゃ、意味ないんです……!」
リンを抱きしめながら体を起こした。面と向かって想いを伝える為、一旦リンを離そうとしたが、リンは俺から離れようとしない。やろうと思えば強引に離せるが、リンに嫌われたくないので、リンから離れてくれるのを待った。
しばらく待っていると、ようやくリンは俺から離れた。涙は流れていないが、頬には涙が流れた跡があり、目は充血している。かなり泣かせてしまったようだ。
「……鈍感な先輩の為に、もう一度だけチャンスを与えます。百点満点、期待してますから」
そう言って、リンは俺を真っ直ぐ見つめた。また涙を流さないように堪えているのか、少し表情が硬く、歯を噛み締めている。
俺はリンの肩に手を置き、真っ直ぐと見つめてくるリンの瞳を見つめ返した。
「リン」
「はい……」
「好きです。異性として、リンの事が好きになりました」
「はい……!」
「だから、もしリンが良ければ俺と! 色々苦労させるかもしれないけど、嫌な所ばかり見せてしまうかもしれないけど……それでも良ければ、俺と付き合ってください!」
「……」
「……え? 駄目なの? やっぱりさっき一発で決めなかったから―――」
不安になりかけたその時。リンが俺の後頭部を掴み、そのまま俺の顔を引き寄せた。お互いの歯と歯がぶつかって痛いキス……のはずだが、不思議と痛みは無かった。
「……こちらこそ……よろしくお願いします……!!」
長いキスの後、涙を流しながらリンは笑顔で返事をくれた。
その瞬間、俺の胸の中にあった罪悪感が消えた。今は幸せで胸一杯だ。
「エヘヘ……! 先輩と、恋人になれちゃった……!」
「ハハ……まぁ、その~、なんだ。これからもよろしくな。色々とリードしてもらう羽目になるかもしれないけど、俺に出来る範囲で、お前を引っ張ってやるからさ」
「フフ……先輩。その発言はマイナス百点満点です!」
「マ、マイナス百点満点!? やっぱり不甲斐なかったか!?」
「先輩と僕は恋人になったんです。なら……」
リンは俺の手を握ると、指の間に指を絡めた。
「隣で歩いていくんです。同じ歩幅で。こうして手を繋いで。この先もずっと変わらずに」
「……そうだな」
見つめ合う内に、俺達は自然と唇を重ねた。
言葉や行動で、想いを伝え合った。




