表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/71

据え膳食わぬは男の恥

 夏休みも残り一週間。宿題は全て終わり、あとは残された一週間を有意義に過ごすだけ。


 タケシは手付かずの宿題を終わらせようと必死になってるし、リンは同じクラスの女子との付き合いで忙しい。花咲さんは……まぁ、学校以外ではしばらく関わるのはやめておこう。


 考えてみると、俺って学校外でも付き合いがある人が少ないんだな。学校内で仲が良い奴は男女問わずいるが、遊びに誘うほど気を許していない。仮にタケシとリンと疎遠になったら、俺は独り身になるのか。今は同じ学校に通ってるから心配はいらないが、卒業したら離れ離れになる。遊ぶ機会も時間も減っていき、気付けばメッセージの最後のやり取りが一ヵ月前で、そのままなんとなく誘いづらい雰囲気になって、結婚式にも呼ばれず、二人の記憶から俺が消えていく。


「そうなったら、俺は……」


 あぁ、久しぶりに最悪な気分だ。前の時はあの二人に限って疎遠にはならないと自分を励ませたが、今はどうも疑ってしまう。子供の間だけと、大人になった後の違いの所為か。


 花咲さんの身の上話を聞いてから、どうもセンチメンタルになってしまう。卒業後の事を聞かされた所為か、あるいは花咲さんの不自由さを知った所為か。


「……誰かと会いたいな」


 親が不在の家で過ごすのは慣れていたはずなのに、この孤独を埋めたい。雰囲気が明るいだけのクソ映画でも観るか。


 録画一覧から【ハッピー・ハッピー・ハッピー】を探していると、携帯にメッセージが届いた。


【先輩。何か忘れていませんか?】


 リンからだ。何か忘れてるって、一体何を?


 ピピピピピピンポーン。


 インターフォンが連打されている。多分リンだろう。玄関へと行き、未だ鳴り続けているインターフォンの音を耳にしながら扉を開けた。


「……先輩」


「なんで不機嫌なのさ。不機嫌になるのは普通こっちでしょ」 


「夏休み。今週で終わっちゃいますね」


「え? ああ、そうだな」


「……まだなんですけど」


「何が?」


「最高の思い出です! まだ作れていません!」


「えぇ……十分思い出作ったでしょ? 夏祭り行ったし、その、キス、したしさ……」


「足りません!! キスに関しては素晴らしい思い出ですが、こう……あとちょっとなんでよ!!」


「理不尽な審査員みたいに言って……とりあえず、家入れよ。ちょうど映画観る所だったんだよ」


「へぇ~、映画ですか。暇してたって事ですか。僕との約束を―――」


「入るの? 入らないの?」


「お邪魔しますよ!」


 玄関での会話だけで一週間分の会話を堪能した気がする。センチメンタルな気分は払拭出来たけど、やや荒療治だ。


 二人で食べるポップコーンと飲み物を用意し、ソファに座って早速映画を再生した。


「あ、知ってますこの映画。この映画ってあれですよね? 一部の人達から好評のホラー映画」


「ホラー? いや、これコメディだけど?」


「え? でも、出演者全員が引きつった笑顔をしてて、無理に明るくさせようとしてる音楽が不気味だってネットに書かれてましたけど?」


「ホラー映画の観過ぎで疑心暗鬼になってる連中なだけでしょ。このタイトルを見てよ。五歳の子供だってもっとマシな題名つけれるって」


「どうしてハッピーが三つも?」


「ハッピーシリーズ三作目だから」


「僕、一も二も観た事ないんですけど……」


「大丈夫大丈夫。役者が違うだけでそれ以外は全く一緒だから」


「よく三作品も出せましたね……」


「ちなみに今年のクリスマスに四作品目が公開される」


「えぇ……」


 映画が始まり、この作品のピークであるタイトルコールが終わった。あとはハッピーな男女の数日間が映されるだけ。これといった盛り上げ要素も無く、コメディ特有のやり過ぎなジョークも下品さも無い。この中身の無さで二時間もあるんだ。凄い映画だよ。


 隣にいるリンを横目で見ると、幸いにもこの先に何かがある事を期待している表情だった。このままいけば、エンディングで中身が無い映画だったと気付く様を見られる。初見が戸惑う様を見られるのは、数ある娯楽の中でクソ映画だけだろう。


「……あ、この人先輩に似てる」


「タケシに?」


「カナタ先輩ですよ」


「俺? 俺こんなに怖い笑顔してるか?」


「笑顔が似てるっていうか、異性がすぐ傍にいるのに、特に何もせず笑ってるだけ。そういう所が似てますね」


「全然違うでしょ」


「じゃあ、証明してみてください」


 そう言うとリンは、俺の右手の上に自分の左手を重ねてきた。顔は映画の方を向いているが、挑発的な笑みを浮かべている。俺が何かしてくる事を待っているのだろう。


 だけど、どうすれば正解なんだ? 証明って、どうやって?


「……やっぱり。先輩ってヘタレですよね」


 痺れを切らしたリンが、俺の襟を引っ張りながらソファに倒れた。覆い被さるような形になり、リンの顔がすぐ目の前にある。


「ここまでしてあげたんですよ? だから、先輩……」 


 リンは俺の首に両手を回すと、後は俺に委ねた。ここまでされて何も出来ずに引き下がるのは、年上として、そして男としてやってはいけない。


「リン。始める前に言っておくけどさ」


「なんですか?」


「何を言っても、終わるまで止まらないからな」 


「フフ……期待してますよ。 ヘタレな先―――」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ