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君に失恋して、君に好かれた

 昨晩の花咲家のおかげで、忘れられない夏休みの思い出が一つ増えた。意味深な言葉や有無を言わせぬ暴力と、被害者ながら内情が気になる異常さだ。俺はただ単に傷心の花咲さんを家に送っただけだってのに。


 他人の家の事情など忘れた方がいい。首を突っ込んで得になる事なんてあるはずない。タケシとリンを適当に誘って、適当に釣りにでも行って、適当に喋ってれば忘れるだろう。そうすれば楽しい思い出として上書き出来る。


 時刻は午前九時。さすがに二人共起きてるだろう。二人にメッセージを送ろうと携帯を操作した。適当な誘い文句を書き、あとは送信ボタンを押すだけ……なんだが。


「……あ、駄目だ。やっぱ気になるわ」


 昨晩の出来事のインパクトが強すぎた所為で、忘れようとする気が起きない。むしろ花咲家の内情を考察したい気分だ。


 この感じはアレだ。目当ての映画を観にいって、本編が始まる前の予告集でミステリー映画の予告の出来が良過ぎて、目当ての映画そっちのけで気になるアレだ。ミステリー映画は観る前から大体の流れと犯人を予測し、それが見事的中し、自分の推理力に興奮するのがミステリー映画だ。とは言うものの、俺は今まで的中した試しが無い。予告編で出てきてないポッと出の奴が犯人だった事がほとんどだった。そんなの予測出来ないし、客を馬鹿にする行為だ。制作側もムキになってんのかな。


 ピンポーン。


 玄関のインターフォンを耳にして、俺は正気を取り戻した。危なかった。ミステリー映画の闇に身を落としかけてた。


 訪ねてきた人をインターフォンの画面で確認すると、訪ねてきたのは花咲さんだった。噂をすればなんとやらだ。


 玄関の扉を開けると、花咲さんと目が合った。みるみるうちに罪悪感で顔が歪んでいき、やがて隠す事なく涙を流した。


「会って早々泣かないでよ。俺が酷い人間みたいじゃないか」


「だ、だって、昨日……お父さんが……!」


「お父さん……お父さん? え、死んじゃってた?」


「え……?」


「ああ、いや。その反応からして生きてるんだね。安心したよ」


「え? ……え?」


「まぁ、いつまでも玄関でやり取りってわけにもいかないし、中入る? オレンジジュース切らしてるから麦茶しか出せないけど」


 昨晩、俺が帰った後の事を聞く為に花咲さんを家に上げた。


 麦茶を差し出してから五分が経つというのに、花咲さんは麦茶を中々飲まず、ストローで氷を回し続けている。氷は小さくなっていて、音も最初より軽く聞こえるようになった。


「……花咲さんって、宇宙人か何かなの?」


「……はい?」


 痺れを切らして口に出した言葉がこれだ。さっきまで考えていたミステリー映画をまだ引きずってる。 これじゃあ俺が突拍子も無くおかしな事を言う変人みたいだ。いや、そう思われても仕方ない話の切り出し方だったが。


「いや、ほら。花咲さんの両親が言ってたじゃん。家に逃げろだの、我々の邪魔をするなだの。その言葉だけ聞けば、なんだか地球侵略計画を企ててる宇宙人みたいだなって」


「……なんとなくは、合ってる気がします」


「まぁ、そんなわけ―――なんとなくは合ってる気がしますぅ!?」


 なんてこった。こんな身近に宇宙人がいたなんて。そこそこ良いカメラ買って、短編映画でも撮るか。主演はタケシで、花咲家扮する宇宙人の謎を追い続け、最後は捕らえられて全身くまなく改造され、最後は自分も宇宙人の仲間入りにされるバッドエンド。カメラ代くらいは元取れるだろ。


「あ、あの。私達が宇宙人ってわけじゃないですよ?」


「そりゃそうだよね。分かってた分かってた」


「でも、何か良からぬ事を考えてそうな表情してましたよ? 手も、こう……お金マークにして」


「え、してた? ……あ、してるわ」


「……フフ! 今からお金稼ぎの事ばかり考えてちゃ駄目ですよ?」


「何を悠長に。俺らはもう高校二年。早い奴は再来年から社会人だ。自分で金を稼ぐ事を頭の片隅にでも置いておかなくちゃ」


「そうですね……再来年には、私達は就職するか大学に進学するかで分かれる。カナタ君は、どっちで考えてるんですか?」


「俺は就職だな。一秒でも早く独り立ちして、両親に恩返ししないと」


「……私もついていっては、駄目、ですよね?」


「駄目でしょ」


 会話が弾み、花咲さんの様子も徐々に良くなってきたのに、また落ち込んだ様子になってしまった。


「この先の花咲さんの人生は、花咲さんが決めなよ。花咲さん頭が良いから大学に行ってもいいし、すぐ就職だって。あとは付き合ってる恋人と―――あ……ごめん。今は恋人との事を聞かれたくないよね?」


「……違うんです」


「違うって?」


「……アオとは、高校を卒業したら結婚が決まってます。私とアオが産まれた時から、両家の間で結婚を約束されてました」


 許嫁ってやつか。古臭い約束事だと思うが、結婚相手に困らない点では良いのかもしれない。アオが他の女子と現を抜かしていた事実が、足を引っ張ってる気がするけど。


「前に、カナタ君に言いましたよね。私は自分の物を他人に取られるのが嫌だと。だからアオと恋人になったと。でも、それとは関係なく、私とアオは結婚する事を決められてたんです。私とアオには、拒否権がありませんでした。私は別にそれでも良かったんです。アオとは仲が良かったし、この人と結婚しても良いと……でも」


「でも?」


「……アオとは、結婚したくないって、思うようになったんです」


「まぁ、昨日の彼の姿を見たら―――」


「それは関係ありません」


「じゃあ―――」


「カナタ君を好きになってしまったんです」


 他人の家の事情など忘れた方がいい。首を突っ込んで得になる事なんてあるはずない。分かっていた事だ。


 だが、どうやら俺は既に巻き込まれているようだ。


 失恋した彼女に、俺は好かれてしまった。

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