垣間見える闇
みんな夏祭りに行ってる所為か、何処の家も明かりが点いていない。今日は月も雲に隠れ気味で、明かりは街灯しかない。なんだか不思議な光景だ。花咲さんをおんぶしてなきゃ、写真一枚撮っていただろう。
「カナタ君……ありがとうね」
「別にいいよ。それより災難だったね。花咲さんがあんまりにも不義理をするから罰が当たったんだよ」
「傷心中の人に、意地悪言うんだ……」
「あいにく、慰めの言葉は不得意でね」
「……本当に、ありがとう。カナタ君がいなかったら、私はどうしてた事か」
本当に、俺はどうして花咲さんにここまでしてるのだろう。花咲さんが俺の妹か姉だったら、心配で放っておけないと理由がつくが、花咲さんはただの友達だ。タケシやリンのような長い付き合いではなく、付き合いの浅い友達。そんな彼女にお節介を焼くなんて。
リンの時もそうだった。俺はリンや花咲さんとの関係をハッキリと出来ないでいる。文学に秀でていれば、すぐにピッタリな言葉が見つかるはずなのに。
そんな事を考え込んでいる内に、花咲さんの家に着いた。
「着いたよ。ほら、約束通り下りて」
「……ちょっと名残惜しいかも」
「なんでそうなるのさ。ほら、振り落とされたくなければ早く下りて!」
少しの間があった後、花咲さんは俺の背から下りた。
「その……今日は本当にありがとう」
「さっきも聞いたよ」
「ううん。言い足りないくらいだよ。カナタ君がいてくれるおかげで、私は……自分の人生を生きられている気がするんだ」
「言い過ぎだよ。花咲さんにとって、俺はそんなに重要人物ではないでしょ」
「そんな事ない! カナタ君は―――」
その時、花咲さんの家の扉が開いた。中から出てきたのは、何度か目にしている母親と、初めて目にした父親。
「やっぱり……! お父さん、あの子よ!!」
「お前か!!!」
花咲さんの両親は俺を見るや否や、親の仇のように睨んできた。
父親の方が俺に迫ってくると、何の迷いも無く俺を殴った。パーではなく、グーで。幸いにも喧嘩し慣れていないパンチのおかげで痛くはなかった。
「お父さん!? 何やってんの!!」
「ハル。早く家に逃げなさい」
「さぁ、ハル! 早くこっちに!」
「ちょっとお母さん! 引っ張らないで! やめて!」
抵抗虚しく、花咲さんは母親に無理矢理家の中へと連れていかれた。俺の前には依然として父親が立ち塞がっていて、その表情は鬼のようだ。
「これ以上、我々の邪魔をしないでくれ。また殴られたくないだろう?」
温厚そうな見た目からは想像出来ない暴力っぷりだ。花咲さんの親でなければ、口から血反吐を出すまで殴ってやりたい。
ここは怒りをグッと抑え、軽く謝ってから立ち去ろう。
「あの―――」
俺が謝ろうとした矢先、また頬を殴ってきた。
人間とは不思議なもので、突拍子もなく殴られると、一発目は困惑で思考が停止する。しかし二発目は違い、喰らった痛みと同等か、それ以上の痛みを反射的に返してしまう。
自分でも知らぬ間に、俺は花咲さんの父親を殴り飛ばしていた。どれだけの力で殴ったかは、固く握りしめられた俺の拳が物語っていた。
「……あ、ヤバ。あの、大丈夫ですか?」
返事が無い。流石にパンチ一発で死ぬとは思えないので、気絶しているのだろう。家に運んでやってもいいが、二発殴られた所為で実行する気が起きない。このまま放っておくのも、それはそれで罪悪感が湧く。
苦肉の策で、俺は家のインターフォンを鳴らし、その場から立ち去った。
自分の家に帰る途中、改めてさっきの出来事について考えた。花咲さんの両親の様子は明らかに異常だ。いきなり殴るし、娘の花咲さんに対してもマトモに取り合わなかった。妙に気になる事も言ってたな。「我々」とか「家に逃げろ」とか。
まさか、花咲家は宇宙人―――な訳ないよな。
それでも、異常な事に変わりない。何か理由があるのだろうか。
「はぁ……俺って、変人としか縁がないのかな」




