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父性

 二人とはぐれてしまった。時間を確かめようと携帯をチラ見して、視線を戻した頃には二人の姿は何処にも無かった。こう混雑していると、少し足を止めただけでこうなるのか。後で場所を決めて集合すればいいし、少し一人で楽しんでみよう。


 始めと比べて何処の屋台も空いていて、デカい肉の串焼きや、螺旋状のフライドポテトを食べた。美味しいけど、一人で食べると値段にケチをつけてしまう。リンが言った思い出込みの料金も、一人で食べれば割高なだけ。


 射的で取った全体的に四角いロボットをポケットに入れ、次で一旦終わろうと屋台を見て回っていた。


 すると、金魚すくいの傍で花咲さんが立っているのを目にした。花咲さんはオシャレをしているものの、着物は着ていない。やっぱり着物を着てくるのは珍しいのか。


 それにしても、どうして一人でいるんだろう。恋人と来ると言っていたが、アオの姿は無い。はぐれたのだろうか。


「花咲さん」


「ッ!? あぁ、カナタ君! 来てたんだね!」


「まぁね。それで、一人でどうしたのさ? 恋人と来てるんでしょ?」


「アハハ……はぐれちゃって……」


「そっか。連絡はした?」


「うん。でも、人が多過ぎて、一人じゃ行けそうにないんだ。カナタ君さえ良かったら、私を連れて行ってくれない?」


「別にいいけど。俺がいたら、変な誤解されるんじゃない?」


「変な誤解って?」


 花咲さんは俺の左胸に手を当ててきた。表情では疑問を浮かべているが、俺を見る目には期待が込められている。この前で最後にすると言っておきながら、またこういう事をするのか。いや、単純に花咲さんにとって、この程度は不義理の範疇ではないだけか。


「……早く行こう」


 左胸に触れている花咲さんの手首を掴み、俺達は人混みの中へ混ざった。離れないように結構強めで手首を掴んでいるが、花咲さんは大丈夫だろうか。


「……カナタ君は、いつも私を見つけてくれるよね」


 俺の背にピッタリとくっついた花咲さんが囁いてきた。この感じからして、掴む力を緩めなくてよさそうだ。


「集合場所こっちで合ってるの?」


「うん。このまま真っ直ぐ行くと、ベンチが沢山ある場所に出るから。その何処かだよ」


「何処かって……あそこのベンチ、やたら多いよ? 何を想定して設置したか分からないくらいに」


「この公園って、お祭り以外にも色々なイベントを開催するの。そうなると、人が一杯来るでしょ? だから、一息つく場所は沢山必要なの」


「なるほどね」


 人混みで仕方ないとはいえ、ずっと耳元で囁かれるとくすぐったい。花咲さんの声だけじゃなく、吐息まで聞こえるもんだから、変に意識してしまう。


 耳のくすぐったさを我慢して進んでいくと、待ち合わせに指定していた場所へ出た。今日はベンチだけじゃなく、プラスチックのテーブルも大量に設置されている。座る場所の多さにも驚くが、一番はこの公園の広さだろう。マイナーな遊園地なんかより広い気がする。


 ここまで来ると、みんなベンチかテーブル席に座っている為、はぐれる事は無い。掴んでいた花咲さんの手首を離すと、花咲さんの手首には俺が握った痕が出来ていた。


「あ、ごめん! やっぱり強く握り過ぎてたみたいだ」


「いいよ。これは、カナタ君が私を守ってくれた証だもん」


「……まさか、恋人に理由を聞かれた時もそう言うつもり?」


「どうかな~?」


 俺の質問をはぐらかしながら、花咲さんは俺の隣を通り過ぎていった。流石に言わないと思うが、絶対に言わないとは信じきれない。念の為に、別な理由で誤魔化すよう花咲さんに言っておこう。


 花咲さんの後を追いかけていくと、前を歩いていた花咲さんの足が突然止まった。


 声を掛けようと花咲さんの傍まで来ると、信じられない光景を花咲さん越しに見た。


 花咲さんの恋人であるアオが、同年代と思われる女子達と仲良さげにしていた。一目で分かる。あれは互いに下心があって接していると。


 小声で何か呟くと、花咲さんは人混みの中へ駆け込んでいった。恋人の浮気現場を見てショックだったんだろう。


 花咲さんを追いかけようとした寸前、アオと目が合った。アオは俺を見てフッと笑みをこぼすと、何事も無かったかのように女子達と戯れた。可愛い系の見た目とは裏腹に軟派な奴だ。


 人混みの中、花咲さんを捜し回った。しかし何処にも見当たらず、遂には公園の入り口へ戻ってきてしまった。もう一度公園に戻って捜そうと振り向くと、公園の塀に背を預けて座る花咲さんを見つけた。


「花咲さん」


 花咲さんに近付き、一瞬肩に手を置こうか悩んだが、結局は肩に手を置いた。揺さぶってみたが、花咲さんは顔を上げない。


 参ったな。こんな状態の彼女を置いて、二人と合流出来そうにない。携帯で二人に【体調が悪くなったから先に帰る】とメッセージを送った。嘘はつきたくなかったが、本当の事を言えば、二人も花咲さんを心配してここへ来てしまう。あの二人はそういう人間だ。花咲さんは今の自分の姿を誰かに見られたくないだろうし。  


「花咲さん。家まで送るから、今日はもう帰ろう」


 優し過ぎると逆効果になりそうで、出来るだけ普段通りの声色で花咲さんに語り掛けた。


 すると、花咲さんは無言で俺の背中に回り、そのまま抱き着いてきた。おんぶしていけという意味だろうか。まぁ、今だけは花咲さんのワガママを叶えてあげよう。


「……家の前までだからね?」  


 後ろから聞こえる大勢の楽し気な声を耳にしながら、俺は花咲さんをおんぶして街灯照らす夜の道を歩いていった。

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