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夏祭り

 集合時間は祭りが始まる三十分前の午後四時三十分。今の時刻は午後四時三十分だ。


「……俺以外遅刻かよ」


 リンはともかく、あれだけ意気込んでいたタケシまで遅刻するなんて。なんだか真面目に集合時間内に来た俺が馬鹿みたいだ。


 通り過ぎていく人達は、この先の夏祭り会場の公園に向かっているのだろうか。意外と浴衣を着ている人を見ない。男はともかく、若い女性や彼氏連れの女性も少しオシャレした程度の普段着だ。別に必ず着なきゃ駄目ってわけではないが、なんだか夏祭りらしさが無いな。もっと大きな会場とかだったら、浴衣を着る人もいたのだろうか。


 午後五時。夏祭りが始まった。通り過ぎていく人の姿は見なくなり、この先の会場からは賑やかな声や音が聞こえてくる。リンとタケシはどうしているのだろう。一度連絡を入れた方が良いかもしれない。


「せんぱーい!」


 リンの声がした。振り返った先で見たリンの姿に、俺は思わず目を丸めた。


 薄暗い夜道でもハッキリと見える黄色い浴衣。柄の花はヒマワリだろうか。ヒマワリ柄の黄色い浴衣でちょっと子供っぽく思えるが、黒い帯があるおかげで大人と子供の中間の印象がある。


「ごめんなさい先輩! 着るのに時間が掛かっちゃって!」


「い、いや、いいんだ」


「本当にごめんなさ―――ん? フフ……せんぱ~い!」


 リンは悪戯な笑みを浮かべると、上目遣いで迫ってきた。普段よりも大人っぽい所為か、上目遣いに魔性の女性らしさがある。


「今日の僕、どうですか?」


「……エロいな」


「え? あ、え、ソデスカ……」


 これは明らかに失言だ。エロいのは本当だが、ここは可愛いか綺麗の二択だったな。友人には常に嘘偽りなくいたいが、時には嘘をつく事も大事なのかもしれない。


「ごめん、冗談。綺麗だよ、リン」


「ッ!? エ、エッヘヘへ! そんなに真っ直ぐと言われると、照れますね! 僕が先輩を照れさせようとしたのに……やっぱり、僕も女の子ですから」


 リンは着物をキュッと掴みながら、頬を紅潮とさせて微笑んだ。最近はずっと積極的だったが、こういう恥ずかしがってる姿を見せられると、改めてリンは女の子なんだと認識させられてしまう。無茶苦茶に抱きしめてやりたい。


「さ、さぁ先輩! 会場に行きましょうか! 僕、最初は苺飴が食べたいです!」  


「いや、まだタケシが来てないぞ?」


「おーい!!!」


「おっ、噂をすれば―――」


 振り返って見た先から駆け寄ってくるタケシの姿に、俺もリンも絶句した。


 やかましい柄のアロハシャツ。迷彩柄の短パンにシンプルな下駄。髪はオールバックでゴツいサングラスを着けている。


「よし、リン。二人で行くか」 


「そうですね」


「ちょちょちょーい!! 俺を見て見ぬ振りしないでよ~! 古いギャグじゃないんだからさ!」


「……俺、嫌だ」


「僕も嫌です。こんな輩と一緒に歩きたくありません」


「会って早々酷くない? 俺めっちゃ夏祭り意識してコーディネートしてきたんだけど?」


「「えぇ……」」


 オシャレについて俺はとやかく言えないが、それでもタケシの服装は壊滅的だ。


 なんだろう。海に行くと言って、ダイビングスーツ姿で銛を持ってきたかのような的外れ方だ。


 多数決を取った結果、二対一で離れて歩く事に決めた。タケシが前を歩き、その五歩後ろを俺とリンがついていく形。会場に着くまでの間、タケシは何度もこちらに振り返り、ウルウルとした目で訴えかけてきたが、俺とリンは冷めた目で見返してあげた。


 夏祭りの会場に着くと、広い公園に無数の人が行き交い、両端にいくつもの屋台が並んでいた。会場に入ってすぐの場所にある綿菓子屋にも列が出来ている。


「俺達のとこの祭りって、こんなに賑わってたのか」


「毎年こんな感じですよ。まぁ僕達は中学の頃、こういう行事には来てませんでしたからね」


「おぉ!! カナタ! リン! 焼きそば食おうぜ!!」


「「振り返るな!!」」


「うぅ……! 一人で買ってきます……!」


 タケシが焼きそばの列に並ぶと、そこから列は続かなかった。並ぼうとした人はいたが、タケシの姿を見るや否や、慌てて引き返していく。子供連れの母親からは「近付いちゃ駄目よ」と言われる始末。焼きそば買って戻ってきたら、隣を歩かせてやるか。


「リンは苺飴食いたいんだよな?」


「そうですけど、何処も行列で……時間を置いてから、また買いに行きます」


「金魚すくいまで行列だもんな。みんな娯楽に飢えてんのかな?」


「というより、夏祭りに浮かれてるんですよ。タケシ先輩が買いに行った焼きそばだって、一個五百円もしますけど、家で作れば百円か二百円で済みます」


「ボッタクリじゃん……」 


「それでも買うのは、お祭りだからです。多少割高でも気になりません。それにこういった屋台の値段には、そのものの値段に加えて思い出も加味されています。あの日食べた焼きそばだとか、あの日取った金魚。本来はあまり印象に残らない物でも、それがお祭りだと印象深くなるものです」


「思い出か……それでも、百円が五百円ってのは高過ぎないか?」


「フフ! お小遣いが少ない人は大変かもしれませんね!」


「おーい二人共! 箸三つ貰ったから、後でこの焼きそば分けて食おうぜ!」


 タケシが満面の笑みで持ってきた焼きそばは、青のりが多めに掛けられているだけで、具の少ない焼きそばだった。これが五百円もするのは、やっぱり高過ぎる。


 でも、高い安いを気にするだけ無意味か。今日は夏祭り。いつか三人で集まって、今日食べた焼きそばとかを「やっぱり高かったよな」と笑い話にしよう。


「よーし! 次は何を買う? 比較的に空いてる所を狙って散財しまくるぞ!」


「「おー!」」


 その後、空いてる屋台を探し回ったが、何処も行列が出来ていて、結局タケシが買った焼きそばだけで一周してしまった。とりあえず焼きそばを食べる事になるも、麺料理を平等に三等分出来るはずもなく、タケシの歯に青のりが大量についた。

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