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メンヘラな陽キャ

 昨日は出来なかった宿題に取り掛かろうとした矢先、メッセージの通知音が二重で鳴った。せっかくやる気になったというのに。やりたくもない事にやる気を出すのは、導火線に点けた火が火薬に点火するような、そんなすぐに出せるものじゃないんだぞ?


 すっかりやる気を無くした俺はペンを置き、届いた携帯のメッセージを確認した。


【先輩! 遊びに行きましょ!】


【カナタ! 合宿から帰ってきたぞ!】  


 一つはリンからで、もう一つはタケシからだ。やる気も無くして暇になったし、リンと遊ぶか。


「行くか、っと」


 リンに返信すると、その直後に玄関のインターフォンが鳴った。十中八九リンだろう。玄関へ行き、確認する必要も無いのでインターフォンの画面をスルーし、鍵を開けて扉を開いた。  


「カナタ!!!」

  

 扉を開けた瞬間、耳がキンッとした。玄関先にいたのはリン。それから、何故か泣きじゃくってるタケシ。


「……なんで泣いてんだ?」


「だ、だって……! ヒグッ……!」


「賭けをしたんですよ。どっちのメッセージにカナタ先輩が先に返信を送るか。勝った方は賞品としてカナタ先輩と夏祭りに行けます! そして予想通り、僕が勝者となりました!」


「勝手に俺を賞品にすんなよ」


「ガナダッ!! オデトオバエバジンユウジャナガッダノ!?」


「なんて? 何言ってるか全然分かんねぇ」

       

「ほぉら! 敗者に用は無いとカナタ先輩もおっしゃってますよ! タケシ先輩は一人で一生玉蹴りやってればいいんですよ!」


「玉蹴りじゃなくてサッカーだよー!!」


 さてはタケシの奴、合宿終わりに真っ直ぐ俺の家に来たな? いくら馬鹿で気色悪い最悪な友達だとしても、ここまで幼児退行はしていなかった。見苦しい事この上ない。


「リン! 三回勝負! 三回勝負にしよ! ね!?」


「見苦しいですよ? 素直に負けを認められない男なんて、カナタ先輩に嫌われて当然です!」


「ヤダヤダヤダヤダヤーダ!! 俺もカナタと遊びたい! 合宿辛かったの! だからカナタで癒されたいの!!」


「……先輩。本当にこの人と今後も友達でいるつもりなんですか?」


「いや~、それは……まぁ」


「まぁってなんだよ!? そこはズッ友って言ってよ! カナタがいなきゃ寂しくて死んじゃう! もうサッカーしか出来ない血の通っていないサイボーグになっちゃうー!!」


「よーし無二の親友よ! せっかく来たんだし家に上がんなさいよ。このままだと近所迷惑で俺が迷惑するんだよ分かれよアホ」


 地面に転がって駄々をこねているタケシを蹴飛ばしながら家に上げた。運動部の合宿って大変なんだな。


 リビングに招いた二人に麦茶を渡し、俺は自分用のアイスコーヒーを飲んで一息ついた。


「麦茶ってさ、暑い時は無限に飲めるよな?」


「お前本当にどっか頭おかしいんじゃないか? さっきまであんな醜態晒したのに、よく持ち直したな」


「いやぁ~……サッカー部の合宿ってさ、地獄の刑罰なんだよ……」


「え、怖。帰宅部相手に部活動の闇を見せないでくださいよ」


「でも、もう終わったもんね! これからの二週間! 全力で夏休みを謳歌すんぞ! 準備はいいかお前らー!!」


 …………。


「イエーイ!!」


「いやいや、ついていけませんって。タケシ先輩って僕らの事パリピか何かだと思ってるんですか?」


「……ごめん」


「うわ、急にテンション下がった」


 どうしよう。せっかく中学の頃みたいに三人で集まれたのに、よりによって賑やかし担当が精神不安定だ。明るさが第一印象のタケシをここまでにさせるサッカー部の合宿内容が気になるが、聞けばもっと面倒な事になりそうだ。 


 俺達の間に上下関係はそんなに無いが、タケシが使い物にならない以上、俺が賑やかし担当にならないと。


「夏祭り、明日だったか。せっかくタケシも空いてるんだし、三人で行くか」 


「カナタ先輩!? それだと賭けをした意味が―――」


「リン。お前はもう高校生だ。妥協を覚えろ」


「……はぁ。仕方ありませんね。カナタ先輩に言われちゃったし。三人で行きましょうか、夏祭り!」


「おう。タケシもそれでいいか? ……タケシ?」


 タケシは俯きながら小言で何やら呟いている。何を言っているのかを聞こうと近寄った瞬間、タケシは顔を上げるのと同時にコップを頭上で傾け、氷入りの麦茶を浴びた。


「おまっ、何やってんだ馬鹿!!」


「だ、だっで!! 泣き顔見られたくないし!!」


「漫画みたいな誤魔化し方すんなよ! お前ソファびしょ濡れじゃねぇか!?」


「ガナダー!!!」


 何の予備動作も無く、タケシは俺にタックルを仕掛けてきた。避ける間もなく直撃した俺は床に押し倒されると、タケシはびしょ濡れの顔で俺のシャツに頬を擦りつけてきた。


 そこからどれだけ時間が流れただろうか。俺の体にしがみつくタケシを引き剥がそうと、俺とリンの二人掛かりでやっても、まるでカブトムシの足のようにタケシは俺の体から離れようとしない。果てにはリンが何処かから持ってきたバットでタケシの背を殴るも、タケシは「エヘッエヘッ!」と笑うだけでビクともしない。


 ようやくタケシが俺の体から離れた頃には、もうすっかり陽が暮れ始めていた。


「そんじゃな二人共! 明日、寝坊すんなよ? アディオス、アミーゴ!!」  


 疲れ果てた俺とリンとは裏腹に、タケシは嫌になるほど明るく去っていった。


「……先輩。本気であの人と今後も友達でいるつもりですか?」


「まぁ、なんだ……一考の余地とだけ言っておくよ」

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