良いも悪いも総じて好きになる
午後五時。リンを家に送るついでに、ファミレスで晩ご飯を食べる事にした。
注文を済ませ、先に届いたドリンクバー用のコップに飲み物を入れて席に戻ると、リンは携帯をニヤニヤと眺めていた。
「何見てニヤついてんだ?」
メロンソーダが入ったコップをリンに渡しながら聞いてみると、リンは携帯の画面を俺に見せた。画面に映っていたのは、俺の部屋でリンとキスをしている写真だった。
「お、お前! いつ撮ってたんだ!?」
「ふふん! 先輩は僕の唇に夢中で気付けなかったようですね」
「お前が悪用するとは思わないが、それ消せよ? 自分のそういう所を写真で残されてるのは、恥ずかしいよ……!」
「嫌です! これは僕のお気に入りフォルダに永久保存ですよ!」
「お気に入りフォルダ?」
「ええ。見ますか?」
アイスコーヒーをストローで飲んでる時に、リンは俺に【お気に入りフォルダ】なる物を見せてきた。
「ブフッ!」
それを見て、思わず飲んでいたアイスコーヒーを逆流させてしまった。
お気に入りフォルダとある写真アルバムは、俺の写真で埋め尽くされていた。タケシを消した俺とリンだけの写真や、盗撮疑惑のある写真。どれだけ下へスクロールしても、俺以外の写真が一つも無い。一番下までさかのぼると、中学二年の俺の写真まであった。
「お前、パパラッチかよ……」
「先輩専属のカメラマンです。これから先もずっと」
「うわぁ、懐かしい姿ばっかある……あ、これ! お前これは撮るなよ!? これ以外は許せるが、これだけは駄目だ!」
「え? この写真が駄目なんですか? 絵を描いてる先輩を撮っただけですけど……」
「風景を完璧に描けると自惚れてた黒歴史だよ……その絵の出来が原因で、美術部辞めたんだ」
「でも、この時描いた先輩の絵は素晴らしかったですよ? 夕焼け空と夕陽が見事に描かれていて、海は輝きを放っていました」
「それじゃ駄目なんだよ……良い所ばかり描いて、悪い所を描けていない。幻想的過ぎたんだよ」
「だから、完成した絵を壊したんですか。先輩がキャンパスを叩き壊した時、先生も含めた全員がビックリしてましたよ。ちなみにその瞬間は動画で保存してあります!」
「なんで撮れてるんだよ動画で! ……どんな感じだったか確かめたいな」
リンに頼んで当時の動画を観た。憶えていなかったが、あの時は俺が描いた絵が部内で評価が高く、今度のコンテストで応募されるはずだったようだ。全員が温かい拍手で俺の絵を賛美する中、俺は教壇からジッと自分の絵を見て静かに怒っていた。
そして悲劇が起きた。パニック映画並みに悲鳴が響き渡り、先生に羽交い締めされながらも絵を壊し続ける自分の姿。その表情に怒りや悲しみはなく、無であった。
動画を観終わって真っ先に思ったのは、この姿を見て尚も俺を慕っていたリンについて。
「お前、なんでこんな奴を好きになったんだ?」
「まぁ、これも先輩の一面ですし。良い所しかない人間なんてこの世に一人としていません。先輩には失礼に聞こえるかもしれませんが、僕は嬉しかったんです。先輩にもヤバい一面があるんだなって。良い所も悪い所も知って、先輩の事がちゃんと好きになれたんです」
「良い所も悪い所も知って、か……でも、それでいけば俺はお前の良い所しか知らないのに好きだぞ?」
「……今、また先輩の悪い所を知れました」
「え? 何が?」
「期待させるだけさせておいてお預けする所です!」
リンがそう言い放ったタイミングで、頼んでいた料理が運ばれてきた。偶然にもリンの言葉を聞いてしまった女性の店員は、客であるはずの俺を汚い物として睨んだ。去り際に舌打ちまでされた。タイミングがタイミングの為、軽蔑されて仕方ない所はあるが、客の目の前で本心を露わにするのはどうかと思う。
気を取り直して料理を食べようとした時、リンが料理を運んできた店員の後ろ姿を睨んでいる所を目にしてしまった。
「アイツ、先輩を睨んだ挙句、舌打ちまでしやがりましたよ……!! アイツの生き血で描いた絵を親御さんに送ってやりましょうかね……!?」
「……とりあえず、お前の悪い所一つ目だな」




