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デジャヴ

 トウカさんが二日酔いになった。立ち上がるのも困難で、車を運転出来る状態じゃない。雇い主であるトウカさんが来れない以上、俺らは勝手に営業出来ない。


 二日酔いのトウカさんを宿に置き、俺と花咲さんは歩いて海に向かった。海の家ではそれぞれ準備作業をしており、昨日客が多かった所は既に準備万端だった。真面目で熱心に働いてる姿を見て、ますますトウカさんの不真面目さが際立った。


「あの、すみません。端の方にある海の家を任されたトウカさんのバイトなんですけど」 


 俺に気付いた女性がリーダーと思われる男性に伝えると、俺の方へ駆け寄ってきた。


「やあ、おはよう。トウカの所でバイトしてるそうだね」


「ええ、まぁ、そうだったんですけど……その、トウカさんの体調が悪くて、とても営業出来そうにないんです。それを伝えに来ました」


 本当は二日酔いなのだが、それを伝えてしまうとトウカさんの交友関係が破壊されかねないので、体調が悪いと言葉を濁した。


「そうか。まぁ、あそこは客が立ち寄らないし、営業しなくても別に困らないからいいけど。でも、バイトの君達は大変だよね? もし良かったら、僕達の所を手伝ってくれないかい? ちゃんとバイト代は出すからさ」


 その言葉を聞き、俺は後ろで待っている花咲さんに振り向いた。花咲さんが彼の提案に頷いたので、俺も合わせて受ける事に決めた。


 それから一時間後。午前十時になると、昨日に引き続き多くの人が海を訪れた。まだ昼前だというのに飲み物などを買う客が来て、昼時になると本格的に忙しくなった。俺は配膳を任されたが、どのテーブルの客が先に注文したかあやふやで、先輩達がフォローしてくれるおかげで客から文句を言われる事はなかった。裏で調理担当を任された花咲さんは俺以上に忙しくしていた。


 昼時を過ぎると徐々に客は減っていき、子供連れの親子の注文が済むと営業時間外になった。


 当たり前だが、昨日とは大違いな忙しさだった。でも不思議と忙しい方が時間の流れが早く感じ、確かにやり遂げた達成感を感じる。アクシデントとはいえ、トウカさんが二日酔いになってくれたおかげで正しい労働を知れた。感謝はしないけど。


「お疲れさま二人共! 片付けはこっちでやっておくから、二人はもう帰っていいよ。バイト代は後日トウカ伝手に渡すから」


「「お疲れさまでした!!」」


 帰り際、頑張ったご褒美にかき氷を貰えた。なんだか子供扱いされてるみたいで恥ずかしかったが、大学生からしたら高校生は子供なのだろう。 


 俺達は貰ったかき氷を食べながら、二日酔いで苦しんでいるであろうトウカさんを迎えに宿へ戻った。


「バイトって大変だね。でも、結構楽しかったよね!」


「そうだね。それにみんな優しかったし。帰りにこうしてかき氷まで貰っちゃったし」


「カナタ君は何味? 私はブルーハワイだよ」


「コーラだよ」


「へぇ、そっか。一口交換する?」


「かき氷って色が違うだけで味は一緒なんだよ」


「そうだけど、それでも交換したいの!」


「……はぁ。一口だけね」


 俺達はお互いにかき氷を交換した。さっき俺は色が違うだけで味は同じと言ったが、ブルーハワイの水色のシロップがかかったかき氷は、ちょっと躊躇ってしまう。


 大体、これじゃ間接キスになるじゃないか。まさかこれを狙って……いや、昨日あれだけキツく言ったんだ。さすがに昨日の今日で忘れるはずない。だから、これは本当に交換したかっただけ。変に意識する必要もないし、この水色のかき氷も食べられる物のはず。


 俺は意を決してブルーハワイのかき氷を食べた。ガリガリとした触感以外、特徴的なものはない。かき氷が同じ味だというのは本当のようだ。食べられる見た目かそうでないかだけ。


「どうだった?」


「……同じ味だね」


「ふ~ん。舌は?」


「舌?」


「こんな風にさ」 


 花咲さんは口を開けると、少し水色になった舌を伸ばした。他人の舌を間近で見るのは初めてだったが、自分の舌よりも長い気がした。


「舌が水色になってるでしょ? かき氷って言ったら、こういう楽しみ方もあるよね」


「おぉ。水色だと分かりやすいね」


「カナタ君はどうなってる? ちゃんと水色になってるかな?」


「一口食べただけだから、そんなに変わってないと思うけど」


 俺は口を開けて花咲さんに舌を見せた。花咲さんのように舌を伸ばすのは恥ずかしいので、舌は口の中にしまってある。


「見えない。もっと近くで見せて」


「……これでどう?」


「もっと近く」


「……」


「もっと」


 言われるがままに近付いていき、気付けば目と鼻の距離。


 その距離になるまで、俺はまったく不審に思わなかった。かき氷で舌の色が変わるとはいえ、見なきゃ気がすまないほどではない。それに一口食べた程度では色がつかないのは分かりきっている。 


 それでも、花咲さんは俺の舌の色を確かめようとしていた。


 そうして俺は、花咲さんの真意に気付かず、まんまと口を近付けてしまった。


 唇に柔らかい感触。舌に絡みつく舌。またキスをされた。


 肩を掴んで花咲さんを離すと、花咲さんは曇った表情で呟いた。


「これで、最後にするから……」


 今にも泣きそうな表情を見せられ、怒ろうにも怒れない。俺は花咲さんの言葉を信じ、掴んでいた肩から手を離した。

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