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星を連れて夜は訪れる

 果てしない海へ夕陽が沈んでいく。頭上を照らしていた太陽が、夕陽となって沈み、夜が星を連れて訪れる。その中で特に美しい瞬間が今だ。沈んでいく夕陽にありもしない懐かしさを覚え、青い海が陽の光で茜色に輝く様はなんと美しい光景か。


「綺麗だね」


 花咲さんはそう呟くと、俺の隣にしゃがみ、沈む夕陽を眺めた。眺めた先にある夕陽を映す花咲さんの瞳は、夕陽に照らされた海のように輝いている。これで髪が長ければ、文句の無い美しさだ。


 そうして気付く。花咲さんの髪が、春の季節から伸びている事に。髪が伸びるのは当たり前だが、彼女は恋人の好みに合わせて短髪にしたはず。今の花咲さんの髪は、短くも長くもない中途半端。


「花咲さん。髪、切らないの?」


「どうして?」


「だって、恋人の好みに合わせて髪を切ったじゃないか。なら、そろそろ切らないと」 


「……カナタ君は、長い方がいいんでしょ」


「え?」


「美術の授業の時、長い髪の私を描いたじゃない。だから、私は髪を伸ばしてるの」


「なんだよそれ。それじゃあまるで―――」


 まるで俺の好みに合わせてるみたいじゃないか、と言いかけて止めた。その言葉こそ、花咲さんが俺に言わせたい言葉。今日は同じ宿、同じ部屋に泊まるから、言ってしまえば逃げようにも逃げらない。


 ギリギリで危機を脱した事に安堵すると、そんな俺に花咲さんは苦笑を浮かべた。


「やっぱり、おかしいよね。私って」 


「……そうだね」


「アオとはさ。昔から仲良かったし、憧れでもあった。思い出だって沢山ある。アオが望むなら、キスだって、それ以上の事だってしてあげたいし……でも、アオは未だに昔のまま。私に良い所を見せようと必死になって、私が褒めても平気なフリしてる。いつまでも純粋な子供なんだよ」


「でも、夏祭りには行くんだろ?」


「行くだけね。遊んで、解散。そんなの友達と何も変わらないよ」 


「花咲さんは言ったの? 彼に、自分の想いを」


「言ってない。でも、言わなくても分かるじゃん。友達と恋人の違いくらいさ。もう高校生なんだよ私達。いつまでも初心なままじゃないんだから」


 俺は花咲さんと距離を空けて座った。尚も変わらぬ美しさを魅せる海と夕陽の光景を眺めながら、花咲さんに話し始めた。


「ねぇ、花咲さん。花咲さんは自分以外の誰かに取られる前に、幼馴染を恋人にしたんだよね。そこに恋愛感情はあったの?」


「……分かんない」


「ならさ、確かめてみればいいよ。今度行く夏祭りの時、花咲さんが思う恋人らしい事をしてみるんだ。その時、花咲さんが何を想うか。そこに、花咲さんの不満を晴らす答えがあるはずだよ」


「……カナタ君は―――」


「俺の事はどうでもいい。考えなくていい。俺と花咲さんは友人だ。それ以上でも、それ以下でもない。友達と恋人の違いは分かってるんでしょ?」


 それから陽が沈み、夜が訪れるまで、俺達は一言も発しなかった。


 ただジッと、夜が訪れる様を眺め続けていた。 

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