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反面教師

 待てど暮らせど客は来ず、営業時間外となってバイトの初日が終了した。


「いや~、働いた働いた! じゃあ飯でも食べに行こっか!」


「トウカは何も働いてなかったじゃん……」


「昼飯買いに行ったから。これも立派な仕事。んで、二人に聞きたいんだけど。コンビニとスーパー。どっちの弁当食べたい?」 


「お弁当しか選択肢ないんだね……」


「今アタシの懐はダイエット期間中なの。弁当買ってあげるだけでも感謝しなさい」


「いや、自分の分は自分で出しますよ。金の無い人から奢られても嬉しくないので」


「ハルちゃん見てよカナタ君の優しさ! アンタもちょっとは見習ったらどう?」


「優しさじゃなくて憐れみだと思うよ?」


 結局、俺達は近くのスーパーで夜ご飯を買う事にした。スーパーに入るなり、トウカさんはカゴに六缶パックのビールを二つ入れて、花咲さんに文句を言われる前に雑誌コーナーへと逃げていった。


「本当にごめんね。昔はあんな人じゃ―――いや、昔からあんなだったかも……」


「面白い人じゃないか」


「じゃあ、カナタ君はトウカみたいな知り合いが欲しい?」


「さぁ、今晩のご飯を買いに行こう。なんか良い弁当あるかな~」


「露骨にはぐらかしたね……」


 弁当三つと割引されてた唐揚げをカゴに入れ、お菓子コーナーで明日のバイト中につまむ菓子を選んだ。


 会計を終えて車に戻ると、エンジンが点くのと同時にトウカさんが新しいタバコの箱に手を付けた。タバコを吸うなとは言わないが、未成年が一緒にいるのだから、もう少し自重してほしい。


「それじゃあ、宿の方へ向かうよ」


「……宿?」


「あれ? 他に寄りたい所があるの?」


「いえ、寄りたい所はありません。なので、家に帰していただければと」


「あれ? ちょっとハル。あんたカナタ君に言ってなかったの? 一泊二日だって」


「言うはずないでしょ。私も初耳なんだから」


「あれ~? アタシ、言い忘れてたっけ? まぁ、細かい事はどうでもいいでしょ! じゃあ改めて、出発するよー!」


 出発した車は来た道とは全く別方向へと進み、海から近い宿に停まった。状況が呑み込めないままスーパーで買った荷物を下ろすと、トウカさんに背を押されて部屋まで連れてかれた。


「じゃーん! ここがアタシらが泊まる部屋でーす!」


「「アタシら?」」


 確かに広い部屋だが、まさか俺もここで一晩過ごさせるつもりなのか? 家族でもない男女を一部屋に? 狂ってる。


 俺と花咲さんが呆然としている間に、トウカさんは袋から缶ビールを取り出すと、とんでもない傾け方で飲み始め、十秒も経たぬ内に二缶目に突入した。  


「おいコラ健全な少年少女! いつまでも突っ立ってないで、もっと騒げ! 青春は待ってくれないぞ!? ギャハハハ!!」


 俺は今日、初めて駄目な大人を見た。反面教師に関してこの人以上の逸材は存在しないだろう。


「……カナタ君。ロビーに飲食可能のテーブルがあったから、そこでご飯食べよっか」


「そうだね。そうしよう」


「あぇ? 二人して何処行くの? あ、いけないんだー!! お姉さんを無視して二人だけでクンズ―――」


 部屋の扉を閉める間際、トウカさんは何かとんでもない事を言いかけていたが、気にせず俺達はロビーへと向かった。 


 ロビーのテーブルで晩ご飯の弁当を食べ終え、近くに設置されていた自動販売機で買った飲み物を飲みながら、会話もせずに時計の針を眺めていた。あれから一時間が経とうとしているが、今部屋に戻っても、酔っぱらったトウカさんが待ってる。あと一時間は時間を潰してからじゃないと部屋には戻れない。


「……こういう時、時間って凄く長く感じるよね」


「そうだね。友達と遊んでる時とかは、あんなに早く感じるのに」


「……じゃあ、私達も遊ぶ?」


「何処で? ロビーで騒げば、宿の人に怒られるよ?」


「あるじゃん。騒いでも怒られない場所が近くに。海だよ」


「今から?」


 時刻は午後の六時。まだ陽は昇っているが、そろそろ暗くなる時間だ。


「夏の夜はそこまで暗くないよ。深夜でもなければ」


「海で何を?」 


「それは着いてから考える事じゃない。ほら、行こ!」 


 花咲さんは渋る俺の手を引き、宿を飛び出した。

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