暇潰し
青い海、波の音。白い砂浜に水着ではしゃぐ男女の群れ。
そんな人達を俺と花咲さんは、他よりも小さな海の家から眺めていた。
「お客さん、全然来ないね。こんなに海に来てるのに」
「あっち側、結構繁盛してるみたいだよ」
「なんでここにはお客さん来ないんだろう?」
「かき氷しかないからでしょ。しかもイチゴだけ」
海に着いた俺達は、この海の家の小ささに驚き、提供する料理の単一さにも驚かされた。
トウカさん曰く、去年は向こう側の海の家で商売していたが、しょっちゅうタバコ休憩で抜けていた所為で戦力外通告を受けた。この海にある海の家と呼ばれる建物は複数あり、その全てを同じグループが手分けをして担当している。戦力外通告を受けたトウカさんは、その中で一番小さくて調理器具が少ないここを任された。言ってしまえば、無いに等しい場所だ。
ここに立って三十分が経った頃、二組の客が来たが、イチゴ味のかき氷しかないメニューの乏しさに引き返していった。それから一時間が経過し、ちょうど昼時になる今もなお、信じられないくらい暇なままだ。
「もう昼時だよ。昼ご飯をかき氷だけで済ませる人なんかいないでしょ」
「分かんないよ? 海に来る人って、体型を良く見せる為に食事制限する人が多いし。かき氷だけで済ませる人がいるかも」
「それが理解出来ないんだよね。体型が気になるんだったら、水着の上にシャツ着とけばいいのに」
「カナタ君は体型が良い方なの?」
「普通なんじゃないかな? 痩せてるわけでも太ってるわけでもないし」
「ふ~ん。ねぇ、触ってみてもいい?」
「駄目に決まってるでしょ」
「あぁ、恥ずかしいんだ? プヨプヨしたお腹を知られるのが」
「……はぁ。服の上からならいいよ」
そう言った後、俺は花咲さんにのせられた事に気付いた。いつもなら軽くあしらうはずなのに。超が付くほど暇な所為だ。腹を触られるなんて、触る方も触られる方も面白くないのに、そんな事でもいいから暇を潰したい。
腹を触らせる為、花咲さんの方を向いた。言い出しっぺの花咲さんは何故か緊張している。まるで茂みから出てきた野良猫に触れようとするみたいに、おそるおそると俺の腹に手を伸ばしていく。
そうして、花咲さんは俺の腹に触れた。俺の腹を軽く撫で回しながら、自分の腹も触っている。傍から見れば、おかしな事をしてる二人だ。
「……意外と、硬いんだ」
「まぁ、部活動やってる連中よりは鍛えられてないけどね」
「……ねぇ、カナタ君。私のお腹も、触る?」
花咲さんはシャツの裾を掴むと、シャツの下の肌をさらけ出した。
俺はすぐに視線を逸らした。恥ずかしいからじゃない。恋人でもない異性の肌を見るのが、不健全だからだ。
「私のお腹は見たくもないの?」
「そうじゃない。俺達の関係で、普段隠している肌を見るのは違うからだ」
「私達の関係って?」
「友達だよ」
「友達がこんな触れ合い方するかな?」
「触ってるのは花咲さんだけだよ」
もう十分触らせたので、俺は一歩後ろへ下がった。花咲さんは少し名残惜しそうにしていたが、文句を口にする事はなかった。
特に会話も無く、時間だけが過ぎていき、気付けば午後の一時。ここの説明をしてから姿を消していたトウカさんが両手に膨らんだ袋を下げて戻ってきた。
「お二人さんお疲れ~! ちょい遅いけど、お昼にしよっか! 何が好きで嫌いか分かんないから、テキトーに買ってきたよ」
トウカさんは買ってきた昼ご飯をレジの上に並べていく。客が来る気配が無いとはいえ、レジを昼ご飯のテーブル代わりにするのはどうなんだろう。というか、かき氷が一つも売れない現状、果たして俺達にバイト代があるんだろうか。
「それで? 二人はどういう繋がりなのさ」
「同級生だよ。高校からの」
「へぇー。それなのに、もうそんなに仲良しなんだ。怪しい関係だね~!」
「何も怪しくありません。それから今のうちにハッキリさせておきたいんですが、バイト代って出るんですか?」
「もちのロンよ! 他よりも少ないとはいえ、グループのリーダーからお金は貰ってるから」
「それって、材料費とかに使うお金じゃないの?」
「大丈夫大丈夫! かき氷機は家で埃被ってたやつだし、氷は水を凍らせただけだし。だから貰ったお金は一円たりとも使ってない。三人で山分けしようね!」
コンビニのホットスナックを齧りながら、トウカさんは笑顔で俺達に約束した。でも、これって横領にならないのかな?
「とにかく、こっちの事情は気にしなくていいよ。二人はのんびりここから海を眺めてるだけでいいから。こんなに楽なバイト、他じゃ無いからね?」
「楽と言えば楽だけど、ただ暇なだけだよ……」
「そういえば、トウカさん。今まで何処に行ってたんですか?」
「え? タバコ休憩」
「「……」」
この人、戦力外通告どころか、出禁でいいんじゃないか?




