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ラーメン

 花咲さんにキスをされた。それだけでも大変な事だが、一番の問題は花咲さんには恋人がいる。これは大惨事案件。到底一人では解決出来ない苦境に立たされた俺は、タケシとリンをラーメン屋に招集した。


「三人でラーメン屋って。なんだか中学の頃を思い出すな!」


「なんでタケシ先輩まで……」


「お前は相変わらず俺にだけツンツンしてんな! たまにはデレてくれても良いんだぜ!」


「ウザい……」 


「カナタ~! 後輩が一向に俺の事を好きになってくれないよ~! こんなにも頼り甲斐がある先輩なのに~!」


「カナタ先輩の隣は僕だけのものです! タケシ先輩はそっちの方で一人寂しく麺啜っててくださいよ!」


 二人共、頼むから静かにしてくれ。今は夜の十九時なんだ。いや時間は関係なく、常識的に考えて外で家にいるテンションで騒ぐのはやめてほしい。というか家でもこんな騒がないでほしい。あと―――おっと、いかんいかん。いちいちツッコミを入れては、二人を呼んだ意味が無い。


 一旦二人の頭を叩き、俺はメニュー表をテーブルの上に広げながら相談を切り出した。


「二人共、突然誘って悪かったな」


「ヘヘッ! よせやい水臭い! 俺達、もう親友を超えて……その……恋人、みたいな仲じゃないか……!」


「キモッ。僕はカナタ先輩の為なら、二十四時間何処にでも駆け付けますから!」


「うん。誘った俺が言うのもなんだけど、本当にすぐに駆け付けたな。連絡して三分以内に来るのは怖いぞ」 


「お前から連絡が来る気配がしてな」


「カナタ先輩からお誘いされる気配がして」


「気持ち悪いなお前ら。とりあえず頼む物決めるぞ。俺は醤油。タケシは味噌で、リンはチャーシュー麵で良いよな?」


「「……好き」」 


「本当に変わらんな、俺達」


 店員を呼び、全員分のラーメンと、餃子を二つ頼んだ。どうせラーメンを食い進めると、二人が追加で餃子を頼む。後から頼むのは面倒なので、最初の内に頼んでおく。


 注文した物がテーブルに並べられ、俺達は食べ始めた。いつもうるさいくらい喋るタケシは、食事中は一切喋らない。リンはチャーシューを麺の下に沈ませ、最後に食べる。餃子にはタケシが醤油に酢で、リンは醤油に胡椒。二人が共通しているのは、全て食べ終わった後に水を一気に飲み干す。


 本当に変わらない。外見は中学の頃から成長しているが、こういう細かい所はあの頃のままだ。大人になっても、たまにこうして三人で集まって食事をしたい。


 どれだけ時が経っても、俺達ならきっと、何一つ変わらないんだろうな―――


「―――って違う!!!」


「「ブフッ!? エホッ、エホッ!!」」


「お前らに相談したい事があるんだ! その相談ってのは……えっと……とある友達の話なんだけどさ」 


「なんか仲介業者みてぇだな」


「……キス、されたんだ」


「カナタ先輩キスしたんですか!?」


「だから俺じゃない! 友達の話だ! あとキスしたんじゃなくて、キスされたんだ!」


「そうですかそうですか!! それで? カナタ先輩の、お友達は、どうしてその事で悩んでいるんですか?」


「……相手には恋人がいる」


 二人は無言で箸を置くと、頭を抱えてため息を吐いた。


「……お前、やっちまったな」


「俺じゃない。俺の友達の話だ」


「……架空の友達に置き換えるなんて嘘のつき方、よくありますよ」


「……ごめん、俺です。どうしよう?」


「どうもこうもねぇ! 今すぐその子の家に行って謝るぞ! 俺もついていってやる!」


「待ってください。カナタ先輩は確かに僕以外と接吻を交わすという禁忌を犯しました。しかし今重要視すべき点は、したのではなく、された。つまりカナタ先輩が被害者です。なので謝りに行くのではなく、殴り込みに行きましょう。誰の物に唾をつけたのか後悔させてやりますよ」


「なるほど。よし!」


「よし、じゃない。やめて? 俺は相談したいだけで、復讐をお願いしたいわけじゃないから。あといつから俺はリンの物になったんだ」


「毎日一緒に帰ってるのに!?」


「お前の物になる条件軽過ぎだろ」


 厨房の店主がジッと俺らの席を見てる。流石に騒ぎ過ぎたか。相談の続きは店を出た後にして、まずはラーメンを食べよう。


 ラーメン屋から出た後、会計時に貰ったミントガムを噛みながら歩いた。腕に引っ付くリンの力がいつもより強い。頬を膨らませているが、よっぽど俺がキスされた事に怒ってるんだな。なんでリンが怒る必要があるかは分からないけど。


「それで? 結局どうすんだ? 悩んでるって事は、キスしてきた女子とよく会うんだろ?」


「……相談受けてもらってなんだけど、やっぱり自分自身で解決するよ。それでやっぱり駄目そうなら、改めてお前らに相談する」


「お前がそれでいいならいいけど。リンもそれでいいか?」


「喉元噛み千切ってやりたい……!」


「え、コワッ……」


 今思えば、あれは事故だったのかもしれない。


 俺をからかうつもりが、勢い余ってキスをしてしまった。


 この説でいこう。

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