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トンネルを抜けた先

 ひとしきり楽しんだ遊園地を後にし、俺達は再び道を進んだ。何処にも分かれない一本道を進んでいくと、トンネルがあった。トンネル入り口前には立ち入り禁止の立て看板やロープがあるが、看板は文字が欠け、ロープはたるんで意味を成していない。


「トンネル。暗いね」


「むしろ明かりが点いてた方が怖いよ」  


「私は、暗い方が怖い……」


 花咲さんは俺に体を寄せると、スルリと手を絡めてきた。その手を引っ張っていくようにしてトンネルへと足を踏み入れた。


 トンネルの中は真っ暗。無音の空間は深海のように圧迫感があり、互いの手の感触だけが頼り。明かりを灯す物が無い現状、この手を離せばたちまちパニックに陥るだろう。


「ねぇ、カナタ君……」


 酷く弱弱しい花咲さんの声がする。呟くような声量だが、トンネルの中にいる所為でよく聞こえた。


「この先に、何があるんだろうね……」


「さぁ。廃墟が並んでるか、また何も無い一本道か」


「そういう事じゃなくて……ここから出たって、何の意味も無いよ」


「……今更だね。ここまでついてきて、今更嫌になったの?」


「……私はね、カナタ君。カナタ君が私を道連れにするのなら、喜んで心中するよ。カナタ君が私と生きたいのなら、それも喜んで受け入れる。私が心配なのは、結論を無かった事にし続けてる事。ここまでの間、カナタ君はもうどうしたいのか答えは出てるよね?」


「……分かんないんだ。死にたくないから生きたいって、それは死から逃げたいって事。生きる理由じゃない。これを理由にしては、いずれ身も心も疲弊した時、俺は呆気なく死ぬ。花咲さんの生きる理由は何?」


「……考えた事も無いよ。親の言われた通りに生きてきた私には、自分で決めた生きる理由なんか持ってなかった。今は、カナタ君が生きる理由」


「でも、それは結局他人が理由じゃないか。自分で決めた理由じゃない」


「私、思うんだ。自分自身で決めた事って、結局は他人がキッカケだったりするんじゃないかって。一見自分本位な理由でも、深く追求していけば、それはきっと誰かの為なんだよ」


 その言葉を聞き、俺は何も反論出来なくなった。腑に落ちたんだ。結局人間は、完全な個人になれない。例え今はいなくとも、誰かが必ず存在する。酷い親のようにならないように生きる子供のように。


 俺達は独りじゃない。必ず誰かがいる。


 姿は見えずとも、名前を知らずとも、今世で会えずとも。


 孤独という文字はあっても、真に孤独な人間などいない。


 花咲さんの手を離さぬよう進み続け、やがてトンネルを抜けると、俺達を待っていた景色は意外なものだった。


 雪は欠けらも無く、緑が生い茂り、空は青く、吹く風は心なしか暖か。まるで冬の季節を飛び越したかのように、目に映る全てが温かさで一杯だった。


 信じられない。ここだけ雪が降らなかったのはまだしも、こんなにも緑が生き生きとして、空が済んでいるなんて。今の季節からでは、到底信じらない光景だ。夢、あるいは幻を見ているのだろうか。


 花咲さんの様子をうかがうと、俺同様、目の前に広がる季節外れの景色に驚いていた。ただ俺と違うのは、この景色を見て覚えたのが、恐怖や奇妙ではなく、ただひたすらに歓喜している。


「信じられない……今が冬だなんて、忘れちゃう」


「……こういう場所も、あるんだろうね」


「そうなんだ……ねぇ、カナタ君」


「……なに?」


「生きる理由。もう一つ出来た。私には、知らない事が沢山ある。それを知っていきたい。叶うなら、カナタ君と一緒に」


「……そうだね。一緒に、いこう」


 花咲さんは俺の返答を嬉しそうに噛み締めると、先にトンネルから出た。繋いでいた手は、必然的に離れていく。


 花咲さんは生きる理由を見つけた。そして一歩前に進んだ。


 俺は未だ分からずにいる。


 俺はまだ、暗いトンネルの中をただ進んでる。

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