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過去の遺物

 朝になり、車から出ると、辺り一面真っ白になっていた。昨日まで地面に薄く積もっていた雪が、今は足首まで積もっている。


「積もったなー。花咲さんのは大丈夫だけど、俺の靴だと濡れて―――ブフォッ!?」


 殴られた? いや、にしては痛みよりも冷たさが強い。


 見ると、花咲さんが足元の雪を丸めていた。


「顔はやめてよ。冷たくて痛いじゃん」


「雪玉作るのだって、手が冷たくなるんだよ?」


「なにさ、その反論……」

         

「出来た! さっきより固めておいたから痛いよ~! そりゃ!」


 さっきは死角からだったので当てられたが、こうして正面から投げられると避けるのは簡単だ。ただ、それだと面白くないのでキャッチした。同じサイズのボールを捕るのとは違い、冷たい雪玉だと痛みがある。   


「おぉ。確かに固いな」


「なんで捕るの。喰らってよ」


「理不尽だね。映画でこんな台詞がある。撃っていいのは、撃たれる覚悟がある奴だけ」


「ぼ、暴力反対!」


「大丈夫大丈夫。そのコート厚いから」


「理由になってない! 逃げろー!」


 花咲さんは背を向けて逃げ出した。捨て台詞といい、両手を上げて逃げたのといい、ベタなやられ役だな。真っ直ぐ逃げてるおかげで、こっちも真っ直ぐ投げるだけで当たる。


 そうして花咲さんの背を目掛けて軽めに雪玉を投げた。見事雪玉が花咲さんの背に当たると「グハッ!」と声を上げて倒れた。エキストラだってもっとマシな演技をするぞ。


 倒れたままの花咲さんに歩み寄ると、不意に花咲さんが一握りしただけの雪を俺に投げてきた。命中した雪は音も立てず、粉々になって積もった雪のもとへ戻った。


「お互いさ、雪合戦ではしゃぐ歳じゃないでしょ」


「私は楽しいよ?」


「俺は全然」


「次は何しよっか? 雪だるま作る? かまくら?」


「……じゃあ、あれやるか」


「あれって?」


「ちょっとお体失礼」


「イヤン! 何す―――え、ほんとに何する気?」


 花咲さんの足首を脇に抱え、そのまま歩き始めた。成人男性ならともかく、女性、しかも痩せ型の花咲さんを引き摺って行くのは簡単だ。むしろ軽過ぎて、もっと重量が欲しいくらいだ。


「ねぇ、カナタ君。これ、何が楽しいの……?」


「雪山殺人鬼ごっこ」


「随分マイナーな遊びだね……」


「そんな事より、花咲さんって体重いくつ? 大分軽いよ?」


「あー、聞いちゃいけない質問だ! 女の子に体重聞くなんて失礼だよ? 女の子はちょっとの事で落ち込むほどシャイなんだから!」

  

「平然と引き摺られてる女の子が何か言ってるな」


「そうだね。そろそろ引き摺るの止めてほしいかな」


 抱えていた足を離すと、花咲さんが背中に飛び込んできた。足首まで積もった雪と不意打ち気味で来たからバランスを崩しそうになったが、何とか堪える事が出来た。


「おぉ、男の子。それじゃこのまま、出発!」


「……はいはい」


 花咲さんをおんぶしながら道を進んでいくと、建物が見え始めた。建物といっても、どれも廃屋で崩れている。荒れ具合からして、十年以上は余裕で経っているように見えた。強風や積雪でボロボロになった廃屋達は、本来の姿を想像出来ない程にボロボロだ。点在する所からして、元は町か村だったのだろう。


 更に進んでいくと、錆びた柵で囲まれた小さな遊園地が残されていた。遊園地と判断出来たのは、観覧車があったおかげ。その観覧車も、乗る場所が一つ残らず無くなっている事から、既に観覧車として意味を成していなかった。


「遊園地だ。こんな所にあるなんて……ねぇ、ちょっと入ってみない?」


「入ってどうすんの? ロクな物残ってないよ、きっと」


「何か一つくらい原型を保ってる乗り物があるかもしれないじゃん。ほら、出発!」


「はいはい。了解しました指揮官殿」


 遊園地の中に入ると、予想通り何も無い。あるにはあるが、やはりどれも壊れている。


 やはり何も無いと諦めかけた時、メリーゴーランドがあった。ほとんど無くなっているが、ちょうど二頭の馬がそのまま残されていた。


 花咲さんが背から降りると、真っ直ぐメリーゴーランドの馬に跨り、俺に隣の馬に座るように手招きした。跨ってみると、予想よりしっかりとしていた。


 しかし、当たり前の事だが動かない。メリーゴーランドは回るからメリーゴーランドであって、これではただ馬の形を模した乗り物に跨ってるだけだ。


「これ、何年前まで営業してたんだろう?」


「俺らが小さい頃、もしくは産まれてない頃かもね。金に物を言わせて作るだけ作る時代があったじゃん。あの時じゃない?」


「バブルってやつ? だったらもっと大きい遊園地を造るでしょ」


「そっか。そうだね」


 かつてはここにも人がいたのだろうか。楽しそうに笑う子供がいて、それを見守る親がいて。それが今じゃ、この有り様だ。綺麗サッパリ無くなれば良かったが、半端に残されている。こういう場所が、色んな所にあるんだろうな。


「……なんか、遊園地行きたくなっちゃった」


「……そうだね」


 取り返しのつかない人の命と違って、壊れた物はまた作ればいい。


 それはそうかもしれないが、この場所に居ると、それがあまりにも身勝手な言葉に思えてならない。人の命と同様に、物も大切に扱うべきだ。

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