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生と死の狭間

 ハンバーグ・ステーキ・ナポリタン。とにかく味の濃い物と量が欲しくて頼んだ三品。ジュージューと肉が焼ける音と、濃い味を期待させてくれる臭い。ソースを味わうパスタと違ってケチャップとチーズのゴチャゴチャさを楽しむナポリタン。


「これはご馳走だ! 流動食ばっかだったから、感動ものだよ!」


「こんなに食べれる?」


「無理にでも胃に押し込むさ。デザートも頼む気だからな」


「ようやく戻ってきたと思ったら大食いして。今まで何処で何してたの?」


「言ったろ。面倒ごとに巻き込まれてたって。狂った女に監禁されたと思ったら、メンタルケアの先生やらされて、挙句は見届け人さ」


「それでその頭の怪我をしたわけね。また後頭部に傷が入ったのね。一度病院に診せた方が良いんじゃない?」


「この手当てしたのが監禁した看護師。そんでその看護師がアオを殺したってわけだ」


「まさかアオが本当に死ぬなんてね。遅かれ早かれと思ってたけど、いざ実際に死なれると、ちょっとズキッとするね」


 そう言う割りに、随分とニコやかな笑顔だ。アオは女性を惹き付ける魔力があれど、花咲さんにはちっとも効いていなかったようだな。元々、狂った親が決めた相手同士だったから、心の中で反発しあっていたのだろう。


「私さ。親の縛りが無くなって、ようやく自由になれたと思ってたんだ。自由に生きて、自由に好きな人を選んで、本当の幸せを手に入れられるって。でも私が選んだ男の子は、手を掴んだと思ったらすり抜けていく透明人間。諦めて別の人を好きになろうにも、その人に心を奪われたまま」


「それって誰さ?」


「意地悪な返し。でも、こうしてまた一緒にいられて嬉しい」


 頬杖ついて微笑む花咲さん。そんな花咲さんに、俺は一つ聞いてみる事にした。


「花咲さんってさ、俺のどういう所が好きなの?」


「え? そうね……上手く言葉に出来るか怪しいけど、私を見てくれる所かな」


「見てくれる?」


「カナタ君って、ずっと前から私の事を見ていたじゃない。去年の春から、ずっと。一つの作品として愛してるって言われた時は、ちょっとショックだったけど、今となってはショックを受けていた事が信じられない。どういう理由であれ、好きな人に見られるのは嬉しい事だって。私とカナタ君の間に境界線はあっても、私達はいつも見つめ合ってる。それは恋人になる事よりも、ずっと尊いもの」


「……俺は分かんなくなったよ。自分がどうしたいのか。何を目標にしているのか。歩んできた道も。全部、分からなくなった……」


 最初こそハンバーグやステーキやナポリタンの味を噛み締めながら食べていたが、今ではただ食べてるだけ。空腹を満たす為に食べてるに過ぎない。それが普通な事であっても、その過程に何も無ければ、疑問が浮かんでしまう。その疑問が勝手に絡んでいって、もう二度と解けない程に滅茶苦茶になる。


 腹を満たしても、心が満たされない。人生に面白みを見い出せない。人間である意味を失っている。


 食べ終わった食器を脇に寄せ、水を飲み、紙ナプキンで口を拭いてから本題に入った。


「花咲さん。少しの間、俺に付き合ってくれない?」  


「え……で、でもリンちゃんが―――」


「俺さ。生きたいのか、死にたいのか。もう分かんないんだ」


「……どうして私に?」


「俺にとっての原動力が花咲さんだから。リンを心から愛しているのに、どうしてか花咲さんがいないと駄目なんだ。こうして今、花咲さんと一緒にいて、確信した。俺という人間が存在してるのは、花咲さんがいる時だけ。花咲さんがいなければ、生きてるのか死んでるのかもハッキリしない」


「……いいよ。カナタ君が私を必要としてくれるのなら、何だって付き合う」


 花咲さんは笑った。でもその笑顔は、嬉しいから笑ったとは違う。そうせざるをえないから、笑ったんだ。


 花咲さんは気付いている。俺が今、生と死の狭間に立っている事を。


 そして自分次第で、どちらにでも傾く事を。

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