帰路
歩いても歩いても見知らぬ道。民家は無く、車の通りも無い。携帯は充電切れ。
外へ出れたのはいいが、これでは状況を打破したとは言い切れない。車で移動中に外の景色を眺めていたけど、だからといって帰れるわけじゃない。寒さと一文無しな事からして、動けるのは二日。それ以降は野垂れ死にだ。
「リン、怒るよな~」
こうして歩き続けている理由が花咲さんな事は黙っていよう。
そもそも、今どうなってるんだろう。監禁されて今日に至るまで掛かった日数が分からない。一週間程度なら、そんなに大きく騒がれていないんじゃないかな。二週間とかになると、然るべき場所に連絡をされてると思うけど。でも水瀬さんの死に際の言葉から察するに、騒がれてるんだろうな。
しばらく歩き続けていくと、ようやく建物が点々と存在するようになった。訪ねて電話を借りればすぐに済むが、どうも不在のよう。楽をするなと言われてるようだ。
暗くなり、雪が降り始めた頃。ようやく見知った道まで戻ってこれた。ここまで来れば日を跨ぐ前に家に着きそうだ。
「あ」
「あ……」
ちょうど曲がり角で、花咲さんと出くわした。着ている暖かそうなコートに見覚えがある。いつかの買い物付き合いで買った物だろうか。
「久しぶり。見知った顔を見れてホッとしたよ」
「……カナタ君」
「まぁ、いつもの事ながら面倒ごとに巻き込まれてさ。やっぱり厄年なのかな?」
「……カナタ君だ」
「それ二度目。そんなに変わってないでしょ? 鏡見てないけど」
花咲さんは恐る恐る俺の頬に手を伸ばし、感触を確かめた後、勢いよく胸に抱き着いてきた。
「なんでそんなに平気でいるの……! なんでいつも危ない目に遭ってるの……!」
「だから厄年―――」
「うるさい!! 色んな人を心配にさせてさ、そのくせ自分は飄々として……! 心配……してたんだよ……!?」
「……アオってさ。生きてたり、するよな?」
「……」
「だよな……そう、なんだよな……」
花咲さんを強く抱きしめた。寒かったからか、胸の奥から温まる感覚が全身に広がっていく。忘れてた人の温もりだ。自分で自分を抱きしめて寒さを凌ぐのとは、やっぱり違うな。
すると、腹の音が鳴った。安心したおかげで、俺の体が正常に戻ったようだ。
「腹減った。花咲さん、財布持ってる?」
「……何でも奢ってあげるよ」
「ごめんね。今度ちゃんと返すから」
「いいよ、返さなくて。元を辿れば、財布の中身はカナタ君の家のお金だし……」
「じゃあ遠慮なく頼ませてもらうよ」
「あ、えっと、でも、上限があるからね? その上限をちょうど良い感じで使い尽くさないようにっていうか」
「元を辿れば俺の家の金だろ?」
「そりゃそうだけど。私の、お小遣いだし……」
「ケチ言うなよ。久しぶりの再会だぞ? 財布の紐を緩める絶好の機会じゃないか」
「……そうだよね。今日は荒遣いしちゃおっかな!」
「そうこなくっちゃ。で、いつ離れてくれるの?」
「んん~?」
最初こそ花咲さんの温もりで暖を取っていたが、段々と窮屈に感じてきた。手で離そうとしたが、力負けしてしまっている。マトモな食事も摂れず、監禁生活が続いた弊害だ。
「花咲さん」
「もうちょっといいじゃない。久しぶりにカナタ君を抱きしめてるんだから。本当に、久しぶり……本当に」
「……なぁ、俺ってどれくらい行方不明になってたんだ?」
「ほぼ一ヵ月。もう十二月になるよ」
「一ヵ月……一ヵ月か……」
「知らなかったの? 厄介ごとに巻き込まれてたって、一体どうしてたのよ?」
「ちゃんと話すよ、ご飯食べながら。もうとにかく行こう。この際、抱きしめたままでいいから」
「やった! じゃあ、いつものファミレス行こうね!」
そうして花咲さんは離れると、今度は腕に抱き着いてきた。
一ヵ月か。やっぱり狂ってたんだな、色々と。




